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第四章
心の命じるままに
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「なぜその亜人は、事実を語り、英雄となる道を選ばなかったのじゃ」
ダーは抱いた疑問を、そのまま口に乗せた。
青龍は複雑そうな顔つきをして応える。
「それは四勇者のひとりが、当時、世継が不在であったヴァルシパル王家の長女を娶り、この国の跡継ぎとなったからだ。以来、この国は二百年前の屈辱を味わった勇者の血筋を引くものが代々、王を務めているというわけよ。さぞかし亜人に対して心中穏やかならぬものがあっただろう」
「なるほどのう……」
ダーは大いに頷いた。王家のものを敵に回しては勝ち目がない。下手にその亜人が真実を告げようものなら、一方的に嘘つきとして断罪され、処刑されてしまうかもしれぬ。
黙るしかないではないか。
「それでつながったわい。国王がワシらを目の仇にするわけが」
現ヴァルシパル国王としては、魔王討伐チームに亜人を加えたくないのが本音だろう。しかし、それでは世界を救う可能性を狭めてしまう事にも繋がる。
そこで、せめてもの腹いせが、あの差別待遇ではないか。
「……思えば、あれからワシの戦いがはじまったといっていい……謁見の間の屈辱……エクセの勧誘……オークとの戦い……」
そこまで小声でつぶやいていたダーはハッと我に返り、
「そうじゃ、エクセ=リアン、そしてワシの仲間は無事かのう?」
「いまのところはな……だが、じきに」
「じきにもニキビもあるか! すぐにワシを地上に戻すんじゃ!」
「やっぱり騒ぎ出したの。仕方ない。地上のようすを見せてやろうか」
青龍はとん、と足踏みひとつした。
やがて、足許の雲が晴れていき、地上の様子が映し出される。
足許が雲であるのだから、かなりの高度からの景色が見えるのかと思いきや、視点はかなり近かった。異世界勇者が現われ、化物どもを一掃していく様子が克明に見える。
やはり異世界勇者の力は圧倒的じゃな、とダーが思っていると、状況が一変した。
魔族の女がそそのかしたのだろうか。異世界勇者同士が殺しあっているではないか。
しかも情勢は、かなり3勇者の方が不利だ。
「あの男は……謁見の間におった、あのビクビクした若者か?」
青龍と朱雀は静かに頷いた。
ダーはヤマダのあまりな変貌振りに言葉もない。
ハーデラの魔石の力と、勇者の装備の組み合わせは圧倒的な破壊力をもたらした。
次々とヤマダがくりだす黒魔法に、3勇者はなすすべもなく蹂躙されている。
他の冒険者は、とても割ってはいる余地もない。
いや、このまま勇者達が敗れれば、ザラマや彼の仲間が危険に晒されるのだ。
「このままではいかん、ワシを早く地上へ降ろすんじゃ!!」
ダーは焦りの色を浮かべて叫んだ。
「ダーよ、おぬしが向ったところで何になる。おぬしより圧倒的な力を持っている異世界勇者すらかなわぬ相手だぞ。むざと死ににいくようなものだ」
「ワシらドワーフは短躯じゃ。そして異世界勇者のごとき力もない。だが、この世界を救いたいという、誰にも負けぬ思いがある。」
「あの場でヤマダに討ち取られ、朽ち果てて、その意思が貫けるのか」
ダーは沈黙した。腕組みをして、なんと返答をすべきか迷っていた。
世界を救いたい。その気持ちにうそはない。
だが、危機的状況にある仲間を救わずして、何を救えるのか。
ダーは口を開いた。
「ワシはダー・ヤーケンウッフ。父からは誇りを忘れるなと教えを受けて育った。その教えに背くような生き方はできぬ。仲間を見殺しにするという選択肢はない」
青龍は破顔した。朱雀も口許を押さえて笑う。
「ダーよ。われらも、世界を救済したにも関らず、不遇な生活を余儀なくされる亜人を見て、罪悪感を抱かなかったわけではない。せめて一つなりと何か見返りを与えておきたくてな。なにか望みはないかと尋ねた」
「して、その亜人の返答は?」
「もし、再び世界の危機が迫った時、自分のように力なく、しかし誰よりもこの世界を救いたいという熱き思いを抱く者が現われたなら、その者に力を貸してやって欲しい。それが望みだと」
「立派な人物じゃな……」
「我等はその言に従う。ダーよ。おぬしの気迫は伝わった。強き意思を持たぬものに、力を貸す必要性がないからな。――この青龍、おぬしに力を貸そう」
「――この朱雀も同様ですわ」
「その盟約が果たされるときがきたのならば――」
「――我らも静観してはいられんな」
ダーの背後から声がした。ふりむくと、姿形の明瞭としない何かがそこにあった。
徐々に、おぼろげだった姿ははっきりとした輪郭をなしていく。
ダーがひとつ瞬きする間に、白い着流し姿に、岩のようにごつい筋肉を有した男が立っていた。
精悍というより、むしろ獰猛そうな笑みを浮かべたその着流しの男は、ダーへ向かって拳を突きつけて見せる。
「俺は四神が一、白虎。お前に力を貸そう」
さらにもうひとり、緑の漢服を着た長身の男が中空より出現する。
しゃんと背筋を伸ばし、誠実そうな顔をしたその男は、静かなる泉を思わせる瞳をダーへ向け、
「私は四神が一、玄武。貴殿に力を貸そう」と言った。
「さあ、ダーよ、おぬしはいま四神の加護を手にした。命ずるがいい、己の心のおもむくがままに」
――ダーは、念じた。
ダーは抱いた疑問を、そのまま口に乗せた。
青龍は複雑そうな顔つきをして応える。
「それは四勇者のひとりが、当時、世継が不在であったヴァルシパル王家の長女を娶り、この国の跡継ぎとなったからだ。以来、この国は二百年前の屈辱を味わった勇者の血筋を引くものが代々、王を務めているというわけよ。さぞかし亜人に対して心中穏やかならぬものがあっただろう」
「なるほどのう……」
ダーは大いに頷いた。王家のものを敵に回しては勝ち目がない。下手にその亜人が真実を告げようものなら、一方的に嘘つきとして断罪され、処刑されてしまうかもしれぬ。
黙るしかないではないか。
「それでつながったわい。国王がワシらを目の仇にするわけが」
現ヴァルシパル国王としては、魔王討伐チームに亜人を加えたくないのが本音だろう。しかし、それでは世界を救う可能性を狭めてしまう事にも繋がる。
そこで、せめてもの腹いせが、あの差別待遇ではないか。
「……思えば、あれからワシの戦いがはじまったといっていい……謁見の間の屈辱……エクセの勧誘……オークとの戦い……」
そこまで小声でつぶやいていたダーはハッと我に返り、
「そうじゃ、エクセ=リアン、そしてワシの仲間は無事かのう?」
「いまのところはな……だが、じきに」
「じきにもニキビもあるか! すぐにワシを地上に戻すんじゃ!」
「やっぱり騒ぎ出したの。仕方ない。地上のようすを見せてやろうか」
青龍はとん、と足踏みひとつした。
やがて、足許の雲が晴れていき、地上の様子が映し出される。
足許が雲であるのだから、かなりの高度からの景色が見えるのかと思いきや、視点はかなり近かった。異世界勇者が現われ、化物どもを一掃していく様子が克明に見える。
やはり異世界勇者の力は圧倒的じゃな、とダーが思っていると、状況が一変した。
魔族の女がそそのかしたのだろうか。異世界勇者同士が殺しあっているではないか。
しかも情勢は、かなり3勇者の方が不利だ。
「あの男は……謁見の間におった、あのビクビクした若者か?」
青龍と朱雀は静かに頷いた。
ダーはヤマダのあまりな変貌振りに言葉もない。
ハーデラの魔石の力と、勇者の装備の組み合わせは圧倒的な破壊力をもたらした。
次々とヤマダがくりだす黒魔法に、3勇者はなすすべもなく蹂躙されている。
他の冒険者は、とても割ってはいる余地もない。
いや、このまま勇者達が敗れれば、ザラマや彼の仲間が危険に晒されるのだ。
「このままではいかん、ワシを早く地上へ降ろすんじゃ!!」
ダーは焦りの色を浮かべて叫んだ。
「ダーよ、おぬしが向ったところで何になる。おぬしより圧倒的な力を持っている異世界勇者すらかなわぬ相手だぞ。むざと死ににいくようなものだ」
「ワシらドワーフは短躯じゃ。そして異世界勇者のごとき力もない。だが、この世界を救いたいという、誰にも負けぬ思いがある。」
「あの場でヤマダに討ち取られ、朽ち果てて、その意思が貫けるのか」
ダーは沈黙した。腕組みをして、なんと返答をすべきか迷っていた。
世界を救いたい。その気持ちにうそはない。
だが、危機的状況にある仲間を救わずして、何を救えるのか。
ダーは口を開いた。
「ワシはダー・ヤーケンウッフ。父からは誇りを忘れるなと教えを受けて育った。その教えに背くような生き方はできぬ。仲間を見殺しにするという選択肢はない」
青龍は破顔した。朱雀も口許を押さえて笑う。
「ダーよ。われらも、世界を救済したにも関らず、不遇な生活を余儀なくされる亜人を見て、罪悪感を抱かなかったわけではない。せめて一つなりと何か見返りを与えておきたくてな。なにか望みはないかと尋ねた」
「して、その亜人の返答は?」
「もし、再び世界の危機が迫った時、自分のように力なく、しかし誰よりもこの世界を救いたいという熱き思いを抱く者が現われたなら、その者に力を貸してやって欲しい。それが望みだと」
「立派な人物じゃな……」
「我等はその言に従う。ダーよ。おぬしの気迫は伝わった。強き意思を持たぬものに、力を貸す必要性がないからな。――この青龍、おぬしに力を貸そう」
「――この朱雀も同様ですわ」
「その盟約が果たされるときがきたのならば――」
「――我らも静観してはいられんな」
ダーの背後から声がした。ふりむくと、姿形の明瞭としない何かがそこにあった。
徐々に、おぼろげだった姿ははっきりとした輪郭をなしていく。
ダーがひとつ瞬きする間に、白い着流し姿に、岩のようにごつい筋肉を有した男が立っていた。
精悍というより、むしろ獰猛そうな笑みを浮かべたその着流しの男は、ダーへ向かって拳を突きつけて見せる。
「俺は四神が一、白虎。お前に力を貸そう」
さらにもうひとり、緑の漢服を着た長身の男が中空より出現する。
しゃんと背筋を伸ばし、誠実そうな顔をしたその男は、静かなる泉を思わせる瞳をダーへ向け、
「私は四神が一、玄武。貴殿に力を貸そう」と言った。
「さあ、ダーよ、おぬしはいま四神の加護を手にした。命ずるがいい、己の心のおもむくがままに」
――ダーは、念じた。
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