1 / 146
第一章
ドワーフ、異世界召還に憤然とするのこと
しおりを挟む
ドワーフは激怒した。
そのドワーフは限りなく怒っていた。
ドワーフという種族は、短躯である。
腕力が強く、長寿で、若年からもっさり髭になるのが特徴だ。
さらに手先が器用で、細工物を得意とする。
店に出回っているアクセサリーは、ほとんどがドワーフの手によるものだ。
そんなドワーフ族には、共通するある思いがあった。
「――これほどドワーフはすごいんだ!」
という痛切な心の叫びである。
亜人であるドワーフ族は、人間から良い扱いを受けているとは言い難かった。
ヴァルシパル王国の現国王は、亜人嫌いとして有名だったからだ。
ドワーフ族は、いつか自分たちが脚光を浴びる日が来ると信じていた。
その日の到来をただひたすら渇望し、耐えがたきを耐え忍んできたのだ。
そんなある日のことである。
とある1人のドワーフに、ヴァルシパル王国からの招待状が届いた。
『国家の危機に貴殿の力が借りたい』とある。
むろん彼は快哉を叫んだ。
ついにドワーフ族が、世の役に立つ日がきたと思ったのだ。
そのドワーフは、父の墓前で、両手を合わせた。
『常に誇り高くあれ。どのような扱いを受けても、ドワーフは前を向け』
いつもそう言っていた父。――見ていてくれ。
その男。「地摺り旋風斧」なる、一子相伝の技の継承者にして、当代一の頑固者。
彼の名は、ダー・ヤーケンウッフといった。
ところが、どうだ。
そこは、ヴァルシパル王城の広大な謁見の間。
その奥中央に鎮座する、豪奢な細工が施された玉座に、国王が座っている。
両脇には、護衛の完全武装した騎士が、四方を睥睨するように佇立している。
さらにその両脇には、腹心の配下とおぼしき数人の男たちがいる。
そして、王の目の前には、赤いカーペットが敷かれ、その上に異世界召還されたという4人の青年たちが立っていた……。
「よくぞ参られた勇者たちよ、君らを招いたのは他でもない――」
ドワーフは謁見の間の冷たい壁際に、べったりはりつくように立っていた。
むろん、好きでこうしているわけではない。そうするように指示されたのだ。
この扱いの差はなんだ、とそのドワーフは思った。
さて、国王の話はありきたりだった。世界の危機が目前に迫っている。
魔王軍が勢力を増し、隣国はすでに魔族の攻勢で壊滅状態という。
魔族は神々の中で、混沌を支配するというハーデラ神が創った一族とされる。彼らはひたすら破壊の衝動のまま行動し、常に人族とは敵対関係にあった。
敵を退け、世界の秩序をとりもどす。
それはいい。当たり前のことだ。
だが、それを他の世界からきたよそ者どもに頼って、解決してもらおうという他力本願は何だろうか。
彼のほかにも、エルフの弓使い。ノームの僧侶、ハーフ・ハーフのシーフなど多様な亜人が呼ばれていたが、彼同様、べったり壁際に並べられて配置させられていた。
さながら天国と地獄が同居しているようなものだ。ドワーフは苦々しく考えた。
「――いささか、居心地が悪いですね」
苦笑いを浮かべて、エルフの弓使いが話しかけてきた。
ダーは怒りをまぎらわすため、彼と会話することにした。彼から得た情報は有益なものだった。
まず、現国王が亜人差別主義者ということ。それくらいは彼も知っている。
しかし古よりの伝承では、世界が魔の勢力により危機的状況に陥ったとき、全種族から選抜したパーティーを形成するよう伝えられているということ。これは初耳だった。
「すると、国王は不本意ながらも我ら亜人を呼ばざるを得ないが、手柄を立てさせるつもりはこれっぽっちもない、ということか」
「そうです。こうしてわざわざ異世界から勇者を召還するのですから、われわれは彼らの添え物、サポートメンバーなのでしょうね。主役は彼らですよ」
「そこの者ども、何をくっちゃべっておるか!」
頭ごなしの叱責が、なおさら彼らを不愉快にさせた。
異世界から呼ばれたという若者たちも、国王が話していようがなんのその。自分勝手にそれぞれ会話をかわしていたからだ。
ダーの内心は穏やかではない。そこへ再び威圧的な声が飛んだ。
「おい亜人ども、さっさとこっちへ来んか!!」
亜人たちは壁際から異世界勇者の近くへと移動し、その場にひざまずくように命令された。彼らは不満を感じながらも、そのとおりにした。
そこから、異世界勇者によるパーティーメンバー選抜が始まった。
すべては勇者たちが自侭に選択し、必要ないと判断された者はすごすごと帰された。彼らの選抜基準は一目瞭然だった。顔がいいか悪いか、それだけのように思えた。
当然のごとくドワーフも、誰からも選ばれなかった。
「オイ、不合格の亜人どもは、とっとと裏口から出て行け。邪魔だ」
嘲笑をふくんだ声が、彼らを追いたてた。
(ほほう、勝手に呼んでおいて勝手に帰れ、か……)
この扱いには、もはやドワーフの我慢も限界だった。
ドワーフは激怒した。
そのドワーフは限りなく怒っていた。
「………下らない茶番じゃな」
と、そのドワーフは毒づいた。
それほど大きくはない声であったが、謁見の間をどよめかせるには充分だったようだ。
「――茶番とはどういうことだ、そこのドワーフよ」
王の腹心のひとりが問いかけた。
「そこのドワーフではない。ワシにはちゃんと、ダー・ヤーケンウッフという名がある」
「めんどくさい男だ。ではダーよ、どういうことだ?」
「どうもこうもないじゃろ、魔王が復活した。じゃが自分たちで解決せずに、他の世界から召還した異世界人にこの世界を守ってもらう? すばらしい他力本願に、全国民もうれし涙で枕を濡らすことじゃろう。どいつもこいつも豪華キャストによるタマナシ野郎たちが夢のような競演じゃな」
「な、なにい、さすがに言いすぎではないかダーとやら」
「このドワーフ、お約束がわかってないよ……」
哀れむような目で、異世界召還された者たちがダーを見る。
ドワーフはフン、とひたすら尊大にその視線を跳ね除けた。
さすがに看過できぬと思ったか、国王自らドワーフに告げた。
「だが、これこそが世界の危機を救うための唯一無二の方法なのだ。この世界はそうして守られてきた。そう古からの書物にも記されておる」
国王の声に、ドワーフは首を振った。
「他の可能性を排除してそんな書に頼る、それこそ馬鹿げておる」
「では、どうすればよいというのだ!」
ここが正念場だ。国王の声に、ドンとドワーフは胸を叩いた。
「このワシを頼ってみればよい。亜人、いやダー・ヤッケンウッフが世界を救う」
一瞬の沈黙のあと、「ガハハハハハハ」という笑い声が一斉に謁見の間に響いた。
「おまえがか、仕様のないやつだ」
国王は憫笑した。
「たわけた事を申すな。それができれば異世界の戦士を召還したりはしない。第一、ドワーフなど確かにあらゆる戦記物に登場するが、どれもこれも脇役。ヒゲのジジイに何ができる」
再びあからさまな嘲笑が周囲から巻き起こる。
ドワーフ、ダー・ヤッケンウッフは屈辱に耐えた。悔しさに眼がくらむ思いだった。ここで大暴れできたらどれだけ楽か。
常に誇り高くあれ。父の声が脳裏に蘇った。
「――そこの4人、名をなんと言うのじゃ!」
ダーはビシっと異世界召還された若者を指差した。
こうなれば、この者たちの名前と顔をしっかり記憶してやろう。そう決めたのだ。
「ぼ、僕はケンジ・ヤマダといいます」
大きなメガネをかけた、いかにも平凡そうな若者が素直に応えた。
髪型はボサボサで、まったく手入れをしていないようだ。
召喚されて、着替える間もなく、そのままこの場に現われたということだろう。
始終キョドキョドして、やたら周りを見回している。
「私はハルカゼ・ミキモトだねえ」
次に、すらりとした長身の青年が応えた。茶髪に長髪、髪はウェーブがかかっている。
半身の姿勢の、妙なポーズを決めているのは、何かの儀式だろうか。
自分の外見に自信を持っている、いかにもナルシストっぽい男だった。
「おう、オレはタケシ・ゴウリキという」
ジーンズに半そでのシャツというラフな格好をした、筋肉質の若者が言った。
鍛えぬいた大胸筋と上腕が、着ているシャツを破りそうだ。
髪の毛は短く刈り込み、静止することなくやたらと動き回っている。
いかにも考え事が苦手そうなタイプだった。
「アタクシはケイコMAXよォ。ケイコ姉さんって呼んで~」
カマっぽい、いや完全にその道まっしぐらの男がクネクネしながら言った。
どういう構造なのか、全身ピッチリした黒タイツのような衣装を着ている。
彼らは本当に同じ世界からやって来たのだろうか。それぞれ完全に異質である。
「何が姉さんじゃ。どっからどうみてもいかついアンちゃんじゃろ」
「いかついアンちゃんはヤメて! アタクシ傷ついたわ~! 訴訟よ!」
「君、最後に強烈なインパクトで全部持っていくのはやめてほしいね」
ミキモトというキザな若者が、会話に割って入った。
ケイコMAXは、彼をじろりとねめつけた。
どうも好みのタイプではなかったらしい。
「何よ! あんたたちがキャラ薄いのよ、特にそこの、やる気あるの?」
そこの、と指差されたヤマダ君は、オロオロと完全に挙動不審になっている。
「い、いや、僕はRPG大好きなだけで、キャラとか言われても…」
「そんなんじゃ生き馬の目を射抜くオカマ業界で生き残っていけないわよ」
「そんな世界には一歩も足を踏み入れるつもりはないです…」
「おいおい、キャラとかつまんねえこと気にしてんなよ」
筋肉男のゴウリキは、心底嬉しそうににやにやと笑っている。
「オレは三度のメシより喧嘩が大好きだ。でもシャバじゃ、ちょっと拳で相手を撫でただけで捕まっちまう。だがよ、ここならオマワリも来ないし、まったくいい世界に呼んでくれたもんだぜ」
こいつは明白な悪人じゃな。そうダーは確信した。
そこでダーは、ふしぎなものを見る表情で小首をかしげた。
「おや、異世界人を召還したと聞いたが、なぜゴリラが混ざっておるんじゃ」
「誰がゴリラだ! 喧嘩なら買うぞオラ!」
「買う? ここの通貨も持っておらんくせに適当な事を言うものではないぞ、このゴリ肉マン」
「てめえ、あだ名まで速攻で決定しやがって……もうゆるさねえぞ」
「むう、これはワシが言い過ぎたか。許してくれ、ウッホウッホ」
「こ、殺す。この老いぼれドワーフ!!」
突進するゴウリキ、
受けて立つドワーフ、
制止に走る騎士たち、
逃げ出そうとするヤマダ。
入り混じる怒声と悲鳴。
たちまち巻き起こった大乱闘に、謁見の間は大パニックに陥った。
「ええい、そのドワーフは王宮侮辱罪で死刑だ!」
国王が怒りに任せて宣言すると、周囲の者があわててなだめる。
「王よ、それだけはさすがに……」
「かの者はあれでも一応……」
周囲の説得を受け、国王は不承不承、死刑を撤回せざるを得なかった。
ならばとドワーフは集団でボコボコにされ、王宮から蹴りだされた。
このとき、このボコボコにされた大口叩きのドワーフが、世界を騒乱の渦に叩き込むことになるとは、まだ誰も知らなかった……。
そのドワーフは限りなく怒っていた。
ドワーフという種族は、短躯である。
腕力が強く、長寿で、若年からもっさり髭になるのが特徴だ。
さらに手先が器用で、細工物を得意とする。
店に出回っているアクセサリーは、ほとんどがドワーフの手によるものだ。
そんなドワーフ族には、共通するある思いがあった。
「――これほどドワーフはすごいんだ!」
という痛切な心の叫びである。
亜人であるドワーフ族は、人間から良い扱いを受けているとは言い難かった。
ヴァルシパル王国の現国王は、亜人嫌いとして有名だったからだ。
ドワーフ族は、いつか自分たちが脚光を浴びる日が来ると信じていた。
その日の到来をただひたすら渇望し、耐えがたきを耐え忍んできたのだ。
そんなある日のことである。
とある1人のドワーフに、ヴァルシパル王国からの招待状が届いた。
『国家の危機に貴殿の力が借りたい』とある。
むろん彼は快哉を叫んだ。
ついにドワーフ族が、世の役に立つ日がきたと思ったのだ。
そのドワーフは、父の墓前で、両手を合わせた。
『常に誇り高くあれ。どのような扱いを受けても、ドワーフは前を向け』
いつもそう言っていた父。――見ていてくれ。
その男。「地摺り旋風斧」なる、一子相伝の技の継承者にして、当代一の頑固者。
彼の名は、ダー・ヤーケンウッフといった。
ところが、どうだ。
そこは、ヴァルシパル王城の広大な謁見の間。
その奥中央に鎮座する、豪奢な細工が施された玉座に、国王が座っている。
両脇には、護衛の完全武装した騎士が、四方を睥睨するように佇立している。
さらにその両脇には、腹心の配下とおぼしき数人の男たちがいる。
そして、王の目の前には、赤いカーペットが敷かれ、その上に異世界召還されたという4人の青年たちが立っていた……。
「よくぞ参られた勇者たちよ、君らを招いたのは他でもない――」
ドワーフは謁見の間の冷たい壁際に、べったりはりつくように立っていた。
むろん、好きでこうしているわけではない。そうするように指示されたのだ。
この扱いの差はなんだ、とそのドワーフは思った。
さて、国王の話はありきたりだった。世界の危機が目前に迫っている。
魔王軍が勢力を増し、隣国はすでに魔族の攻勢で壊滅状態という。
魔族は神々の中で、混沌を支配するというハーデラ神が創った一族とされる。彼らはひたすら破壊の衝動のまま行動し、常に人族とは敵対関係にあった。
敵を退け、世界の秩序をとりもどす。
それはいい。当たり前のことだ。
だが、それを他の世界からきたよそ者どもに頼って、解決してもらおうという他力本願は何だろうか。
彼のほかにも、エルフの弓使い。ノームの僧侶、ハーフ・ハーフのシーフなど多様な亜人が呼ばれていたが、彼同様、べったり壁際に並べられて配置させられていた。
さながら天国と地獄が同居しているようなものだ。ドワーフは苦々しく考えた。
「――いささか、居心地が悪いですね」
苦笑いを浮かべて、エルフの弓使いが話しかけてきた。
ダーは怒りをまぎらわすため、彼と会話することにした。彼から得た情報は有益なものだった。
まず、現国王が亜人差別主義者ということ。それくらいは彼も知っている。
しかし古よりの伝承では、世界が魔の勢力により危機的状況に陥ったとき、全種族から選抜したパーティーを形成するよう伝えられているということ。これは初耳だった。
「すると、国王は不本意ながらも我ら亜人を呼ばざるを得ないが、手柄を立てさせるつもりはこれっぽっちもない、ということか」
「そうです。こうしてわざわざ異世界から勇者を召還するのですから、われわれは彼らの添え物、サポートメンバーなのでしょうね。主役は彼らですよ」
「そこの者ども、何をくっちゃべっておるか!」
頭ごなしの叱責が、なおさら彼らを不愉快にさせた。
異世界から呼ばれたという若者たちも、国王が話していようがなんのその。自分勝手にそれぞれ会話をかわしていたからだ。
ダーの内心は穏やかではない。そこへ再び威圧的な声が飛んだ。
「おい亜人ども、さっさとこっちへ来んか!!」
亜人たちは壁際から異世界勇者の近くへと移動し、その場にひざまずくように命令された。彼らは不満を感じながらも、そのとおりにした。
そこから、異世界勇者によるパーティーメンバー選抜が始まった。
すべては勇者たちが自侭に選択し、必要ないと判断された者はすごすごと帰された。彼らの選抜基準は一目瞭然だった。顔がいいか悪いか、それだけのように思えた。
当然のごとくドワーフも、誰からも選ばれなかった。
「オイ、不合格の亜人どもは、とっとと裏口から出て行け。邪魔だ」
嘲笑をふくんだ声が、彼らを追いたてた。
(ほほう、勝手に呼んでおいて勝手に帰れ、か……)
この扱いには、もはやドワーフの我慢も限界だった。
ドワーフは激怒した。
そのドワーフは限りなく怒っていた。
「………下らない茶番じゃな」
と、そのドワーフは毒づいた。
それほど大きくはない声であったが、謁見の間をどよめかせるには充分だったようだ。
「――茶番とはどういうことだ、そこのドワーフよ」
王の腹心のひとりが問いかけた。
「そこのドワーフではない。ワシにはちゃんと、ダー・ヤーケンウッフという名がある」
「めんどくさい男だ。ではダーよ、どういうことだ?」
「どうもこうもないじゃろ、魔王が復活した。じゃが自分たちで解決せずに、他の世界から召還した異世界人にこの世界を守ってもらう? すばらしい他力本願に、全国民もうれし涙で枕を濡らすことじゃろう。どいつもこいつも豪華キャストによるタマナシ野郎たちが夢のような競演じゃな」
「な、なにい、さすがに言いすぎではないかダーとやら」
「このドワーフ、お約束がわかってないよ……」
哀れむような目で、異世界召還された者たちがダーを見る。
ドワーフはフン、とひたすら尊大にその視線を跳ね除けた。
さすがに看過できぬと思ったか、国王自らドワーフに告げた。
「だが、これこそが世界の危機を救うための唯一無二の方法なのだ。この世界はそうして守られてきた。そう古からの書物にも記されておる」
国王の声に、ドワーフは首を振った。
「他の可能性を排除してそんな書に頼る、それこそ馬鹿げておる」
「では、どうすればよいというのだ!」
ここが正念場だ。国王の声に、ドンとドワーフは胸を叩いた。
「このワシを頼ってみればよい。亜人、いやダー・ヤッケンウッフが世界を救う」
一瞬の沈黙のあと、「ガハハハハハハ」という笑い声が一斉に謁見の間に響いた。
「おまえがか、仕様のないやつだ」
国王は憫笑した。
「たわけた事を申すな。それができれば異世界の戦士を召還したりはしない。第一、ドワーフなど確かにあらゆる戦記物に登場するが、どれもこれも脇役。ヒゲのジジイに何ができる」
再びあからさまな嘲笑が周囲から巻き起こる。
ドワーフ、ダー・ヤッケンウッフは屈辱に耐えた。悔しさに眼がくらむ思いだった。ここで大暴れできたらどれだけ楽か。
常に誇り高くあれ。父の声が脳裏に蘇った。
「――そこの4人、名をなんと言うのじゃ!」
ダーはビシっと異世界召還された若者を指差した。
こうなれば、この者たちの名前と顔をしっかり記憶してやろう。そう決めたのだ。
「ぼ、僕はケンジ・ヤマダといいます」
大きなメガネをかけた、いかにも平凡そうな若者が素直に応えた。
髪型はボサボサで、まったく手入れをしていないようだ。
召喚されて、着替える間もなく、そのままこの場に現われたということだろう。
始終キョドキョドして、やたら周りを見回している。
「私はハルカゼ・ミキモトだねえ」
次に、すらりとした長身の青年が応えた。茶髪に長髪、髪はウェーブがかかっている。
半身の姿勢の、妙なポーズを決めているのは、何かの儀式だろうか。
自分の外見に自信を持っている、いかにもナルシストっぽい男だった。
「おう、オレはタケシ・ゴウリキという」
ジーンズに半そでのシャツというラフな格好をした、筋肉質の若者が言った。
鍛えぬいた大胸筋と上腕が、着ているシャツを破りそうだ。
髪の毛は短く刈り込み、静止することなくやたらと動き回っている。
いかにも考え事が苦手そうなタイプだった。
「アタクシはケイコMAXよォ。ケイコ姉さんって呼んで~」
カマっぽい、いや完全にその道まっしぐらの男がクネクネしながら言った。
どういう構造なのか、全身ピッチリした黒タイツのような衣装を着ている。
彼らは本当に同じ世界からやって来たのだろうか。それぞれ完全に異質である。
「何が姉さんじゃ。どっからどうみてもいかついアンちゃんじゃろ」
「いかついアンちゃんはヤメて! アタクシ傷ついたわ~! 訴訟よ!」
「君、最後に強烈なインパクトで全部持っていくのはやめてほしいね」
ミキモトというキザな若者が、会話に割って入った。
ケイコMAXは、彼をじろりとねめつけた。
どうも好みのタイプではなかったらしい。
「何よ! あんたたちがキャラ薄いのよ、特にそこの、やる気あるの?」
そこの、と指差されたヤマダ君は、オロオロと完全に挙動不審になっている。
「い、いや、僕はRPG大好きなだけで、キャラとか言われても…」
「そんなんじゃ生き馬の目を射抜くオカマ業界で生き残っていけないわよ」
「そんな世界には一歩も足を踏み入れるつもりはないです…」
「おいおい、キャラとかつまんねえこと気にしてんなよ」
筋肉男のゴウリキは、心底嬉しそうににやにやと笑っている。
「オレは三度のメシより喧嘩が大好きだ。でもシャバじゃ、ちょっと拳で相手を撫でただけで捕まっちまう。だがよ、ここならオマワリも来ないし、まったくいい世界に呼んでくれたもんだぜ」
こいつは明白な悪人じゃな。そうダーは確信した。
そこでダーは、ふしぎなものを見る表情で小首をかしげた。
「おや、異世界人を召還したと聞いたが、なぜゴリラが混ざっておるんじゃ」
「誰がゴリラだ! 喧嘩なら買うぞオラ!」
「買う? ここの通貨も持っておらんくせに適当な事を言うものではないぞ、このゴリ肉マン」
「てめえ、あだ名まで速攻で決定しやがって……もうゆるさねえぞ」
「むう、これはワシが言い過ぎたか。許してくれ、ウッホウッホ」
「こ、殺す。この老いぼれドワーフ!!」
突進するゴウリキ、
受けて立つドワーフ、
制止に走る騎士たち、
逃げ出そうとするヤマダ。
入り混じる怒声と悲鳴。
たちまち巻き起こった大乱闘に、謁見の間は大パニックに陥った。
「ええい、そのドワーフは王宮侮辱罪で死刑だ!」
国王が怒りに任せて宣言すると、周囲の者があわててなだめる。
「王よ、それだけはさすがに……」
「かの者はあれでも一応……」
周囲の説得を受け、国王は不承不承、死刑を撤回せざるを得なかった。
ならばとドワーフは集団でボコボコにされ、王宮から蹴りだされた。
このとき、このボコボコにされた大口叩きのドワーフが、世界を騒乱の渦に叩き込むことになるとは、まだ誰も知らなかった……。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる