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第79話 初音の苦悩
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「うわぁ……死んでない…よな?」
「この女がこの程度でくたばるものか。
それよりも、退散するなら今の内じゃ」
バギーと陰キャを挟んだ壁には無惨な大穴が開き、周囲には縦横に痛々しい亀裂が刻まれていた。
まぁ、全部俺がやっちゃったんですけどね。
ギンレイもリュックから顔を出してしきりに急がせる声を挙げだす。
万が一にもないとは思うが…もし、女が反撃に転じたら今度は退ける手段はない。
まだ体が痛むがスマホの操作でバギーを消し去り、館から出ようとした所でギンレイが一際大きな声を挙げる。
「……あしなぁあ!!」
全身に走る悪寒。
僅かに振り向くと血塗れの女が背後に立ち、息が触れ合う距離まで顔を近付けたかと思うと……。
「ッッッ!!」
何を考えているのか。
女は俺の唇に口づけすると、まるでマーキングするように自分の匂いを移す。
「あぁぁぁ………このッ…痴れ者めぇ!」
怒りで我を忘れた初音のグーパンが女の顔を掠め、バギーの衝突にも辛うじて耐えていた壁に、止めとばかりの一撃が加わる。
素人目にも分かる典型的な児戯とも言える駄々っ子パンチによって、大穴どころか一面の壁が粉々に消し飛ぶ!
鬼の持つ圧倒的な破壊の力を目の当たりにした俺はガチで腰が抜け、その場に座り込んで呆然とするばかりだ。
そんな俺に向けて、血だらけの女が妖艶な笑みを浮かべ、驚くほど嬉しそうな声で話し掛けてきた。
「…この痛み…とっても素敵でした…また…お会いしましょう…?」
そう言うと、負傷しているとは到底思えない蜘蛛のような動きで壁…だった所へ音もなく移動する。
その身のこなしから、女が余力を残しているのは疑いようもない。
こいつ…バギーを消すのを待っていた?
だとしたら、いつから俺達を観察していた?
もしかしたら、ずっと見られている感覚があったのは、こいつが原因なのか?
「待てぇ!逃がさんぞ!!」
追いすがる初音の追撃を華麗に躱し、そのまま外へ飛び降りて忽然と姿を消す。
最後にあの女…あの唇の動きは言葉には出さなかったが読めてしまった。
『セキニン』だ…。
初音は女の後を目で追うが程なくして諦めたのか、大きく息を吐くと向き直ってもう一度息を吐いた。
「すまんな、あしな。
彼奴はワシの所縁の者じゃ。
名は千代女、甲賀忍軍の首領 甲賀藤九郎配下の忍びよ」
忍者と陰キャって語呂が似てるよなぁ。
そんな現実逃避じみた事を考えるのも無理はない。
突然聞かされる話としてはインパクトがデカ過ぎて頭に入ってこないのだ。
未だ低速回転を続ける脳に鞭を打ち、どうにか覚えていた人名について尋ねる。
「その藤九郎ってのは?」
一層大きな息…というよりも溜め息を吐いたかと思うと、意外過ぎる言葉が飛び出した。
「甲賀 藤九郎はワシの…父上が決めた婚約者じゃ」
「この女がこの程度でくたばるものか。
それよりも、退散するなら今の内じゃ」
バギーと陰キャを挟んだ壁には無惨な大穴が開き、周囲には縦横に痛々しい亀裂が刻まれていた。
まぁ、全部俺がやっちゃったんですけどね。
ギンレイもリュックから顔を出してしきりに急がせる声を挙げだす。
万が一にもないとは思うが…もし、女が反撃に転じたら今度は退ける手段はない。
まだ体が痛むがスマホの操作でバギーを消し去り、館から出ようとした所でギンレイが一際大きな声を挙げる。
「……あしなぁあ!!」
全身に走る悪寒。
僅かに振り向くと血塗れの女が背後に立ち、息が触れ合う距離まで顔を近付けたかと思うと……。
「ッッッ!!」
何を考えているのか。
女は俺の唇に口づけすると、まるでマーキングするように自分の匂いを移す。
「あぁぁぁ………このッ…痴れ者めぇ!」
怒りで我を忘れた初音のグーパンが女の顔を掠め、バギーの衝突にも辛うじて耐えていた壁に、止めとばかりの一撃が加わる。
素人目にも分かる典型的な児戯とも言える駄々っ子パンチによって、大穴どころか一面の壁が粉々に消し飛ぶ!
鬼の持つ圧倒的な破壊の力を目の当たりにした俺はガチで腰が抜け、その場に座り込んで呆然とするばかりだ。
そんな俺に向けて、血だらけの女が妖艶な笑みを浮かべ、驚くほど嬉しそうな声で話し掛けてきた。
「…この痛み…とっても素敵でした…また…お会いしましょう…?」
そう言うと、負傷しているとは到底思えない蜘蛛のような動きで壁…だった所へ音もなく移動する。
その身のこなしから、女が余力を残しているのは疑いようもない。
こいつ…バギーを消すのを待っていた?
だとしたら、いつから俺達を観察していた?
もしかしたら、ずっと見られている感覚があったのは、こいつが原因なのか?
「待てぇ!逃がさんぞ!!」
追いすがる初音の追撃を華麗に躱し、そのまま外へ飛び降りて忽然と姿を消す。
最後にあの女…あの唇の動きは言葉には出さなかったが読めてしまった。
『セキニン』だ…。
初音は女の後を目で追うが程なくして諦めたのか、大きく息を吐くと向き直ってもう一度息を吐いた。
「すまんな、あしな。
彼奴はワシの所縁の者じゃ。
名は千代女、甲賀忍軍の首領 甲賀藤九郎配下の忍びよ」
忍者と陰キャって語呂が似てるよなぁ。
そんな現実逃避じみた事を考えるのも無理はない。
突然聞かされる話としてはインパクトがデカ過ぎて頭に入ってこないのだ。
未だ低速回転を続ける脳に鞭を打ち、どうにか覚えていた人名について尋ねる。
「その藤九郎ってのは?」
一層大きな息…というよりも溜め息を吐いたかと思うと、意外過ぎる言葉が飛び出した。
「甲賀 藤九郎はワシの…父上が決めた婚約者じゃ」
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