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第42話 命の重さ

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『ごめんな、でも無駄にはしないから…』

 竹の先にナイフをくくりつけて離れた位置から猪の心臓を貫くと、直後に足を痙攣させた後に体を硬直させて最後の息を吐き出す。

 手元に伝わる鼓動。
 傷口から流れる鮮血。
 次第に薄れゆく生気。

 それら全てが命を頂く為に通らなければならない道であり、生きている者は常に、犠牲になった物に対して最大限の敬意を払わなければならない。

「うむ、決して忘れてはならんぞ」

 役目を終えようとしている命を前に、初音は神妙な面持ちで語りかけた。
 その容姿からは想像できなかったが、俺よりもずっと明確な死生観を持っている事に素直に驚く。

 鬼属は人間よりも遥かに長命である分、命について考える時間も多いのだろうか…。
 初めて大型の生物を手に掛けた事で新しい価値観を得た一方、それまで考えもしなかった自分に引け目を感じてしまう。

 そんな風に思いを巡らせていたからだろう、足元でギンレイが吠えているのに漸く気付いた。

「ギンレイ!良かった…無事か」

 幸いな事に大きな怪我はなく、代わりに逃げている際に転んだのか身体中が泥だらけだ。

「可哀想に、よしよし帰ったら…おお!
 思い出したぞ、風呂じゃ!
 あしなよ、今から風呂釜を作るつもりか?」

 やっぱり覚えてました?
 色々あったので忘れてくれてると助かったのだがな。

「あぁ、それについては任せろ。
 ちゃんと用意してやるよ」

「本当か~?まぁ、お主は意外と頼りになる事があるからの。楽しみにしておくぞ」

 評価が高いのか低いのか分からんのは置いとくとして、問題はこの猪だな。
 さて、どうやって持ち帰ればいいのやら見当もつかない。

 頭を悩ませていると初音が無造作に後ろ足を掴み、そのまま引きずっていく様子を見て、最初から彼女に任せれば命を賭ける必要もなかったのだと思い知り、再び腰が砕けそうになったがギリギリ踏ん張った。
 偉いぞ、俺。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 近くの河原で猪の解体を行い、痛みが早い内臓を取り出す。
 どうにか作業を終えると日が傾きつつあったが、帰る道すがら初音と色々話す機会を得た。

 どうやらホームから歩いて2日程の所に人里があるそうで、かなりの賑わいらしい。
 そこなら必要な物を手に入れたり、場合によっては元の世界に帰る糸口が得られるかもしれん。

 とはいえ、どこの世界でも先立つ物は必要だ、人里に降りる前に換金率の高そうな品物を作っておかなくては。

 貴重な情報によって、また一つ前進したと考えたいが流石に今日は疲れすぎた。
 最高の猪肉が手に入った事だし、今夜は豪勢な食事と風呂で疲れを癒そう。

 見れば2人と1匹の影は長く伸び続け、一足でも早く帰路へ着こうと誘うようであった。
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