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第23話 午後からは雨が降りだす模様
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「さぁ、今日も元気に働くぞぉ!」
銀行員時代には一度も考えた事がない言葉を口にし、本日の勤労を心に誓うという実にサラリーマンらしくない朝を迎える。
しかし、そんな決意とは裏腹に東の空模様はどんよりとした雲が立ち込め、吹き付ける風も少々肌寒い。
「あぁ、こりゃ午後は怪しいな」
恐らく正午までには天気が崩れる可能性が高く、食料の調達や資材の採取を急ぐ必要がある。
子狼は竹から伸びた枝を相手にしたボクシングに勤しんでおり、その興味が俺に向けられる前にホームを出た。
まずは食料と水の確保を優先して、ポリタンクの水を補充した後にイワナ3匹を釣り上げる。
これだけでは一日のカロリーに満たないので浅瀬に入って生き物を探していると、えらく巨大なザリガニを見つけて驚く。
新入りの俺を見て自慢のハサミで威嚇する姿はよく知るザリガニその物だが、脇から続く足はテナガエビのように長く、先端に小さなハサミを持っている。
『異世界の歩き方』によるとカワラムシャガニと呼び、確かに頭は兜で硬い甲殻は甲冑のようにも見える。
大小のハサミは両手に携えた2本(4本と言うべきか?)の刀を連想させるオモシロ格好いい生き物だ。
子供の頃に出会っていたら夢中で採っていたであろうが、今は貴重な食料としか思えない。
本には無毒で美味と書いてあるので、本日の食卓を大いに賑わせてくれるに違いない。
相手が侍ならばと木の枝を刀に見立て、ザリガニの前方に突き出すと向こうもハサミで応戦する構えをみせる。
鍔迫り合いを思わせる形でハサミを封じた俺は、残った片手で難なく捕獲に成功した。
「まだまだ修行が足りんのぅ」
一生口にする事がないと思われた台詞を吐きながら、次々とザリガニとの一騎討ちに勝利を収めていく。
合計で4匹の強敵を倒した俺は、論功行賞夕食が待ち遠しくて仕方がないといった風に手柄をバッグに放り込む。
帰宅する前に草むらからサワダイコンを掘り出し、松脂やミツミシソとキノモトワラビ、そして大量のマルハウメを採取すると、最後に可能な限りの竹を持ってホームへと急ぐ。
既にミズサシシギの群れが悲しげな声を挙げて森へと消えており、もう30分としない内に雨が降りだすのは明白だった。
息を切らせてホームへ辿り着くと、にわかに降ってきた雨は見る間に土砂降りへと変貌し、数m先も見通せない勢いだ。
「危なかった、もう少しで帰れなくなる所だった。しばらく川は増水して動けないぞ」
どうにか無事に帰宅できたが、今度は川の氾濫によるホーム水没という不安がつきまとう。
ここは河原から登った先にあるので大丈夫だと思うが、それでも油断はできない。
異世界でのソロキャンは始まったばかり、自然の驚異すらも楽しめるように強くならなければ。
己の心情の変化に嬉しくもあり、元の世界からの救助を諦めた物悲しさもあり、それでも自然の環境と同様に変化を受け入れていく姿勢は保ち続けていきたいと願うばかりだ。
銀行員時代には一度も考えた事がない言葉を口にし、本日の勤労を心に誓うという実にサラリーマンらしくない朝を迎える。
しかし、そんな決意とは裏腹に東の空模様はどんよりとした雲が立ち込め、吹き付ける風も少々肌寒い。
「あぁ、こりゃ午後は怪しいな」
恐らく正午までには天気が崩れる可能性が高く、食料の調達や資材の採取を急ぐ必要がある。
子狼は竹から伸びた枝を相手にしたボクシングに勤しんでおり、その興味が俺に向けられる前にホームを出た。
まずは食料と水の確保を優先して、ポリタンクの水を補充した後にイワナ3匹を釣り上げる。
これだけでは一日のカロリーに満たないので浅瀬に入って生き物を探していると、えらく巨大なザリガニを見つけて驚く。
新入りの俺を見て自慢のハサミで威嚇する姿はよく知るザリガニその物だが、脇から続く足はテナガエビのように長く、先端に小さなハサミを持っている。
『異世界の歩き方』によるとカワラムシャガニと呼び、確かに頭は兜で硬い甲殻は甲冑のようにも見える。
大小のハサミは両手に携えた2本(4本と言うべきか?)の刀を連想させるオモシロ格好いい生き物だ。
子供の頃に出会っていたら夢中で採っていたであろうが、今は貴重な食料としか思えない。
本には無毒で美味と書いてあるので、本日の食卓を大いに賑わせてくれるに違いない。
相手が侍ならばと木の枝を刀に見立て、ザリガニの前方に突き出すと向こうもハサミで応戦する構えをみせる。
鍔迫り合いを思わせる形でハサミを封じた俺は、残った片手で難なく捕獲に成功した。
「まだまだ修行が足りんのぅ」
一生口にする事がないと思われた台詞を吐きながら、次々とザリガニとの一騎討ちに勝利を収めていく。
合計で4匹の強敵を倒した俺は、論功行賞夕食が待ち遠しくて仕方がないといった風に手柄をバッグに放り込む。
帰宅する前に草むらからサワダイコンを掘り出し、松脂やミツミシソとキノモトワラビ、そして大量のマルハウメを採取すると、最後に可能な限りの竹を持ってホームへと急ぐ。
既にミズサシシギの群れが悲しげな声を挙げて森へと消えており、もう30分としない内に雨が降りだすのは明白だった。
息を切らせてホームへ辿り着くと、にわかに降ってきた雨は見る間に土砂降りへと変貌し、数m先も見通せない勢いだ。
「危なかった、もう少しで帰れなくなる所だった。しばらく川は増水して動けないぞ」
どうにか無事に帰宅できたが、今度は川の氾濫によるホーム水没という不安がつきまとう。
ここは河原から登った先にあるので大丈夫だと思うが、それでも油断はできない。
異世界でのソロキャンは始まったばかり、自然の驚異すらも楽しめるように強くならなければ。
己の心情の変化に嬉しくもあり、元の世界からの救助を諦めた物悲しさもあり、それでも自然の環境と同様に変化を受け入れていく姿勢は保ち続けていきたいと願うばかりだ。
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