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第4話 今日はもう寝る!

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「嗚呼、旨い…なにこれンマイ……」

 炎天下で見つけた洞水は木陰と吹き抜ける風によって程好く冷えており、甘味と僅かなアルコールを感じる不思議な味わいだった。

 例えれば夏場の営業で散々歩いた後に、冷奴を肴に一気飲みする生ビールと同等の美味しさ?いやいや、それは言い過ぎか。
 うーん、どちらかと言えばカクテルに近い?

 一頻り喉の渇きが癒された事で落ち着きを取り戻したのだろうか、洞の少し上に朽ちかけた蜂の巣があり、中の蜂蜜が幹を伝って水に溶け出しているのに気付いた。

 そういえば聞いた事がある。
 岩の窪みや洞に果実や蜂蜜が入り込み、雨水と混ざって自然発酵した天然の恵み『猿酒』
 昔の猟師は好んで飲んだそうだが、虫や鳥の住処でもある場所に溜まった水などとてもではないが飲む気になれず、今までスルーしていたのだが…遭難しなければ一生味わう事なく過ごしていたかもしれない。

 なんだか得した気分だが安心してもいられない。
 相変わらず救助の目処も、民家も見つかってはいないのだ、このままではジリ貧になるのは目に見えている。
 だからこそ、どうにかして人里を目指すのがベターだと思う。

 少し元気が出た所で再び腰を上げて南を目指す。
 念の為に道中の小枝を時々折って目印とするのを忘れないようにし、何か口にできそうな果物や木の実がないかを注意深く探しながら歩く。

 一面が緑に覆われているが、視線を地面に移せば所々に野草や白いキノコが自生している。
 しかし、軽々しく口にするのは早計だ。
 特にキノコはヤバいなんてもんじゃなく、10年間で300件以上の食中毒が報告されている。
 その中でも白色は毒を持っている可能性があり、いくら空腹でも付け焼き刃の知識で手を出すのは避けた方が無難だ。

 野草にも毒を持った物があるが…これは何だ?
 足元には長い柄と紫の葉を広げた植物が一面を埋めていた。
 特徴的な清涼感のある香りはシソとよく似ているが、相違点として葉が3裂に分かれており別の植物にも思える。
 本当にシソの仲間か?
 だとすれば食べられるのだが…。

 しばらく迷ったが口にするのは保留とした。
 見知らぬ土地でもし救助が遅れれば、腹痛であっても万が一という事態になりかねないからだ。
 まぁ、半日も山を歩いているのに人っ子ひとり見ない時点で、救助されるのかどうか相当に怪しいが。

 その後は休憩時に板チョコを少しだけ食べて我慢するが、消費したカロリーと釣り合いが取れず心情的にはもっと食べたい気持ちが強まってしまった。
 荒れた心を落ち着かせようと再び深呼吸を行うが、その時にふと足元を見て実に奇妙な、極めて変な物を見てしまう。

「え……?俺の影が…西に伸びてる…?」

 震える手でスマホを取り出して確認すると4時前だった。
 いやいや、数時間前まで太陽は真上にあったはずだ!
 スマホの時刻がズレている、それは問題じゃない。

 問題なのは…なんでって事だ!!

 見れば感動的な程に美しい夕日が、東の森林を朱く染め上げていた。
 有り得ない、俺は疲れているのか?
 確かに今日は散々歩き倒したさ、雪山で暖かく過ごす為に全身を完全防寒コーデで初夏みたいな陽気の森を歩き回った。
 そうだ、俺は疲れている!
 今日はもう寝る!

 ぐらつく頭を抱えて下を向いていると、地面に映る影は長く、長く伸びやかに俺を見つめているように感じた。








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