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荒野に生きる青年ウォルター

第5話 ビリー奪還作戦

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 息子2人が声を抑えて笑っている様子を父アウグストは包み込むような眼差しで眺めていた。
 まだ何も失っていない。

 子供達さえ無事なら何度でもやり直せる。アウグストは彼等の肩を抱き寄せるように両腕を回すと、ビリー奪還の為の作戦を告げた。

『さあ、お喋りは今夜の晩餐まで取って置こうじゃないか。
 私達はこれから三方に分かれて館に近付き、ビリーが居る場所を特定しなければならない。
 首尾よく見つけたら建物に火をつけて奴等を引き付けろ。
 その隙に混乱に乗じてビリーを救い出すんだ』

 兄弟は心の中で父の強かな知恵と冷静さに称賛を送りながら大きく頷き、館の方を注意深く窺った。
 入り口とテラス、それに2階の窓にも見張りが立っているのが見える。

『館の中には何人くらい居ると思う?』

 僕は2人に向かって尋ねた。
 今日の襲撃では父の方で5人。
 僕の方でも5人確認している。

『こっちはもう3人始末しているから全部で7人だな』

 得意気にそう口にしたウィリアムを父は頭を振って窘めた。

『分かっているだけで7人だ。それにヴァンも中に居る。館には最低でも10人は控えていると考えて行動した方が良い』

 作戦は決まった。
 全員が火炎瓶を持つと暗闇でコンタクトを取る為の簡単なジェスチャーを確認する。ここから本当にお喋りは無しだ。

 夜の闇は静寂によって更に深みを増し、徒ならぬ緊張感を含んでいた。
 出発前に父は無言で僕にナイフを手渡すと、最後に帽子を上げて笑顔で拳を合わせてくれた。

 そして父の合図によって僕達は各々別の方向から館に向かって移動を開始する。

 館までおよそ500mといった所だろうか。収穫の済んでいない麦畑は身を隠すには絶好の遮蔽物だった。
 揺れやすい麦穂に注意しながら慎重に、だが確実に距離を詰めていく。

 父の方を見ると大きく迂回しながら館の後方へ回り込むつもりらしい。
 僕も少し離れてその後に続いた。

 兄の方は大胆にも正面付近から近付いていた。
 万が一の場合には自分が囮になって敵を引き付けるつもりのようだ。

 暫く進むと暗闇の中で父が左へ移動するように合図を送っている。
 僕はゆっくりと麦穂を縫うようにして、父とは別方向へ向かった。

 館の構造は入り口から大きなL字を描いており、僕の位置から兄の姿は死角になっていて見えない。恐らく父も同様だろう。
 ビリーを見つけたら上手く互いのタイミングを合わせるしかない。

 徐々に館の灯りが届く距離まで来ると、とうとう麦畑と館の境界まで辿り着いた。

 ここからの緊張は今までの比ではなかった。今にも見張りが顔を出すのではないかと思うと、僕は最初の一歩を踏み出す事ができずにいた。

 しかし父は音もなく柵を越えて素早く軒下へ移動してみせると、それを見ていた僕は父の勇気に後押しされる形で柵を避けて相対する側の軒下へ侵入する事ができた。

 影に身を潜めながら全身から吹き出す様な汗を掻き、僕達は互いの安全を確認するように頷き合うと、窓越しに室内の様子を注意深く見渡した。

 薄暗い部屋に人の気配はない。
 奥にベッドが2台見えるがどちらも空だ。
 ここからではそれ以上の情報は得られそうになかった。

 僕は父の方を振り向くと、向こうも外れを知らせるサインを送っている。
 更に続けて移動サインを送ってきたので、僕は壁に沿って館を時計回りに探索する事にした。

 父が後方から付いてくる形を取っているので、もし側面から不意を突かれても即座に援護が受けられるのは心強かった。

 夜陰に紛れて捜索を進めていくと、どうやらリビングに着いたようだ。
 しかし、室内は妙にがらんとしていてテーブルや椅子等の家具は殆ど見当たらない。
 しかもこの部屋だけは蝋燭一つ置いていなかった。

 奇妙な違和感を覚えた僕は室内の隅々まで視線を運ぶと、壁と向かい合った状態で椅子に座っているビリーを見つけた。
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