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第一部 ニ章 異世界キャンパー編
美麗なるモンスター
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「がああああッッ! あ……あ…………」
「そんなふりして…あなた……死なないんでしょ?
だから…これ…有効活用…させてもらった…わ」
この女…!
俺が埋めたヒメユリトウロウの毒とフィッシュピックを掘り返しやがったのか!
体……毒に対しても…全身……焼けるみたいに!
初音だった女は床に転がる俺を無視して、誰かの落とし物を拾うような仕草でスマホを拾い上げ、暗い室内を見渡す。
奴の変装に気づけなかった――いや、骨格まで変えてしまうだなんて……気づけるはずがない!
「まずは……ひとつ…」
初音から奪ったと思われる巫女服は女が正体を現した際にあっちこっちが破れ、魅惑的なボディラインを辛うじて隠す程度の機能しか残されていない。
コイツは何が目的だ?
初音は無事なのか?
女媧とヘンショウヒキガエルだけでなく、この女まで後をつけていたとは…!
「おばぇ……どうやっ…で……ゴブゥッ!」
大量の吐血――!
死に至る猛毒が全身を駆け巡り、生きたまま激痛を味わう俺を無機質な冷たい瞳が見下ろす。
「どう…やって気づいた…かしら?
わたし……見られると…とても…感じるから…」
ゾクッとする台詞と共に変装用のウィッグを捨て去った女は、長めのアンニュイミディな黒髪に、部分的な朱のメッシュを多数加えた特徴的な髪型。
顔はすれ違えば忘れられない美貌だが、氷のように冷たい眼光とモデル顔負けのスタイルを兼ね備えた暗殺者。
「いいこ達……ね。
修験者に……別世界のひと……それに……女媧」
マズい…!
飯綱が言っていた事は正しかった。
最初に崖を飛び降りたのはカメラを破壊して姿をくらまし、再び驚異的な身体能力で崖を登り、屋敷の中で初音を襲って入れ替わったんだ!
全ては研究室に侵入する機会を狙う為に…。
八兵衛さんなら敵に遅れを取るはずがなく、初音では変装しようにも体格が違い過ぎる――そう思い込んだ隙を突くとは…。
「当方の目を欺いたのは見事なり。
だが、姫様を何処へ隠した!!」
八兵衛さんは怒濤の勢いで斬りつけるが、女は僅かに身を反らすだけで、次々と繰り出される致命の刃をかわしていく。
巨大ツチナマズを一刀で両断した攻撃がやすやすと回避され、文字通り全く歯が立たないだなんて!
「あなた……怪我……してるの…ね………けど……そうじゃ…なくても……あなた……勝てない…わ」
緩慢な口調からは想像もできない程の滑らかで、緩急をつけた体術は時に瞬く速さで圧倒したかと思えば、次の瞬間には停滞する泥のような静けさで相手を翻弄する。
既存の格闘技や伝統武芸とは袂を分かつ、独特で捉えどころのない動き。
八兵衛さんが振るう刃はモニターからパソコンまで容赦なく両断するが、女の体はおろか毛先にすら届かない。
予測を許さない変幻自在の戦法によって、あの八兵衛さんを手玉に取るだなんて……。
Awazonがあれば何とかなるとか…異世界で体験した修羅場とか…何の意味も成さない!
完全に……俺の判断ミスだった…!
「妙な動きをしよって!
逃げを打つなら更に詰め寄るまで!」
なおも継戦を望む老侍が深く踏み込む!
戦いにおいて最も有利な条件である体格の差を全面に押し出し、文字通り捨て身の間合いで切り込む。
この選択は功を奏し、女は徐々に壁際へと追い詰められていく。
「げんきな……おじいちゃん………だけど…!」
胸元から取り出した短刀を振りかざし、切先を高速でしならせて振り下ろすが、既に鉈の軌道は女の頭を捉えていた。
互いの刃が交錯した刹那、近未来を思わせる研究室に鮮血が迸る!
抜き放たれた剣擊から遅れること数瞬、厚さ2mmのステンレス鋼で作られた鉈は中程から断ち切られ、リノリウムの床に乾いた金属音が響き渡る。
ゆっくりと崩れ落ちる八兵衛さんの体。
流れ出る血溜まりが破れた堰のように広がっていく…。
物音ひとつしない静まり返った室内には、耳障りな俺の心音が次第に大きく、他の雑音を掻き消す程に聴覚の全てを奪い尽くす。
「…う、うそだ……あり得ない……八兵衛さん!」
いくら呼び掛けても返事がない――。
「あなたの……敗け…………けど……あと…20年…若ければ………どうだった……かしら?」
女の右腕は――床に届きそうな所まで伸び、しなやかに脈動する鞭のように動いている!
短刀を振り抜く最中、腕の関節を肩から肘、手首に至るまで外し、短刀の射程距離を腕一本分伸ばして加速させたのか!?
コイツは……今までに出会った野生動物達を遥かに凌ぐ化物!
「そんなふりして…あなた……死なないんでしょ?
だから…これ…有効活用…させてもらった…わ」
この女…!
俺が埋めたヒメユリトウロウの毒とフィッシュピックを掘り返しやがったのか!
体……毒に対しても…全身……焼けるみたいに!
初音だった女は床に転がる俺を無視して、誰かの落とし物を拾うような仕草でスマホを拾い上げ、暗い室内を見渡す。
奴の変装に気づけなかった――いや、骨格まで変えてしまうだなんて……気づけるはずがない!
「まずは……ひとつ…」
初音から奪ったと思われる巫女服は女が正体を現した際にあっちこっちが破れ、魅惑的なボディラインを辛うじて隠す程度の機能しか残されていない。
コイツは何が目的だ?
初音は無事なのか?
女媧とヘンショウヒキガエルだけでなく、この女まで後をつけていたとは…!
「おばぇ……どうやっ…で……ゴブゥッ!」
大量の吐血――!
死に至る猛毒が全身を駆け巡り、生きたまま激痛を味わう俺を無機質な冷たい瞳が見下ろす。
「どう…やって気づいた…かしら?
わたし……見られると…とても…感じるから…」
ゾクッとする台詞と共に変装用のウィッグを捨て去った女は、長めのアンニュイミディな黒髪に、部分的な朱のメッシュを多数加えた特徴的な髪型。
顔はすれ違えば忘れられない美貌だが、氷のように冷たい眼光とモデル顔負けのスタイルを兼ね備えた暗殺者。
「いいこ達……ね。
修験者に……別世界のひと……それに……女媧」
マズい…!
飯綱が言っていた事は正しかった。
最初に崖を飛び降りたのはカメラを破壊して姿をくらまし、再び驚異的な身体能力で崖を登り、屋敷の中で初音を襲って入れ替わったんだ!
全ては研究室に侵入する機会を狙う為に…。
八兵衛さんなら敵に遅れを取るはずがなく、初音では変装しようにも体格が違い過ぎる――そう思い込んだ隙を突くとは…。
「当方の目を欺いたのは見事なり。
だが、姫様を何処へ隠した!!」
八兵衛さんは怒濤の勢いで斬りつけるが、女は僅かに身を反らすだけで、次々と繰り出される致命の刃をかわしていく。
巨大ツチナマズを一刀で両断した攻撃がやすやすと回避され、文字通り全く歯が立たないだなんて!
「あなた……怪我……してるの…ね………けど……そうじゃ…なくても……あなた……勝てない…わ」
緩慢な口調からは想像もできない程の滑らかで、緩急をつけた体術は時に瞬く速さで圧倒したかと思えば、次の瞬間には停滞する泥のような静けさで相手を翻弄する。
既存の格闘技や伝統武芸とは袂を分かつ、独特で捉えどころのない動き。
八兵衛さんが振るう刃はモニターからパソコンまで容赦なく両断するが、女の体はおろか毛先にすら届かない。
予測を許さない変幻自在の戦法によって、あの八兵衛さんを手玉に取るだなんて……。
Awazonがあれば何とかなるとか…異世界で体験した修羅場とか…何の意味も成さない!
完全に……俺の判断ミスだった…!
「妙な動きをしよって!
逃げを打つなら更に詰め寄るまで!」
なおも継戦を望む老侍が深く踏み込む!
戦いにおいて最も有利な条件である体格の差を全面に押し出し、文字通り捨て身の間合いで切り込む。
この選択は功を奏し、女は徐々に壁際へと追い詰められていく。
「げんきな……おじいちゃん………だけど…!」
胸元から取り出した短刀を振りかざし、切先を高速でしならせて振り下ろすが、既に鉈の軌道は女の頭を捉えていた。
互いの刃が交錯した刹那、近未来を思わせる研究室に鮮血が迸る!
抜き放たれた剣擊から遅れること数瞬、厚さ2mmのステンレス鋼で作られた鉈は中程から断ち切られ、リノリウムの床に乾いた金属音が響き渡る。
ゆっくりと崩れ落ちる八兵衛さんの体。
流れ出る血溜まりが破れた堰のように広がっていく…。
物音ひとつしない静まり返った室内には、耳障りな俺の心音が次第に大きく、他の雑音を掻き消す程に聴覚の全てを奪い尽くす。
「…う、うそだ……あり得ない……八兵衛さん!」
いくら呼び掛けても返事がない――。
「あなたの……敗け…………けど……あと…20年…若ければ………どうだった……かしら?」
女の右腕は――床に届きそうな所まで伸び、しなやかに脈動する鞭のように動いている!
短刀を振り抜く最中、腕の関節を肩から肘、手首に至るまで外し、短刀の射程距離を腕一本分伸ばして加速させたのか!?
コイツは……今までに出会った野生動物達を遥かに凌ぐ化物!
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