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第一部 ニ章 異世界キャンパー編
休日は異世界ウナギを釣ろう!
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俺とギンレイはタープテントから少し歩いた場所にある小川を訪れた。
ここは旅をする上で非常に重要な水源があり、泥沼地と違って綺麗な水が手に入る貴重な場所。
テントを設置する場合、考えなければならないのは水場との距離である。
遠すぎても不便だし、近すぎると水害に巻き込まれる恐れがある為だ。
「元の世界だと水場に近い場所は人の出入りが気になってね、ひとりの空間を大事にしたい人には向かないんだよ」
ギンレイにソロキャンで培った知識を伝授するが、彼はそんな事よりも小川を住む小さな魚や蟹に御執心な様子。
どこまでも食い気が最優先なのは、初音譲りってトコなのかねぇ。
「さて、川の中には何が居るのかな?
あー…小魚ばっかりだな」
これではとり尽くしたとしても鬼っ娘の腹は満たされず、間違いなくゴネるのは明白だ。
そもそも無闇に成長前の生き物をとるのは、魚であれ植物であれ俺は推奨しない。
何故なら、それらの資源は人間が思っているよりも簡単に枯渇してしまい、一度とり尽くしてしまうと再び繁栄するまでに長い時間を必要とするからだ。
「ここは魚影も薄いし、少しポイントを変えようか。他に生き物がいそうな場所は…」
視線を動かすと、泥沼と小川が重なる場所が目につく。
周囲には魚が身を隠すのに最適な茂みや岩が点在しており、釣りをする上では見るからに好立地だ。
既にギンレイの五感は生物の気配を捉えたらしく、先程まで元気に吠えていたのに、今では鳴き声どころか足音すら立てずにいる。
本当に俺の犬は賢可愛いだろ?
忍び足で慎重にポイントへ入り、確保しておいた生き餌を投げ込む。
すると僅か一分もしない内に、あっさりと一匹目が釣れてくれた。
「コイツは知ってるぞ。
『ヒノモトオオウナギ』という名前の超高級魚。
貧乏学生の俺には縁遠い鰻の王様だな」
時間があったので可能な限り『異世界の歩き方』を読んでいる間、とても興味を惹かれた魚種だったので覚えていたのだ。
かなり好戦的な性格をしており、巣に近づく生物は全て敵と見なして襲ってくるらしい。
逆に言えば、巣を見つけてしまえば簡単に釣ってしまえるという事。
「そうと分かれば――ギンレイ、任せたぞ!」
主人の意図を理解した愛犬は低い姿勢で草むらを掻き分け、素早い動きで次々とポイントを探っていく。
程なくして水底の色が変化している岩場で足を止め、『おすわり』の状態でこちらを見つめている。
どうやら早くも巣を発見したようだ。
俺はギンレイの鼻先が向いているポイントへ静かに針を沈めると、ガツンとした手応えと共に激しい振動が手元に伝わってきた。
「へへっ、コイツは……デカいぞぉ!」
濁りのある水面から顔を出したのは体長60cmのヒノモトオオウナギ!
先程は30cm程だったので大幅に記録更新だ。
仕掛けに絡み付いて抵抗する鰻をスカリに入れ、功労者のギンレイを誉めてあげると、気を良くした彼はその後も優れた感覚で大物を見つけてくれた。
「気晴らしのつもりだったけど、つい楽しくてガッツリ釣ってしまったな」
スカリの中は15匹もの鰻がひしめき合い、思わず涎が垂れそうな光景を生み出している。
そこから40cm以下の個体を逃がしても8匹が残る結果となり、大満足の釣果と言えるだろう。
「よく頑張ったなギンレイ。
ほら、御褒美をあげるよ」
ヒメゴトミツバチのハチミツを竹皿に入れると飛び掛かる勢いで食べ尽くし、もうないのかと悲しい声で鳴く。
いつも思うが、もう少し味わって食べてくれよ。
残念ながらハチミツのストックは…なくはない。
初音がくすねた分があるはずなのだが、どこに隠し持ってるんだ?
「そこは後日探すとして、今日は帰ろうか」
異世界での休暇を存分に満喫した俺達は、今夜の夕食という土産を手に帰路につく。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここは旅をする上で非常に重要な水源があり、泥沼地と違って綺麗な水が手に入る貴重な場所。
テントを設置する場合、考えなければならないのは水場との距離である。
遠すぎても不便だし、近すぎると水害に巻き込まれる恐れがある為だ。
「元の世界だと水場に近い場所は人の出入りが気になってね、ひとりの空間を大事にしたい人には向かないんだよ」
ギンレイにソロキャンで培った知識を伝授するが、彼はそんな事よりも小川を住む小さな魚や蟹に御執心な様子。
どこまでも食い気が最優先なのは、初音譲りってトコなのかねぇ。
「さて、川の中には何が居るのかな?
あー…小魚ばっかりだな」
これではとり尽くしたとしても鬼っ娘の腹は満たされず、間違いなくゴネるのは明白だ。
そもそも無闇に成長前の生き物をとるのは、魚であれ植物であれ俺は推奨しない。
何故なら、それらの資源は人間が思っているよりも簡単に枯渇してしまい、一度とり尽くしてしまうと再び繁栄するまでに長い時間を必要とするからだ。
「ここは魚影も薄いし、少しポイントを変えようか。他に生き物がいそうな場所は…」
視線を動かすと、泥沼と小川が重なる場所が目につく。
周囲には魚が身を隠すのに最適な茂みや岩が点在しており、釣りをする上では見るからに好立地だ。
既にギンレイの五感は生物の気配を捉えたらしく、先程まで元気に吠えていたのに、今では鳴き声どころか足音すら立てずにいる。
本当に俺の犬は賢可愛いだろ?
忍び足で慎重にポイントへ入り、確保しておいた生き餌を投げ込む。
すると僅か一分もしない内に、あっさりと一匹目が釣れてくれた。
「コイツは知ってるぞ。
『ヒノモトオオウナギ』という名前の超高級魚。
貧乏学生の俺には縁遠い鰻の王様だな」
時間があったので可能な限り『異世界の歩き方』を読んでいる間、とても興味を惹かれた魚種だったので覚えていたのだ。
かなり好戦的な性格をしており、巣に近づく生物は全て敵と見なして襲ってくるらしい。
逆に言えば、巣を見つけてしまえば簡単に釣ってしまえるという事。
「そうと分かれば――ギンレイ、任せたぞ!」
主人の意図を理解した愛犬は低い姿勢で草むらを掻き分け、素早い動きで次々とポイントを探っていく。
程なくして水底の色が変化している岩場で足を止め、『おすわり』の状態でこちらを見つめている。
どうやら早くも巣を発見したようだ。
俺はギンレイの鼻先が向いているポイントへ静かに針を沈めると、ガツンとした手応えと共に激しい振動が手元に伝わってきた。
「へへっ、コイツは……デカいぞぉ!」
濁りのある水面から顔を出したのは体長60cmのヒノモトオオウナギ!
先程は30cm程だったので大幅に記録更新だ。
仕掛けに絡み付いて抵抗する鰻をスカリに入れ、功労者のギンレイを誉めてあげると、気を良くした彼はその後も優れた感覚で大物を見つけてくれた。
「気晴らしのつもりだったけど、つい楽しくてガッツリ釣ってしまったな」
スカリの中は15匹もの鰻がひしめき合い、思わず涎が垂れそうな光景を生み出している。
そこから40cm以下の個体を逃がしても8匹が残る結果となり、大満足の釣果と言えるだろう。
「よく頑張ったなギンレイ。
ほら、御褒美をあげるよ」
ヒメゴトミツバチのハチミツを竹皿に入れると飛び掛かる勢いで食べ尽くし、もうないのかと悲しい声で鳴く。
いつも思うが、もう少し味わって食べてくれよ。
残念ながらハチミツのストックは…なくはない。
初音がくすねた分があるはずなのだが、どこに隠し持ってるんだ?
「そこは後日探すとして、今日は帰ろうか」
異世界での休暇を存分に満喫した俺達は、今夜の夕食という土産を手に帰路につく。
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