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第一部 ニ章 異世界キャンパー編
土木建築? 人類の伝統料理です!
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「どう考えてもヤバいじゃろ……。
本当に口にしてよいのか?」
もっともな意見だ。
しかし、種麹は文句のつけようもなく完璧に米麹へと変化しており、恐るべき早さで発酵が進んだという事実だけが目の前に存在していた。
この現象を起こした発酵石の正体は巨大ツチナマズの体内で生成された胃石なのだが、体長1mクラスの大物からしか手に入らなかった稀少な物。
どのような経緯で作られたのか、何故食品を変化させる効果を持つのかは一切が不明。
「と、兎に角だ。
これを元にして日本酒を作ってみようぜ」
気を取り直して酒作りを再開するが、酒好きの初音が乗り気ではないのを見るに、かなり衝撃的な出来事だったのは言うまでもない。
かくいう俺も作業の継続を躊躇してしまった程。
だが、迷ったりしている時間はない。
恐らく、今夜にでも女媧サマ御一行はここに到着なさるだろう。
決戦の時は近い――。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「葦拿よ、お前が定めた1刻(約2時間)が過ぎた。
そろそろ調理できたのではないか?
これ以上、姫様を御待たせするな」
「だ、大丈夫っす…。
こっちもギリ終わったとこなんで」
あれから複数の飯盒を買い足して、ようやく満足できる量の日本酒を確保した。
なんせ量が半端ではないので時間が掛かってしまったが、どうにか間に合ったというワケだ。
既に周囲は真っ暗になっており、地中から立ち上る湯気は仄かな香りを含み、未だ見ぬ料理への期待を高めていく。
俺はスコップで砂利を掘り返した後、一粒の石を水の入ったバケツに落とすと、音と泡立ちが数秒間保持されているのを確認する。
「これだけ石が焼けてるなら十分ですよ。
ナマズを掘り返しましょう」
熱々の砂利をどけて姿を現したのは、業務用アルミホイル50mを丸々三本と金網を使って包まれた巨大ツチナマズ。
皆で穴から引っ張り出した後は金網をペンチで切り、土木建築じみた工程を経て、ようやくギリのレベルで料理の体を成した。
それでも銀色の薄衣を纏う姿は異世界の人達には奇妙に見えたらしく、しきりに触れたり摘まんだりしてアルミホイルの感触を不思議がっている。
いや、確かに未知の物体っぽいけどさ…。
「ちゃんと中の方まで焼けてるかな?」
好奇心に触発された指先が秘めた衣を開け放ち、地に封じられた怪魚が再び姿を現す。
ヌメリに被われた保護色の体表は見違える程にこんがりと焼き上がり、パリッとした皮から漂う香ばしい匂いが空腹に拍車をかける。
旅では欠かせない調味料であるカドデバナのお陰なのか、爽やかな風味が加わった事で、もはや不気味とも呼べる巨体も多少は受け入れやすくなったのは予想外の効果だった。
「決戦前にガッツリ食べて鋭気を養おうか!
あしな特製、巨体ツチナマズの姿蒸しでな!」
本当に口にしてよいのか?」
もっともな意見だ。
しかし、種麹は文句のつけようもなく完璧に米麹へと変化しており、恐るべき早さで発酵が進んだという事実だけが目の前に存在していた。
この現象を起こした発酵石の正体は巨大ツチナマズの体内で生成された胃石なのだが、体長1mクラスの大物からしか手に入らなかった稀少な物。
どのような経緯で作られたのか、何故食品を変化させる効果を持つのかは一切が不明。
「と、兎に角だ。
これを元にして日本酒を作ってみようぜ」
気を取り直して酒作りを再開するが、酒好きの初音が乗り気ではないのを見るに、かなり衝撃的な出来事だったのは言うまでもない。
かくいう俺も作業の継続を躊躇してしまった程。
だが、迷ったりしている時間はない。
恐らく、今夜にでも女媧サマ御一行はここに到着なさるだろう。
決戦の時は近い――。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「葦拿よ、お前が定めた1刻(約2時間)が過ぎた。
そろそろ調理できたのではないか?
これ以上、姫様を御待たせするな」
「だ、大丈夫っす…。
こっちもギリ終わったとこなんで」
あれから複数の飯盒を買い足して、ようやく満足できる量の日本酒を確保した。
なんせ量が半端ではないので時間が掛かってしまったが、どうにか間に合ったというワケだ。
既に周囲は真っ暗になっており、地中から立ち上る湯気は仄かな香りを含み、未だ見ぬ料理への期待を高めていく。
俺はスコップで砂利を掘り返した後、一粒の石を水の入ったバケツに落とすと、音と泡立ちが数秒間保持されているのを確認する。
「これだけ石が焼けてるなら十分ですよ。
ナマズを掘り返しましょう」
熱々の砂利をどけて姿を現したのは、業務用アルミホイル50mを丸々三本と金網を使って包まれた巨大ツチナマズ。
皆で穴から引っ張り出した後は金網をペンチで切り、土木建築じみた工程を経て、ようやくギリのレベルで料理の体を成した。
それでも銀色の薄衣を纏う姿は異世界の人達には奇妙に見えたらしく、しきりに触れたり摘まんだりしてアルミホイルの感触を不思議がっている。
いや、確かに未知の物体っぽいけどさ…。
「ちゃんと中の方まで焼けてるかな?」
好奇心に触発された指先が秘めた衣を開け放ち、地に封じられた怪魚が再び姿を現す。
ヌメリに被われた保護色の体表は見違える程にこんがりと焼き上がり、パリッとした皮から漂う香ばしい匂いが空腹に拍車をかける。
旅では欠かせない調味料であるカドデバナのお陰なのか、爽やかな風味が加わった事で、もはや不気味とも呼べる巨体も多少は受け入れやすくなったのは予想外の効果だった。
「決戦前にガッツリ食べて鋭気を養おうか!
あしな特製、巨体ツチナマズの姿蒸しでな!」
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