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第一部 ニ章 異世界キャンパー編
続・異世界釣行
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「フロッグルアー自体の反応は悪くない。
今度はもう少し派手なカラーにしてみよう」
選んだのは定番の緑から金ピカの物に替え、更にアクションによってルアー内部に仕込んだ玉が音を出す仕掛付きだ。
これだけ濃い霧が立ち込めているのであれば、そこに潜む生物は目立つ物に反応を示すはず。
今度は泥沼に半分沈んだ倒木の辺りを探ると、またしても動きを見せる生物が現れる。
人里離れた奥地なら釣り人に対して無警戒かと思いきや、実際にはホーム周辺の川よりも遥かに手強い。
それだけ泥沼地が生存していく上で厳しい環境だという事なのだろう。
中々食いつこうとはしないながらも、気にしている様子が伝わってくる。
「通常のアクションじゃダメか。
だったら、こっちもソレに対応するまで!」
俺は敢えて倒木にルアーを当てて音を出し、泥の中に潜む生物を挑発する。
通常なら、普通ならば、こんなやり方では魚が驚いて逃げてしまうだろう。
だけど、ここは異世界だ。
何もかもが俺の知っている世界とは違う。
だとすれば――。
「ほれほれ、大事な住処が攻撃されてんぞ。ほ~れほれ…そうそう……いいぞ……そこォ!」
度重なる家ドンによって我慢の限界を突破した住人は本能を爆発させ、迷惑な来客へ猛然と食らいつく!
強引に怒らせて勝負に誘い込むまでは良かったのだが、想像していたよりも遥かに――強いッ!
「とん…でもない引きッ!
まるで岩みたいに……!」
水底の障害物に根掛かりしてしまう事を俗に『地球を釣った』と呼ぶが、この時の感覚もまさにソレだった。
ドラグを一杯に締めて引いてもビクともせず、うっかり倒木に引っ掛けたのかと錯覚してしまう程。
しかし、手元に伝わる感覚は鈍重ながらもヒット特有の振動があり、その先に未知の獲物がいるのは間違いない。
新調した釣具と糸を信じて力の限り引くと、なんと近くの倒木が動き始めた!
「やっぱり引っ掛けちまったんか?
……あれ? 急に素直な反応に…」
先程までの強烈な引きはウソのように収まり、水を吸った座布団を引きずるような手応えを残したまま、巻き取られていくライン。
裂けた倒木の一部を引っ掛けたのかと落胆した矢先、泥にまみれたフロッグルアーを見ると――。
「え? あれ!? 釣れてる!
一体どうなって……あぁ、そういう事か」
釣られた相手を見て、全ての謎を余すところなく理解した。
『異世界の歩き方』によれば釣れたのは『ヌマギンチャクガメ』というスッポンの一種で、背中に強力な吸盤を持つ刺胞動物をくっつけて共生関係を築く珍しい生き物だ。
一方は外敵から身を守る為。
もう一方は移動手段として互いに利用し合う関係なのだが、どうやら引っ張った事で甲羅のヌマギンチャクが倒木から離れてしまったらしい。
しかし、何よりも驚いたのは亀の大きさだ。
甲羅だけでも体長が50cmもある大物!
しかも、美味ともなれば夕食の主役として申し分ないだろう。
「背中に乗ってる奴の見た目は吸盤のあるイソギンチャクだな。淡水では生きられないはずなんだけど…ここは異世界だし、深く考えても無駄か」
残念だが今回もターゲットのツチナマズではなかった。
とはいえ、今夜の夕飯という大役を担ってもらう為、出番が来るまで宿で休んでもらおう。
その後、再び周囲を探るが反応はパッタリと途絶え、どれだけルアーを替えても結果は変わらなかった。
どうやら完全に警戒されてしまったようで、しばらくは釣れないだろう。
「おーい! 今夜の夕餉はどうじゃ?
なんぞ旨い物でも釣れたかのう?」
タイミングよく初音達も帰ってきた。
満面の笑顔で掲げられたトートバッグには山盛りの植物が詰め込まれ、しっかりと食料になりそうな物を採取してくれたようだ。
俺は一旦釣具を片付けると、初音達を出迎えた。
こうなったら後は夜釣りに賭けるしかない。
「おう、今夜は高級スッポン鍋だよ」
今度はもう少し派手なカラーにしてみよう」
選んだのは定番の緑から金ピカの物に替え、更にアクションによってルアー内部に仕込んだ玉が音を出す仕掛付きだ。
これだけ濃い霧が立ち込めているのであれば、そこに潜む生物は目立つ物に反応を示すはず。
今度は泥沼に半分沈んだ倒木の辺りを探ると、またしても動きを見せる生物が現れる。
人里離れた奥地なら釣り人に対して無警戒かと思いきや、実際にはホーム周辺の川よりも遥かに手強い。
それだけ泥沼地が生存していく上で厳しい環境だという事なのだろう。
中々食いつこうとはしないながらも、気にしている様子が伝わってくる。
「通常のアクションじゃダメか。
だったら、こっちもソレに対応するまで!」
俺は敢えて倒木にルアーを当てて音を出し、泥の中に潜む生物を挑発する。
通常なら、普通ならば、こんなやり方では魚が驚いて逃げてしまうだろう。
だけど、ここは異世界だ。
何もかもが俺の知っている世界とは違う。
だとすれば――。
「ほれほれ、大事な住処が攻撃されてんぞ。ほ~れほれ…そうそう……いいぞ……そこォ!」
度重なる家ドンによって我慢の限界を突破した住人は本能を爆発させ、迷惑な来客へ猛然と食らいつく!
強引に怒らせて勝負に誘い込むまでは良かったのだが、想像していたよりも遥かに――強いッ!
「とん…でもない引きッ!
まるで岩みたいに……!」
水底の障害物に根掛かりしてしまう事を俗に『地球を釣った』と呼ぶが、この時の感覚もまさにソレだった。
ドラグを一杯に締めて引いてもビクともせず、うっかり倒木に引っ掛けたのかと錯覚してしまう程。
しかし、手元に伝わる感覚は鈍重ながらもヒット特有の振動があり、その先に未知の獲物がいるのは間違いない。
新調した釣具と糸を信じて力の限り引くと、なんと近くの倒木が動き始めた!
「やっぱり引っ掛けちまったんか?
……あれ? 急に素直な反応に…」
先程までの強烈な引きはウソのように収まり、水を吸った座布団を引きずるような手応えを残したまま、巻き取られていくライン。
裂けた倒木の一部を引っ掛けたのかと落胆した矢先、泥にまみれたフロッグルアーを見ると――。
「え? あれ!? 釣れてる!
一体どうなって……あぁ、そういう事か」
釣られた相手を見て、全ての謎を余すところなく理解した。
『異世界の歩き方』によれば釣れたのは『ヌマギンチャクガメ』というスッポンの一種で、背中に強力な吸盤を持つ刺胞動物をくっつけて共生関係を築く珍しい生き物だ。
一方は外敵から身を守る為。
もう一方は移動手段として互いに利用し合う関係なのだが、どうやら引っ張った事で甲羅のヌマギンチャクが倒木から離れてしまったらしい。
しかし、何よりも驚いたのは亀の大きさだ。
甲羅だけでも体長が50cmもある大物!
しかも、美味ともなれば夕食の主役として申し分ないだろう。
「背中に乗ってる奴の見た目は吸盤のあるイソギンチャクだな。淡水では生きられないはずなんだけど…ここは異世界だし、深く考えても無駄か」
残念だが今回もターゲットのツチナマズではなかった。
とはいえ、今夜の夕飯という大役を担ってもらう為、出番が来るまで宿で休んでもらおう。
その後、再び周囲を探るが反応はパッタリと途絶え、どれだけルアーを替えても結果は変わらなかった。
どうやら完全に警戒されてしまったようで、しばらくは釣れないだろう。
「おーい! 今夜の夕餉はどうじゃ?
なんぞ旨い物でも釣れたかのう?」
タイミングよく初音達も帰ってきた。
満面の笑顔で掲げられたトートバッグには山盛りの植物が詰め込まれ、しっかりと食料になりそうな物を採取してくれたようだ。
俺は一旦釣具を片付けると、初音達を出迎えた。
こうなったら後は夜釣りに賭けるしかない。
「おう、今夜は高級スッポン鍋だよ」
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