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第一部 ニ章 異世界キャンパー編
新たなるフィールド 泥沼地
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食事休憩によって気力体力を回復させた俺達は旅を再開し、渓流沿いに続く険しい道を遡上していく。
もう気づいていると思うが神奈備の杜は奥に進めば進む程、そこに住む生き物の生態系は独自性を強め、俺の居た世界とは似ても似つかない世界《モノ》となっていた。
恐らく、ココもそうなのだろう。
「川の流れがゆるりと思うたらば、この様な場所に出るとはのう」
目の前に広がるのは広大な泥地。
沼よりも遥かに水気が少なく、突き立てた棒が際限なく飲み込まれる底無しの泥。
しかも先程まで晴れ渡る青空だったのに、沼に近づいた途端、濃密な霧が立ち込めて5m先も見通す事ができない。
神奈備の杜の奥地は生態系だけでなく、自然環境まで独自の形態を保っているようだ。
「だけど…いや、もしかしたら…居るかもしれん」
「居るとな?
ここは人の住めるような土地ではなかろう。
ん、どこへ行こうというのじゃ?」
俺は水辺へ近づくと『異世界の歩き方』を取り出し、何度も見比べて確信を得る。
「この環境なら…俺がずっと探し求めていた生物がみつかるかもしれない。初音、今日はここで野営するぞ」
「それは構わぬが…よいのか?
急がねば再び魑魅魍魎に襲われるやもしれぬぞ」
不可視のバケモノの事か。
確かに襲撃される恐れはあるだろうが、それ以上に狙っている物を手に入れておきたいのだ。
ターゲットとなるのは『ツチナマズ』と呼ばれる魚で、水の流れが完全に止まった場所を好み、日中は涼しい場所に潜んで獲物を補食するという習性を持つ。
性格はかなり獰猛な上に成長につれて大型化する魚類らしく、お手製の竹竿で運良く釣れる相手ではないだろう。
「そうなると、こっちも装備をグレードアップするまでだ。このAwazonでな!」
ビッグベイト専用のロッドとリール、更に道糸はPE3号という極太のラインを選択した。
これなら大型のバスや雷魚のみならず、カツオですら釣り上げられる程の強度を持つ。
他にも様々なルアーを揃えてみたが、これらが有効かどうかは釣場の環境や季節、投げ込むポイントやアングラーとしての腕前に加え、どうにもならない運の要素まで複雑に絡む。
「だからこそ、釣りは面白いんだよ」
現実には本当に難しくて中々釣れない。
けど--そこで色々と試行錯誤するのが楽しくて仕方がないんだ。
俺の目の前に広がるのは泥沼という全く未知のエリア。
そして、制限時間という制約まである中、ターゲットのツチナマズを釣り上げる事ができるのだろうか。
「ま、やるからには釣ってもらわんとのう。
今宵の夕餉も期待しておるぞよ」
今回は食べる為に釣りをしている訳では……まぁ、そこは問題じゃないか。
兎に角、ツチナマズは釣らなきゃならないんだ――絶対にな…。
「初音とギンレイは新しいフィールドで食料を探しておいてくれ。俺はそれまで手持ちのルアーで頑張ってみるよ」
ギンレイは指示を受け取ると自慢の鬣をなびかせ、足早に近くの林へと消えていった。
慌てて初音がトートバッグ片手に後を追う。
『異世界の歩き方』に記載されたツチナマズに関する情報は少なく、殆ど不明なまま挑むとなれば相応の苦戦が伴うだろう。
けど、俺達ならきっと大丈夫!
「第一投はカエルの姿を模したフロッグルアーを試してみよう。肉食の雷魚を狙う時には定番だからな」
舞台となる泥沼地のあちらこちらでカエルらしき生き物が活動しており、これらをツチナマズが補食していても不思議ではない。
まずは近場から丹念にポイントを探り、ゆっくり丁寧に捜索範囲を広げていくと、泥から顔を出していた大きな岩影で僅かに反応があった。
どうやら想像以上に警戒心が高く、そう簡単に姿を現すつもりはないらしい。
俺はポイントを絞るとルアーに様々な動作をつけて誘い、決定的な瞬間を辛抱強く待つ。
やがて――。
「……こい…こい…もう少し…………そこだッ!」
文字通り鼻先で繰り返される誘惑に根負けし、食らいついた一瞬の隙にフッキング!
しかし、勝負はここからが本番だ。
未だ相手がどんな魚なのか分からず、狙っているツチナマズかどうかも不明。
そして、相手は言わずと知れた異世界の生物という事実を、俺は存分に味わう事となる。
「なんだ? なん……うわぁ!」
フロッグルアーの針は完璧に口内を貫いていたにも関わらず、小さな破裂音と共にルアーはドロドロに溶けてしまい、まんまと逃げられてしまった!
「ウソだろ!? 自爆……じゃないよなぁ」
泥沼から顔を出していたのは、カエルに似た水棲生物の『ハゼハゼ』で、頬に備えた大きな水泡が特徴。
外敵に捕まった際は毒液の詰まった水泡を破裂させ、首尾良く殺せた場合は逆に補食してしまうという恐ろしい性質を持つ。
今回は疑似餌だったので食べずに逃げる事を優先したようだが、やはり未知の世界には未知の生物が存在する。
残念ながらツチナマズではなかったものの、改めて異世界に住む生物の奥深さを見せてもらった。
「こいつは……手こずらせてくれそうだな」
日ノ本の禁則地である神奈備の杜で生きる魚が、一筋縄で釣れてくれるなんて最初から思っちゃいない。
俺は気を取り直すと素早くルアーを交換し、次なるポイントを探っていく。
もう気づいていると思うが神奈備の杜は奥に進めば進む程、そこに住む生き物の生態系は独自性を強め、俺の居た世界とは似ても似つかない世界《モノ》となっていた。
恐らく、ココもそうなのだろう。
「川の流れがゆるりと思うたらば、この様な場所に出るとはのう」
目の前に広がるのは広大な泥地。
沼よりも遥かに水気が少なく、突き立てた棒が際限なく飲み込まれる底無しの泥。
しかも先程まで晴れ渡る青空だったのに、沼に近づいた途端、濃密な霧が立ち込めて5m先も見通す事ができない。
神奈備の杜の奥地は生態系だけでなく、自然環境まで独自の形態を保っているようだ。
「だけど…いや、もしかしたら…居るかもしれん」
「居るとな?
ここは人の住めるような土地ではなかろう。
ん、どこへ行こうというのじゃ?」
俺は水辺へ近づくと『異世界の歩き方』を取り出し、何度も見比べて確信を得る。
「この環境なら…俺がずっと探し求めていた生物がみつかるかもしれない。初音、今日はここで野営するぞ」
「それは構わぬが…よいのか?
急がねば再び魑魅魍魎に襲われるやもしれぬぞ」
不可視のバケモノの事か。
確かに襲撃される恐れはあるだろうが、それ以上に狙っている物を手に入れておきたいのだ。
ターゲットとなるのは『ツチナマズ』と呼ばれる魚で、水の流れが完全に止まった場所を好み、日中は涼しい場所に潜んで獲物を補食するという習性を持つ。
性格はかなり獰猛な上に成長につれて大型化する魚類らしく、お手製の竹竿で運良く釣れる相手ではないだろう。
「そうなると、こっちも装備をグレードアップするまでだ。このAwazonでな!」
ビッグベイト専用のロッドとリール、更に道糸はPE3号という極太のラインを選択した。
これなら大型のバスや雷魚のみならず、カツオですら釣り上げられる程の強度を持つ。
他にも様々なルアーを揃えてみたが、これらが有効かどうかは釣場の環境や季節、投げ込むポイントやアングラーとしての腕前に加え、どうにもならない運の要素まで複雑に絡む。
「だからこそ、釣りは面白いんだよ」
現実には本当に難しくて中々釣れない。
けど--そこで色々と試行錯誤するのが楽しくて仕方がないんだ。
俺の目の前に広がるのは泥沼という全く未知のエリア。
そして、制限時間という制約まである中、ターゲットのツチナマズを釣り上げる事ができるのだろうか。
「ま、やるからには釣ってもらわんとのう。
今宵の夕餉も期待しておるぞよ」
今回は食べる為に釣りをしている訳では……まぁ、そこは問題じゃないか。
兎に角、ツチナマズは釣らなきゃならないんだ――絶対にな…。
「初音とギンレイは新しいフィールドで食料を探しておいてくれ。俺はそれまで手持ちのルアーで頑張ってみるよ」
ギンレイは指示を受け取ると自慢の鬣をなびかせ、足早に近くの林へと消えていった。
慌てて初音がトートバッグ片手に後を追う。
『異世界の歩き方』に記載されたツチナマズに関する情報は少なく、殆ど不明なまま挑むとなれば相応の苦戦が伴うだろう。
けど、俺達ならきっと大丈夫!
「第一投はカエルの姿を模したフロッグルアーを試してみよう。肉食の雷魚を狙う時には定番だからな」
舞台となる泥沼地のあちらこちらでカエルらしき生き物が活動しており、これらをツチナマズが補食していても不思議ではない。
まずは近場から丹念にポイントを探り、ゆっくり丁寧に捜索範囲を広げていくと、泥から顔を出していた大きな岩影で僅かに反応があった。
どうやら想像以上に警戒心が高く、そう簡単に姿を現すつもりはないらしい。
俺はポイントを絞るとルアーに様々な動作をつけて誘い、決定的な瞬間を辛抱強く待つ。
やがて――。
「……こい…こい…もう少し…………そこだッ!」
文字通り鼻先で繰り返される誘惑に根負けし、食らいついた一瞬の隙にフッキング!
しかし、勝負はここからが本番だ。
未だ相手がどんな魚なのか分からず、狙っているツチナマズかどうかも不明。
そして、相手は言わずと知れた異世界の生物という事実を、俺は存分に味わう事となる。
「なんだ? なん……うわぁ!」
フロッグルアーの針は完璧に口内を貫いていたにも関わらず、小さな破裂音と共にルアーはドロドロに溶けてしまい、まんまと逃げられてしまった!
「ウソだろ!? 自爆……じゃないよなぁ」
泥沼から顔を出していたのは、カエルに似た水棲生物の『ハゼハゼ』で、頬に備えた大きな水泡が特徴。
外敵に捕まった際は毒液の詰まった水泡を破裂させ、首尾良く殺せた場合は逆に補食してしまうという恐ろしい性質を持つ。
今回は疑似餌だったので食べずに逃げる事を優先したようだが、やはり未知の世界には未知の生物が存在する。
残念ながらツチナマズではなかったものの、改めて異世界に住む生物の奥深さを見せてもらった。
「こいつは……手こずらせてくれそうだな」
日ノ本の禁則地である神奈備の杜で生きる魚が、一筋縄で釣れてくれるなんて最初から思っちゃいない。
俺は気を取り直すと素早くルアーを交換し、次なるポイントを探っていく。
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