上 下
71 / 153
第一部 ニ章 異世界キャンパー編

クチバシカモノのタマゴ、ゲットだぜ!

しおりを挟む
 清流と緑に囲まれた美しい森に、命乞いにも等しい無様な悲鳴が響き渡る。

「あああうああああ死ぬ!
 死ぬぅぅううあああ!!」

 まずは状況を説明しなければならないだろう。
 俺達は滝壺を出発した道すがら、とんでもない大きさの巨大タマゴと出会った。
 サイズが60cmを超える楕円形の青白い色合いで、初音は未知の食材に一目でとりことなってしまう。
 次に言い出す言葉は聞かなくても分かるだろ?

「うむうむ、喰わずともワシには分かる。
 これは相違なく旨い。ゆえに喰う!」

 俺は止めたのだが初音は持っていくと言って聞かず、『モンハン』じみた卵運搬クエストを気楽に始めてしまったのだ。
 タマゴがこれだけの大きさであれば、親はどれだけの巨体なのか想像もつかないのに…。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「予想通りッ…! 圧倒的…!
 やっぱ親が出てきたじゃねーか!
 しかも怒ってる! めっちゃキレてるやん!」

「絶対に落とすなよ、あしな!
 今宵は山盛りのタマゴ料理じゃぞ!」

 奥の手は最後の最後まで取っておく物。
 しかし、退きならない状況において、確固たる意思を保つ事は何よりも難しい。
 体長4mにも及ぶカモノハシみたいな怪物に追われている今、ダッチ少佐の言葉はあくまでもフィクションの話であり、俺は決して筋肉モリモリマッチョマンの変態主人公などではないのだ。

「おおおおお!? はや、速ぇぇええ!?
 おい…追いつかれちまうぞオイィィイイ!」

 飯の為に命をける鬼女は、それでも嬉々とした表情でギンレイの後をひた走る。
 ダンプカー並みの勢いで俺達を猛追しているのは『クチバシカモノ』という名の哺乳類。
 ――なのだが、世にも珍しく卵を産むという特徴を持つ。
 本来は日ノ本の環境に適さない国の生き物で、いわゆる外来種という位置付けなのだが、恐らく他の地域とは異なる環境である神奈備かんなびもりに適応して、居着いてしまった個体なのだろう。
 それはそれとして、追いつかれたら死ぬ!

「教えなきゃよかった!
 コイツのタマゴが激レアなんてよぉおお!!」

「愚か者め!
 それを知って、見す見す手をこまねく訳がなかろう!」

 ですよねー。
 余計な事を口走った俺がアホでした。
 このままダチョウのタマゴよりもデカいのを抱えて、無事に逃げ切れるだろうか?
 ……絶対ゼッテェ、無理ッ!
 現実はそうそう甘くない。
 だとするなら、やるしかないだろ!

「ハァ、ハァ! 俺からの…出産祝いだ!」

 ノコギリ状の鋭い歯が並ぶクチバシへ向かって放り投げたのは熊撃退スプレー。
 登山をたしなむ者にとっては必須のアイテムであり、熊に対して絶大な効果を発揮する護身アイテムだ。
 スプレーが口に入った直後、破裂音と同時にクチバシカモノの体は大きくバランスを崩し、付近の大木に衝突して七転八倒を繰り返す!

「今だぁぁああ!
 死ぬ気で逃げろやぁぁああ!!」

 恥も外聞もありゃしねぇ。
 けど、そんな物で命が助かるなら、全部かなぐり捨てて生き延びてやる!
 ウキウキで走る初音を横目に、主人公らしからぬ決意で逃げ切る事に成功するのだった。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

ここが伝説の迷宮ですか? いいえ、魔物の集合住宅です

ムク文鳥
ファンタジー
 魔界に存在するたくさんの魔物が暮らす集合住宅(アパート)、ヘルヘイム荘。  そのヘルヘイム荘のオーナー兼管理人である「大家さん」の悩みは、時々人間界から、ここを「伝説の迷宮(ダンジョン)」だと間違えて、冒険者たちが紛れ込んでくること。  大家さんが時に冒険者たちを返り討ちにし、時にアパートの住人たちと交流するほのぼのストーリー。

巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~

細波
ファンタジー
(3月27日変更) 仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる… と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ! 「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」 周りの人も神も黒い! 「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」 そんな元オッサンは今日も行く!

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

処理中です...