61 / 153
第一部 ニ章 異世界キャンパー編
猪肉のリエットとベニワラベのデザート
しおりを挟む
初音の体調が回復したとはいえ、即日で山道を歩かせる訳にもいかず、大事を取ってもう一日同じ場所に滞在する事にした。
懸念があるとするなら、女媧がどこまで迫っているのかという点につきる。
しかし、これに関しては今さらアレコレ考えていても仕方がない。
「安心致せ。
時が訪れたならワシが追い返してみせようぞ!」
誇らしげに立派な胸を目一杯に張るが、足元の震えは隠しようもなく、まるで生まれたての子鹿のように立っているのがやっとだ。
……初音の気持ちは嬉しいが、次に追いつかれたなら――本当に終わりかもしれない。
「この近辺だと食料調達は難しい。
今日は残しておいた保存食を食べて、明日の早朝に出発しよう」
早々に食べる事となった猪肉の保存食。
昨夜もギンレイと一緒に食べたものの、やっぱり皆で食べておきたい。
当然、食事だけでは時間をもて余してしまう為、この間に今後を見据えて色々と済ませておこう。
「『りえった』…と言うたかのう。
どう言い表してよいものやら、なんとも面妖なれども……悪くはない」
フランス料理に詳しいワケじゃないけど、リエットはパンに直接塗ったり、ビールのつまみにして楽しむ物らしい。
温めずに常温でも食べられるが、時間はたっぷりあるので竹筒に入れたまま湯煎する。
筒から出すと見た目は形の崩れたコンビーフに似ており、溺れる程の脂身で全体が包み込まれている。
口にした途端に味覚を刺激する塩分と、鼻孔に広がる様々なスパイスの香り。
どちらも訴えを譲らず、『我こそは!』と自己の存在をこれでもかと主張してくる。
「ガッツリと効いた塩気と豊かな肉の味わい…。
こりゃ酒が欲しく――だろ?」
「全くじゃ。このような物、酒もないのに持ってくるなど…お主も分かっておらん男子よのう」
抗議じみた口調ながらも表情は涼やかで、心身ともに状態はバッチリみたいだ。
けど、流石に主食なしで食べるには辛すぎる。
これは口直しが必要だろう。
「その竹筒はなんじゃ?
まだハチミツが残っておったのかや?」
「結構な量が採れたから料理に使ってみたんだ。
あしな特製ベニワラベのハチミツ漬けさ」
そのままでは酸っぱ過ぎるベニワラベも、飛び上がる程に濃厚なハチミツをプラスすれば上手くマッチするかもしれない。
そんな実験的な要素を含んだ料理だったが、初音の口に合うだろうか?
「おぉ! 適度に抑えられた酸味にハチミツの甘さが加わって旨いのう!
甘酸っぱさと柔っこい食感が癖になるぞ」
ベニワラベは軽く湯通しした後に冷水で締めると、簡単に薄皮がむけて一段と食べやすくなる。
前日の内に下ごしらえを済ませたベニワラベに、たっぷりのハチミツとカドデバナの果汁を加えた竹筒に入れ、涼やかな清流で一晩冷したら完成だ。
一口すれば夏の旬を感じられる爽やかな味わいが楽しめる上に、茹だるような暑い日にはキンキンの冷感が何よりも有り難い。
「デザートも食べた事だし、午後もやれるだけの仕事はやっとくかねぇ」
出発は明朝。
それまでにやるべき事は相変わらず、山ほどあるのだから。
懸念があるとするなら、女媧がどこまで迫っているのかという点につきる。
しかし、これに関しては今さらアレコレ考えていても仕方がない。
「安心致せ。
時が訪れたならワシが追い返してみせようぞ!」
誇らしげに立派な胸を目一杯に張るが、足元の震えは隠しようもなく、まるで生まれたての子鹿のように立っているのがやっとだ。
……初音の気持ちは嬉しいが、次に追いつかれたなら――本当に終わりかもしれない。
「この近辺だと食料調達は難しい。
今日は残しておいた保存食を食べて、明日の早朝に出発しよう」
早々に食べる事となった猪肉の保存食。
昨夜もギンレイと一緒に食べたものの、やっぱり皆で食べておきたい。
当然、食事だけでは時間をもて余してしまう為、この間に今後を見据えて色々と済ませておこう。
「『りえった』…と言うたかのう。
どう言い表してよいものやら、なんとも面妖なれども……悪くはない」
フランス料理に詳しいワケじゃないけど、リエットはパンに直接塗ったり、ビールのつまみにして楽しむ物らしい。
温めずに常温でも食べられるが、時間はたっぷりあるので竹筒に入れたまま湯煎する。
筒から出すと見た目は形の崩れたコンビーフに似ており、溺れる程の脂身で全体が包み込まれている。
口にした途端に味覚を刺激する塩分と、鼻孔に広がる様々なスパイスの香り。
どちらも訴えを譲らず、『我こそは!』と自己の存在をこれでもかと主張してくる。
「ガッツリと効いた塩気と豊かな肉の味わい…。
こりゃ酒が欲しく――だろ?」
「全くじゃ。このような物、酒もないのに持ってくるなど…お主も分かっておらん男子よのう」
抗議じみた口調ながらも表情は涼やかで、心身ともに状態はバッチリみたいだ。
けど、流石に主食なしで食べるには辛すぎる。
これは口直しが必要だろう。
「その竹筒はなんじゃ?
まだハチミツが残っておったのかや?」
「結構な量が採れたから料理に使ってみたんだ。
あしな特製ベニワラベのハチミツ漬けさ」
そのままでは酸っぱ過ぎるベニワラベも、飛び上がる程に濃厚なハチミツをプラスすれば上手くマッチするかもしれない。
そんな実験的な要素を含んだ料理だったが、初音の口に合うだろうか?
「おぉ! 適度に抑えられた酸味にハチミツの甘さが加わって旨いのう!
甘酸っぱさと柔っこい食感が癖になるぞ」
ベニワラベは軽く湯通しした後に冷水で締めると、簡単に薄皮がむけて一段と食べやすくなる。
前日の内に下ごしらえを済ませたベニワラベに、たっぷりのハチミツとカドデバナの果汁を加えた竹筒に入れ、涼やかな清流で一晩冷したら完成だ。
一口すれば夏の旬を感じられる爽やかな味わいが楽しめる上に、茹だるような暑い日にはキンキンの冷感が何よりも有り難い。
「デザートも食べた事だし、午後もやれるだけの仕事はやっとくかねぇ」
出発は明朝。
それまでにやるべき事は相変わらず、山ほどあるのだから。
13
お気に入りに追加
304
あなたにおすすめの小説
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
追放シーフの成り上がり
白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。
前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。
これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。
ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。
ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに……
「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。
ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。
新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。
理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。
そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。
ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。
それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。
自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。
そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」?
戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ここが伝説の迷宮ですか? いいえ、魔物の集合住宅です
ムク文鳥
ファンタジー
魔界に存在するたくさんの魔物が暮らす集合住宅(アパート)、ヘルヘイム荘。
そのヘルヘイム荘のオーナー兼管理人である「大家さん」の悩みは、時々人間界から、ここを「伝説の迷宮(ダンジョン)」だと間違えて、冒険者たちが紛れ込んでくること。
大家さんが時に冒険者たちを返り討ちにし、時にアパートの住人たちと交流するほのぼのストーリー。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる