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第一部 ニ章 異世界キャンパー編

幻のハチミツを精製しよう!

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 ようやくヒメゴトミツバチが攻撃を諦めた頃、時刻は日の入りを迎えようとしていた。
 心身ともにヘトヘトの状態だが、このままハチミツを口にするのは危険だと思う。
 何故なら、『異世界の歩き方』で得ただけの情報を鵜呑《うの》みにして、蜜を口にするのは流石にリスクが高すぎる。
 本来のハチミツは蜜蜂ミツバチが巣の中で丹念に作り上げ、微妙な温度や湿度を管理した上で完成させる物。
 こうして巣から強引に奪った蜜は濃度が足りず、中和しきれていない可能性があるのだ。
 少なくとも不純物を取り除いて濃度を上げ、無毒化を確認してから初音に与えるべきだろう。

「毒味……か」

 想像すると思わず身震いしてしまう。
 しかし、ギンレイで試すくらいなら自分で口にする事を心に決め、重い足取りで初音の待つテントへと向かう。
 散々に走り回ったり大声を上げてしまったけど、初音を起こしたりしていないだろうか?
 物音を立てないよう慎重にテントへ近寄り、そっと入口を開いて中を見ると……。

「初ね……ッ!? ゴメン!!」

 ――やっちまった。
 初音は既に起きており、しかもパジャマを脱いで汗を拭っている真っ最中!
 最悪のタイミングで入ってしまった事に後悔していると、背後から声を掛けられた。

「気にせずともよい。
 それよりも……感謝するぞ。
 ワシの為に色々と苦労をかけたな」

「あぁ…いや、その…どうって事ねぇよ。
 お前の方こそ、ちゃんと薬を飲んで寝てろ。
 すぐに旨い物を食わせてやるからさ!」

 かすれた笑い声と共に聞こえてきたのは、苦しそうなきと荒い呼吸。
 ……ハチミツの精製を急ごう。
 俺はテントから少し離れた場所で調理を開始する前に、巨大なヒメゴトミツバチの巣を二つに分けた。
 内訳はハチミツが入っているエリアと、それ以外の卵や幼虫のエリアだ。

「助かるかは分からないけど、卵と幼虫はヒメゴトミツバチに返そう」

『異世界の歩き方』には可食とは記されておらず、確信が持てなかったという事もあるが、ハチ達にせめてもの贖罪しょくざいをしておきたかったのだ。
 寸胴ずんとう鍋にハチミツが貯えられたエリアを入れ、残った部分を巣のあった場所へ持っていく。
 付近を飛び回っていたハチはしばらくした後、子供達を連れてどこかへと去っていった。
 俺がハチ達にしてやれるのはここまでだろう。

「よし、本格的に精製を始めよう!」

 巣とハチミツを取り扱う最中は実験用手袋は欠かさず着用し、念の為に寸胴ずんとう鍋も後で処分しておく事にする。
 なにしろ熊でさえ即死させる毒ともなれば、細心の注意を払って作業にあたるのは当然だ。
 火加減を調節しながら巣を崩し、ハチミツと一緒に煮込んでいく。
 無毒化の基準は不明なままだけど、少なくとも全体の粘り気や色合いが均一になるまで、余分な水分を飛ばしておく必要がある。
 背中に流れる嫌な汗と、脳裏に浮かんでは消えていく不吉な予感。
 本当に大丈夫なのかという不安と、一縷いちるの望みに賭けた希望が絶えず交錯する。
 そんな中、次第に立ち込める芳香ほうこう
 それは俺のよく知るハチミツや砂糖など比較にもならず、辺り一面に甘い香水を振りいたかのような強く、脳の中枢にまで届き得る程の印象深い香り!
 精巧なあめ細工とも思える粘りと、黄金こがね色に輝く美しい色艶いろつや

「まるで溶けた純金みたいだ!
 これは…本当に完成したのか…?」

 ギンレイが隣で固唾かたづを飲んで見守る中、竹スプーンで恐る恐るすくい取ると……。

「う……あぁ……うぶっ……!」

 想像を遥かに絶する!
 僅かに口に含んだだけでも分かる激重げきおもなカロリー!
 その一方、驚くべき効能を身をもって体験する。

「す、すげぇ! 痛みが…ハチに刺された痛みすら忘れてしまう程の回復力! ウソみたいだ…」

 奇跡とか、空想などと表現するしかない。
 しかし、これらは全てが現実であり、間違いなく無毒化に成功したんだ!

「あしな特製ヒメゴトミツバチのハチミツ…完成だぜ! 待ってろよ、初音!」
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