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第一部 ニ章 異世界キャンパー編
キノコたっぷりの蟹塩鍋
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「最後はキノコたっぷりの塩鍋でシメようか」
フルコースのフィナーレはカニ料理の定番である鍋物。
水辺は日が沈むと予想以上に冷え、暖かい食事の代名詞と言える鍋は未だ外す事のできないマストメニューだ。
しかも、蟹味噌を煮詰めたスープで作ったので、香りは焼きよりも遥かに強く、寸胴鍋を開けた途端にギンレイは落ち着かない様子。
嗅覚に優れた狼なら当然の反応だろう。
「よーし、冷ましてあげたから沢山食べてくれよ」
居ても立っても居られないといった感じのギンレイに配膳すると、猛烈な勢いで食べ始めた。
今夜はずっと食べっ放しの状態が続いており、そろそろ満腹になるかと思われたのだが、まだ食べ足りないと言わんばかりだ。
「あしな! ワシにもくれ!」
「あいあい、キノコも忘れずにな」
蟹の存在に隠れがちだが、今日採取したばかりのキノコも見逃せない食材だ。
『異世界の歩き方』のお陰で毒の有無が判別出来たのは非常に大きく、ここでも貴重な機会を得る切っ掛けとなってくれた。
異世界に来たばかりの頃は危なくてスルーしたけど、安心して食べられる恩恵は果てしなくデカい。
「……キノコ! 正直、蟹の付け合わせ程度にしか考えとらんかったが、恐ろしく強い旨味じゃぞ!」
「マジな話、全然カニに負けてない…。
有り得んくらいメッチャ旨いな」
俺も箸休めとしか思っていなかったキノコの名は、ネノヒラドンコとキョテンシメジ。
ネノヒラドンコは立派な傘から飛び出た突起が特徴的で、全体が真っ白なキノコ。
白いキノコは有毒な物が多く、現実の世界なら極一部を除いて食べられない。
『異世界の歩き方』がなければ間違いなく手を出していなかっただろう。
キョテンシメジの方は木の根元を埋め尽くすように群生しており、その名が示す通り敵地を占領するという意味合いで、日ノ本では武士に好まれる縁起物として流通しているらしい。
「ワシもよく食しておったがの、天然物は少々アクが強いが旨味もあってよいのう」
どうやら日ノ本ではキョテンシメジを栽培した物が一般的なのだそうだ。
どちらも蟹の旨味を吸って極上の逸品へとレベルアップし、主役に取って代わろうと画策しているとすら思える。
しかしながら、舞台を鍋に移したイワガニモドキは一歩たりとも退かず、持ち前の旨さに加えて蕩ける歯応えまで披露してくれた。
「焼きとも刺身とも一味違う。
確かな歯応えなのに、驚く程に滑らかな舌触り。
素晴らしい食材だった……感謝。」
無風の月夜が鏡張りの水面に影を落とし、イワガニモドキの産卵が一斉に始まりの時を迎える。
月明かりを受けて僅かに発光する無数の命が放たれ、荒波に揉まれて強く育ち、また生まれた川へと戻っていく。
命の循環を目の当たりにした今、最大限の感謝で気持ちもお腹も一杯だ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
フルコースのフィナーレはカニ料理の定番である鍋物。
水辺は日が沈むと予想以上に冷え、暖かい食事の代名詞と言える鍋は未だ外す事のできないマストメニューだ。
しかも、蟹味噌を煮詰めたスープで作ったので、香りは焼きよりも遥かに強く、寸胴鍋を開けた途端にギンレイは落ち着かない様子。
嗅覚に優れた狼なら当然の反応だろう。
「よーし、冷ましてあげたから沢山食べてくれよ」
居ても立っても居られないといった感じのギンレイに配膳すると、猛烈な勢いで食べ始めた。
今夜はずっと食べっ放しの状態が続いており、そろそろ満腹になるかと思われたのだが、まだ食べ足りないと言わんばかりだ。
「あしな! ワシにもくれ!」
「あいあい、キノコも忘れずにな」
蟹の存在に隠れがちだが、今日採取したばかりのキノコも見逃せない食材だ。
『異世界の歩き方』のお陰で毒の有無が判別出来たのは非常に大きく、ここでも貴重な機会を得る切っ掛けとなってくれた。
異世界に来たばかりの頃は危なくてスルーしたけど、安心して食べられる恩恵は果てしなくデカい。
「……キノコ! 正直、蟹の付け合わせ程度にしか考えとらんかったが、恐ろしく強い旨味じゃぞ!」
「マジな話、全然カニに負けてない…。
有り得んくらいメッチャ旨いな」
俺も箸休めとしか思っていなかったキノコの名は、ネノヒラドンコとキョテンシメジ。
ネノヒラドンコは立派な傘から飛び出た突起が特徴的で、全体が真っ白なキノコ。
白いキノコは有毒な物が多く、現実の世界なら極一部を除いて食べられない。
『異世界の歩き方』がなければ間違いなく手を出していなかっただろう。
キョテンシメジの方は木の根元を埋め尽くすように群生しており、その名が示す通り敵地を占領するという意味合いで、日ノ本では武士に好まれる縁起物として流通しているらしい。
「ワシもよく食しておったがの、天然物は少々アクが強いが旨味もあってよいのう」
どうやら日ノ本ではキョテンシメジを栽培した物が一般的なのだそうだ。
どちらも蟹の旨味を吸って極上の逸品へとレベルアップし、主役に取って代わろうと画策しているとすら思える。
しかしながら、舞台を鍋に移したイワガニモドキは一歩たりとも退かず、持ち前の旨さに加えて蕩ける歯応えまで披露してくれた。
「焼きとも刺身とも一味違う。
確かな歯応えなのに、驚く程に滑らかな舌触り。
素晴らしい食材だった……感謝。」
無風の月夜が鏡張りの水面に影を落とし、イワガニモドキの産卵が一斉に始まりの時を迎える。
月明かりを受けて僅かに発光する無数の命が放たれ、荒波に揉まれて強く育ち、また生まれた川へと戻っていく。
命の循環を目の当たりにした今、最大限の感謝で気持ちもお腹も一杯だ。
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