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第一部 ニ章 異世界キャンパー編

三星レアリティ! イワガニモドキの刺身コース

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 鬼娘と狼の注文オーダーに応えるべく、高速で焼きと消費を繰り返す。
 俺も合間に堪能させてもらっているが、まだまだフルコースは始まったばかり。

「さぁ~て、ここからは趣向を変えさせてくぜ? 新鮮だからこそ口にできる魅惑の刺身だ!」

「おぃぃい! そんなもん旨い奴じゃろ!?
 絶対最高に決まっておろうよ! あああ!
 何故なぜに酒がないのかぁぁあ!」

 涙を流して悔しがる初音。
 正直、そこまでされると逆に引くぞ。

「あ、あぁ…まぁ落ち着いて?
 ほらほら、まずは食べてみなよ」

 涙で前が見えてない初音に剥き身を手渡す。
 使うのは薄口醤油。
 濃口ではカニの甘味が上書きされてしまう為、邪魔をしない薄口を選択した。
 さて、お味の方は?

「旨いのぉぉお! でも、しょっぱいのじゃ~」

 それは泣いてるからだろ。
 俺も一口してみると、焼きとは一風いっぷう違った味わいに驚く。
 甘味は焼きよりも薄く感じる一方、爽やかな香りは一層引き立ち、歯応えも……――!? じっくりと噛み締めようと思ったのに、まるでシャーベットのように溶けてしまった!
 そんな馬鹿なという思いに突き動かされ、再び口に運ぶが……やはり! 旨味を含んだ液体の如く、殆ど抵抗もないままに口内から消えていく!

「な、なぁ…刺身スゴくない?
 実は俺、カニの刺身って初めてなんだけどさ、こんな感じなのか?」

「うぅ…刺身で食せるカニなんて極一部じゃ~。ワシもイワガニモドキを刺身で喰らったのは初めてじゃよ~」

 まだ泣いてるよ…。
 それにしても、『異世界の歩き方』に書いてあったので刺身に挑戦してみたが、現地(現世?)の住人である初音も知らない調理法だとは思わなかった。
 俺の居た世界でも刺身で食べられるのは、取れたての紅ズワイガニだけだという事を考えれば、かなり珍しい食べ方なのかもしれない。

「だったらコレも初体験だな。
 蟹味噌の刺身!
 一体どんな味なのか…ワクワクするぜ~!」

 こちらも少量の薄口醤油をつけて頂く。
 味の方は――あぁ…想像を超えて上品な旨味が広がっていく…。
 それもそのハズ、たった今とってきたばかりという事もあり、臭みなど一切ないベストな状態で口にしたのだ。
 焼きと比べると少し水っぽい印象を受けるが、自然なままの濃厚な味わいは他では体験できないだろう。
 また、痛みやすい部位なので口にする事がそもそも稀少だと言える。
 ギンレイはカワラムシャガニの時と同様に、硬い殻ごとバリバリと食べているので、焼きよりも刺身の方を好むらしい。
 どちらが旨いというよりも、両者それぞれに独自の良さがあるという方が正しい表現だと思う。

「最後の部位はタマゴ。
 こっちはどうかな~?」

 腹からハミ出してしまっている大量のタマゴ。
 オレンジ色の粒は艶々と輝き、それら全てが好奇に湧く俺達の顔を照らし出す。
 薄口醤油をまぶすと更に輝きを増し、酒よりも炊き立ての白米が欲しいが、そこをグッと我慢して一気に掻き込む。

「ああ~、やっぱ白米は絶対要るだろ~!
 濃厚過ぎて脳が焼けるわコレ」

 秒で吹き飛ぶ我慢という概念。
 いや、これは仕方ないって!
 イクラよりも小さな粒はそれぞれが旨味の爆弾と評しても過言ではなく、あまりにも濃密な味わいは白米でセーブしないと、途中で箸が止まってしまう程。
 自分の意識に反して、指が制限をかけてしまうという謎現象まで引き起こすレベル。

「うぅぅ……酒ぇ~~……」

 再び涙に沈む初音。
 今夜のフルコースも最後の一品を残すのみ。
 暗闇が深まる中で開かれた夜会も、閉幕の時が近付きつつあった。
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