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第一部 ニ章 異世界キャンパー編

優先すべき納得の為に

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 条件反射というべきなのか、慌てた拍子に自分の意思とはまるで正反対の行動を取った挙げ句、更に慌ててパニくってしまった!

「うわぁぁあああ! ご、ごめんなさいぃ!」

「あーあ、呪われるぅ~呪われた~♪
 ワシゃ関係ないもんね。知らんからの~。
 もう巫女舞も祝詞のりともせぬぞよ~」

 コイツ…それが神職に従事する巫女の言う事か?
 子供相手に本気でブチ切れそうになったが崖っぷちでこらえる。
 そうだ、今はチンチクリンのクソガキに構っている場合ではない。
 慎重に骨を拾い上げて見ると、やはり間違いなく人間の頭蓋骨だ。

「呪いとかあるワケねーし!」

 悔しまぎれに言い返してやるが、絶賛呪われ中の身で言っても説得力がないのは重々承知。
 しかし、このホトケ……何があった?
 わざわざ小屋の最も奥まった隙間に体をうずめ、隠れるような体勢のまま亡くなっていた。

「これは……何かに襲われた…とか?」

「ほう、斯様かような山奥でか?
 下手人は何者かのう…」

 刑事じゃないんだし、犯人とか分かんねーよ。
 ランタンに照らされた遺体は全身が白骨化しており、衣服は着用しているが他に遺留品らしき物は見当たらない。
 一見して何の手掛かりもないように思えたが…。

「けど、死因は――少なくとも餓死とか脱水なんじゃないかな。ほら、衣服に血がついてないだろ?」

「絞殺や服毒の可能性もあろう。
 それも検分とは言えぬ、想像の域であるが…」

 首のない骸骨は体育座りの姿勢でこちらを向き、無言のメッセージを送っているようだった。
 これ以上の事は知るよしもないけれど、誰にもとむらわれずに埋葬すらされないままというのは、あまりにも不憫ふびんだ。

「あしな? どうするつもりじゃ」

 地面に貼り付いた遺体を衣服ごと引き離し、少し離れた外の空地へと連れ出す。
 異世界キャンプが始まってからAwazonに頼る機会が増えてしまったが、今回に関してもやむ無しだろう。
 購入したのは折りたたみスコップ。
 手頃なサイズでくわにもなる可変式だ。

「お主、どこの誰とも分からぬ者を埋葬する気か。
 よいのか? 日没まで時間がないのじゃぞ」

「ああ、分かってるよ。
 けどさ、無料タダで泊めてもらうのも悪いだろ?」

 一宿一飯の恩義という訳じゃないが、理由があると人は進んで行動するものだ。
 人助けをするなら尚更《なおさら》な。
 地面は腐葉土が積もった柔らかい土に覆われ、比較的簡単に掘り進める事ができた。
 しかし、しばらくすると木の根や石が邪魔をして、中々の重労働だという事実が判明する。 

「そういえば聞いた事があるぞ。
 ヤ○ザが山に遺体を埋めないのは、メッチャ苦労するからってさ。確かに、こりゃ穴掘ってる時に誰かに見られちまうって!」

「素敵な知識じゃのう。
 全ッ然、役に立たんがの」

 持っていた斧とナイフで根っこを切り、いくつもの石を掘り出して、ようやく人が入れるスペースの穴ができた。
 気づけば時刻は16時を過ぎて日没間近。
 俺達は丁重に埋葬を済ませると花を手向たむけ、静かに人知れぬ者の冥福を祈った。

「……ほんに、お人好しにも程があろう。
 おそらく、あの者の出自しゅつじは――」

「死人が誰かなんて関係ないさ。
 さてと、手を洗って消毒したら夕食にしようぜ」

 良い事をしたなんて思っちゃいない。
 人生なんて自己満足の連続なんだから…。
 キャンプだって住みやすい自宅を出て、わざわざ人里離れた不便な場所で過ごすだろ?
 そう考えると俺の行動は、俺自身が納得したいからそうしただけ。
 納得さえすれば、人生で起こり得る理不尽も多少は受け入れられる――かもしれないな。
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