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第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!

異世界だろうがソロキャンだろう!? (タイトル回収)

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 初音がまさかの年上とは…。
 立って並んでみると、本当に小さくて驚く。
 見た目も身長も小学生くらいだろうか?
 その割に体型はアンバランスで、先程の結婚話と相まってどう接すれば良いのか分からない。
 子供とした扱うのか?
 それとも妙齢の女性として?
 いや、年上として敬意を払うべきか?
 そもそも鬼属にとって39歳は結婚適齢期なのか?
 ダメだ、全然分からん!

 妙に古めかしい口調にも困惑してしまうが、その原因はどうやら彼女の生い立ちや、この世界の歴史にも関係しているようで、確実に言える事はますます俺の救助・帰還は絶望的になったというワケだ。

「そんな事よりもカワラムシャガニをもっと寄越よこすがよい、ワシの空腹は収まっておらんのでな」

 見ればいつの間に完食したのか、恐ろしく硬い殻を平気でバリバリと音を立てて咀嚼そしゃくしていた。
 こいつの人間離れしたフィジカルなら余裕だろうが、それにしても泣くほど嫌がっていた困難を容易に超えてきたな。
 初音の図太さに若干引きつつ、残っていたカワラムシャガニを配膳すると殻まで旨そうに平らげていく。
 ザリガニにとっては形無しどころか、殻など何の意味も成さないようだ。
 そうしていると、焼き料理の方も頃合いを迎えたので腹ペコ達に次々と振る舞う。
 大きなホットプレートを思わせる平石は大勢で食べるのに適しており、物凄い勢いで追加されるオーダーに応えてくれた。

「おぉ、趣向を変えての焼き料理か。
 よいよい、存分にもてなせ」

 カワラムシャガニは焼きも絶品で、甘味と旨さが詰まった熱々の身を口にしていると思わず無言になってしまう。
 シンプルでありながら美味しい。
 これこそがアウトドア料理の醍醐味!
 2人と1匹は黙々と河の幸を堪能すると、名残惜しい気持ちで最後の一口を運び終える。

「…旨かった、ワシは満足じゃ~」

 なんとも気の抜ける言葉だったが、俺も必死でツナ缶を開けて食べていた事を思い出し、苦笑いを浮かべてしまう。
すると、初音が俺へ質問を繰り出してきた。

「そういえば、まだお主の事について聞いておらんかったの。
 何故、御禁制のもりに?
 もしかして野盗の類いなのか?」

 らんらん々と輝きを増して返答を期待する瞳にどう言えれば良いのか少し考えたが、初音は貴重な情報源であり、俺が助かる為の鍵でもある。
 ここで嘘をつくのは後々の信頼関係に禍根かこんを残すと考えて、知る限りの事実を伝えたのだが…。

まことかぁぁぁああああ!?
 異世界! ワシの知らない世界!!
 そこから来たと申すのか!?
 野盗なんぞより遥かに面白いではないか!
僥倖ぎょうこうじゃ、まさに天の御導きじゃぁああ!」

 うわぁ……面倒な事になっちゃったよ…。
 蛇女とは違った方向ベクトルで厄介な相手だという事が判明すると同時に、すっかりテンションゲージを振り切ってしまった初音を尻目に、俺は今後について考えれば考える程、一向にまとまる気配のない思考に頭を悩ませるのであった。

「聞かせてくれ!
 お主が居た世界の事を、全部!!」

 俺の肩に両手を乗せて激しく揺さぶる初音、その猛烈な勢いによって脳震盪を起こしかけ、意識が飛ぶ直前であっても質問が途切れる事はない。

「わか…分かったから……もう…ヤメ……死…死んじゃうから……」

 必ず死ぬと書いて必死。
 あと数秒遅れていたなら、三途の川を渡っていたかもしれない。
 ギリのギリッギリで助かったが初音の興奮は収まらず、荒い息で別世界への期待を膨らませていく。

「あー、その、なんだ…。
 何について聞きたいんだ?」

 むしろ聞きたいのは俺の方で、困っているのも俺の方なのだが…。
 こうなっては仕方ない。
 初音の質問に答える形で彼女との信頼関係を構築し、あわよくば鬼属きぞくに保護してもらおう等と考えていたのだが――考えが甘かった。

「おうとも! まずは別世界の日ノ本について詳しく教えてくれ!!
 いや、まずはお主の正体じゃ!
 どうやってワシらの世界に入った?
 そのふところに隠した黒い板が怪しい!
 タテガミギンロウが彷徨うろつもりに刀すら持たず居着いておるんじゃ、その黒いのは別世界の武器なんじゃな!?
 すごい! ワシにも見せて見せて!!」

 矢継やつばやどころではない。
 マシンガン並みの早さで浴びせられる質問の数々。
 その勢いは閉口してしまう程に凄まじく、初音の好奇心を強く刺激してしまったらしい。
 まぁ、無理もないか。
 俺だって目の前に異世界の人がいたら質問攻めにすると思うし、実際に初音には色々聞いたのだ。

 しかし、このままではマズい…。
 どうにかして会話の主導権を取り戻し、俺が助かる為の道を探らなければ。
 尽きる事のない質問に曖昧な答えや相づちをしながら、俺は自分の正体とやらを真剣に考えていた。

 …何と答えれば良い!?
『ソロキャンしてたら知らん内に異世界にすっ飛ばされてました』
 …アカン、もっと興味を引いておく必要がある。
 何故なぜなら、恐らく初音は異世界で言う所の貴族の出身なのだろう。
 だとすれば、『コイツは面白いから手元に置いておきたい』――そう思わせるのが上策なのだ。
 子供みたいな初音を相手にだますようで心が痛むが、こっちは何の頼りもなしに異世界に来てしまった以上、生き残る為に手段は選んでいられない。
 意を決して初音が聞きたがる異世界へ来た目的を、さも重々しい雰囲気を醸し出して語り始める。

「よかろう…俺がこの世界に降り立った理由を教える。それは…」

「それは……?」

 初音の純真無垢な瞳が一層輝きを増し、どんな言葉を耳にするのかと期待は膨らみ、否応なしに気持ちがたかぶっていく。

「それは……キャンプだッ!!」

 一瞬の静寂、ギンレイですらホームに充満する異様な空気を察して息を飲む。
 これは……やっちまったか!?
 だって他に思いつかねぇじゃん。
 異世界に来た俺に興味を持ってもらう話なんて考えても分かんねーし、知るワケねぇよ。
 自分でも困惑してしまう目的を聞いた初音の反応は拳を握り締め、小さな体を更に縮めている。
 その第一声は……。

「き…きゃんぷかぁ、なるほどのぅ!」

 何が?
 どの辺りが『成る程』なのか全く不明だがかく、初音の興味を引く事には成功した…らしい。
 こうして、俺が異世界に来た目的、理由が誕生した事で更なる苦難を強いられる日々が始まるのだが、この時の俺にはまだ知るよしもない。
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