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第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!
異世界の神秘、マブナフナの煮付け
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ホームに漂う懐かしい香り。
日本人ならば食卓に必ず常備してある神の調味料、醤油。
食事という欠かせないサイクルにおいて、どれだけ遠い世界に居ようとも、故郷を感じさせる味が手元にある安心感は格別だ。
種類も淡口や濃口だけでなく、甘口や再仕込、白醤油に溜《たまり》醤油など豊富にある。
今回は醤油セットを購入したけれど、Awazonで売っている単品の調味料は各々一回しか購入できないので、大事に使わせてもらおう。
「醤油ってホント万能だしな。
牡蠣を原料にした物とかあるし、手元の分を使いきったら揃えておくのも良いかもね」
更に疲れを癒してくれるのは甘味の存在。
新たに購入した砂糖は安価にも関わらず用途は多岐に渡り、料理の味付けから保存食の作成までカバーする上に、疲労回復とカロリー補充まで兼ね備えた優れもの。
有るのと無いのでは、料理のレパートリーに絶大な差が生まれる調味料の一つだ。
「醤油と絡んだ甘辛い香りが…堪らん!」
クリスマスプレゼントの箱を開けるようにして鋳鉄製のフタを持ち上げると、熱々の蒸気と共に恋い焦がれた香気がホームを包む。
既にダッチオーブンの中は飴色の泡がいくつも生まれ、グツグツと小気味の良い音で料理の完成を告げていた。
暦では初夏であっても深い森に囲まれた洞窟はひんやりと肌寒く、追い討ちの冷たい雨まで降っている状況ともなれば、温かい食事は何よりも嬉しい。
「それじゃあ満を持して――昼食兼夕食、マブナフナの煮付け…頂きます!」
中を覗き込んでまず驚いたのは、鱗を取る調理前には確かに灰褐色だった体が煮込まれた事によって、白っぽい銀灰色に変化していた事だ。
「ぶっちゃけ有り得んだろ…。
白醤油を使ったとしても白く染まるはずがねぇわ。どうなってんだ?」
一体どういう原理なのか全く分からず、箸を片手に『異世界の歩き方』で調べてみても詳細は不明なまま。
改めて観察してみると、体を被う皮に極めて細かい粒が無数にあり、見る角度によって微妙に色合いが変化している事を発見する。
「うわぁ~……なんか知らんがスゲェな」
生物の神秘に感心しながらも箸を入れると皮の下にもう一枚、白濁した薄い皮が姿を現す。
そういえば以前、雑学の本で読んだ事がある。
同じく体の色を自在に変えられるカメレオンも微細な細胞を含んだ二層の皮膚を持ち、特定の光を反射させる事で周囲の色とカムフラージュするらしい。
「マンガやゲームでお馴染みの光学迷彩って奴か。お陰でバケツから取り出す時に見失ったってワケね」
噂ではステルススーツは実在するらしいのだが、こうして目の当たりにすると、まさしく空想の産物としか思えない。
とはいえ、マブナフナにおいては調理後も僅かに変色機能が残っているとは予想もしなかった。
「異世界の生物恐るべし……いかんいかん!
つい余計な考察をしてしまった。
今の俺は無心で腹を満たすのみ!」
今度こそ躊躇なく身を口にすると、純白の柔らかい歯応えは蕩けるように甘く、マブナフナが本来持ち得る甘味が存分に発揮されていた。
「人口甘味料の味じゃない…。
こんなにも旨い魚だとは思わんかった!」
懸念していた臭いも丁寧な下処理と、ジンショーガの消臭効果で全く気にならなくなっていた。
それに加え、素材の旨味を引き出したのは醤油と砂糖による功績が大きい。
更に、調理方法に関してもプラスだっただろう。
分厚いダッチオーブンの保温性や、クッソ重いフタが水蒸気を逃がさず、旨味を閉じ込めてくれたのも要因だ。
流石はキャンプの万能調理器具と呼ばれるだけあって、煮物とも相性抜群!
「なんこれ旨ぁ~。
あんなギョロッとした顔つきからは想像できない位、柔らかくて繊細な味だぞ」
肉厚の白身はあっという間になくなり、残す部位は頭だけとなってしまった。
まだ食べ足りない思いが箸先を動かし、頬やエラ周りの細かい肉まで掘り起こしている内に、特徴的な目の部分に気づく。
釣り上げた時に見たウィンクを思い出すと、大きく膨らんだ目ぶたに触れてみる。
「半端じゃない弾力だ!
まるで一流アスリートの柔軟性と瞬発力を兼ね備えた筋肉みたいな…。
これって、もしかして……」
マブナフナのお頭をひっくり返すと目ぶたの裏側を肌理細かい筋肉がビッシリと被い、濃厚な醤油タレによって完璧に仕上がっていた。
取り出して口にしてみると、これが絶品!
どの部位よりも歯応えがあり、凝縮された旨味が楽しめる最高の瞬間を味わう。
「希少性も含めて勉強になった。少しだけ異世界の奥深さってやつを体験させてもらったよ」
生きる糧となったマブナフナに感謝を告げ、静かに箸を納める。
今夜は仕事が山積みだ。
食後の満足感に酔いしれながら、寝る前に保存食の仕込みをやっておかなくてはならない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここまでのAwazonポイント収支
以下を購入
『岩塩1kg――1200P』
『白砂糖1kg――300P』
『味醂1800ml――2600P』
『こだわり職人の6種醤油セット――3000P』
現在のAwazonポイント――299,800P
日本人ならば食卓に必ず常備してある神の調味料、醤油。
食事という欠かせないサイクルにおいて、どれだけ遠い世界に居ようとも、故郷を感じさせる味が手元にある安心感は格別だ。
種類も淡口や濃口だけでなく、甘口や再仕込、白醤油に溜《たまり》醤油など豊富にある。
今回は醤油セットを購入したけれど、Awazonで売っている単品の調味料は各々一回しか購入できないので、大事に使わせてもらおう。
「醤油ってホント万能だしな。
牡蠣を原料にした物とかあるし、手元の分を使いきったら揃えておくのも良いかもね」
更に疲れを癒してくれるのは甘味の存在。
新たに購入した砂糖は安価にも関わらず用途は多岐に渡り、料理の味付けから保存食の作成までカバーする上に、疲労回復とカロリー補充まで兼ね備えた優れもの。
有るのと無いのでは、料理のレパートリーに絶大な差が生まれる調味料の一つだ。
「醤油と絡んだ甘辛い香りが…堪らん!」
クリスマスプレゼントの箱を開けるようにして鋳鉄製のフタを持ち上げると、熱々の蒸気と共に恋い焦がれた香気がホームを包む。
既にダッチオーブンの中は飴色の泡がいくつも生まれ、グツグツと小気味の良い音で料理の完成を告げていた。
暦では初夏であっても深い森に囲まれた洞窟はひんやりと肌寒く、追い討ちの冷たい雨まで降っている状況ともなれば、温かい食事は何よりも嬉しい。
「それじゃあ満を持して――昼食兼夕食、マブナフナの煮付け…頂きます!」
中を覗き込んでまず驚いたのは、鱗を取る調理前には確かに灰褐色だった体が煮込まれた事によって、白っぽい銀灰色に変化していた事だ。
「ぶっちゃけ有り得んだろ…。
白醤油を使ったとしても白く染まるはずがねぇわ。どうなってんだ?」
一体どういう原理なのか全く分からず、箸を片手に『異世界の歩き方』で調べてみても詳細は不明なまま。
改めて観察してみると、体を被う皮に極めて細かい粒が無数にあり、見る角度によって微妙に色合いが変化している事を発見する。
「うわぁ~……なんか知らんがスゲェな」
生物の神秘に感心しながらも箸を入れると皮の下にもう一枚、白濁した薄い皮が姿を現す。
そういえば以前、雑学の本で読んだ事がある。
同じく体の色を自在に変えられるカメレオンも微細な細胞を含んだ二層の皮膚を持ち、特定の光を反射させる事で周囲の色とカムフラージュするらしい。
「マンガやゲームでお馴染みの光学迷彩って奴か。お陰でバケツから取り出す時に見失ったってワケね」
噂ではステルススーツは実在するらしいのだが、こうして目の当たりにすると、まさしく空想の産物としか思えない。
とはいえ、マブナフナにおいては調理後も僅かに変色機能が残っているとは予想もしなかった。
「異世界の生物恐るべし……いかんいかん!
つい余計な考察をしてしまった。
今の俺は無心で腹を満たすのみ!」
今度こそ躊躇なく身を口にすると、純白の柔らかい歯応えは蕩けるように甘く、マブナフナが本来持ち得る甘味が存分に発揮されていた。
「人口甘味料の味じゃない…。
こんなにも旨い魚だとは思わんかった!」
懸念していた臭いも丁寧な下処理と、ジンショーガの消臭効果で全く気にならなくなっていた。
それに加え、素材の旨味を引き出したのは醤油と砂糖による功績が大きい。
更に、調理方法に関してもプラスだっただろう。
分厚いダッチオーブンの保温性や、クッソ重いフタが水蒸気を逃がさず、旨味を閉じ込めてくれたのも要因だ。
流石はキャンプの万能調理器具と呼ばれるだけあって、煮物とも相性抜群!
「なんこれ旨ぁ~。
あんなギョロッとした顔つきからは想像できない位、柔らかくて繊細な味だぞ」
肉厚の白身はあっという間になくなり、残す部位は頭だけとなってしまった。
まだ食べ足りない思いが箸先を動かし、頬やエラ周りの細かい肉まで掘り起こしている内に、特徴的な目の部分に気づく。
釣り上げた時に見たウィンクを思い出すと、大きく膨らんだ目ぶたに触れてみる。
「半端じゃない弾力だ!
まるで一流アスリートの柔軟性と瞬発力を兼ね備えた筋肉みたいな…。
これって、もしかして……」
マブナフナのお頭をひっくり返すと目ぶたの裏側を肌理細かい筋肉がビッシリと被い、濃厚な醤油タレによって完璧に仕上がっていた。
取り出して口にしてみると、これが絶品!
どの部位よりも歯応えがあり、凝縮された旨味が楽しめる最高の瞬間を味わう。
「希少性も含めて勉強になった。少しだけ異世界の奥深さってやつを体験させてもらったよ」
生きる糧となったマブナフナに感謝を告げ、静かに箸を納める。
今夜は仕事が山積みだ。
食後の満足感に酔いしれながら、寝る前に保存食の仕込みをやっておかなくてはならない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここまでのAwazonポイント収支
以下を購入
『岩塩1kg――1200P』
『白砂糖1kg――300P』
『味醂1800ml――2600P』
『こだわり職人の6種醤油セット――3000P』
現在のAwazonポイント――299,800P
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