異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ

文字の大きさ
上 下
13 / 255
第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!

シンプル・イズ・ベスト、サワグリの塩汁

しおりを挟む
 翌日の空も晴れ間を見せてくれたが昨日よりも少し風が出ており、僅かな湿り気を帯びた空気が素肌を刺激する。
 キャンプや登山に慣れ親しんだ者なら、何度も経験したであろう気圧の変化を敏感に感じ取っていた。

「この感じなら夕方……もしくは、夜までもってくれるかもしれん」

 あくまでも推測でしかないが、これまでのアウトドアによって培われた経験を頼りに、結構な確率で的中させてきた勘だ。
 風向きや気温で結果は多少前後するけれど、ある程度は行動の指針となるだろう。
 足元に目を落とすと、狼が俺の足にすり寄って甘えている。
 少しずつだが何を求めているのかが分かり、どうにも苦笑いしてしまう。

「お前も腹が減ったか。
 それじゃあ絶品スープで朝食としようか」

 嬉しそうに尻尾を振る狼の頭をで回し、早速とばかりに用意しておいたサワグリ入りのビニール袋を覗き込む。
 丸一日かけて砂抜きをしたのだが…どうなった?

「……んん? あちゃ~やっぱ雑過ぎだったか…」

 14匹のサワグリは全て生きてはいるものの、ビニール袋の底には殆ど砂がなく、期待した砂抜きの効果は得られなかった。
 本来なら水を張った容器に貝を入れ、吐き出した砂を再び吸い込まないように網を敷いておくのだが、やはり水を入れたビニール袋に放置しただけだと効果は薄いらしい。
 俺の表情から結果を察した狼が弱々しい声で鳴き、朝食は抜きなのかと無言の抗議を行う。

「待て待て、慌てるな~。
 俺にちゃんと考えがあるんだよ」

 ここで活躍するのがAwazonで購入したダッチオーブンだ。
 まずはサワグリが浸る程度に水を入れ、これをトライポッドに吊るして火に掛ける。
 注意すべき点は一度に全ての貝を入れない事。
 時間はたっぷりあるのだ。
 貝同士が重ならないように、間隔を離してダッチオーブンに敷き詰めていく。

「フタを開けたまま貝をじっくりと観察するんだ。
 水温が徐々に上がるのを待って、貝の口が開いたら……ここだ!」

 タイミングを見極めてダッチオーブンをトライポッドから降ろし、地面に置いて観察すると……。

「ほら、貝が異常な水温に驚いて砂を吐き出してるだろ? この方法なら数分で砂抜きが完了するってワケさ」

 言葉の通じない狼に説明するのも変だが、実に行儀よく聞いていたので妙に丁寧に話し掛けてしまった。
 俺も大分、らしい。
 次々とサワグリを投入して砂抜きを完了させ、ようやく待望の朝食かと狼が期待の目を向ける。

「まだ中まで火が通ってないけど…お前なら大丈夫か。先に食っちまいなよ」

 ナイフで殻を剥いてやると、『待ってました』と言わんばかりに喜んで食べてくれた。
 あっという間に半分を平らげた狼は、包帯を着けたままの後ろ足を引きずってホームの奥へと消えていく。

「さて、次は俺の朝食を作らないと」

 自分より狼を優先する辺り、やはり犬バカに染まってしまったようだ。
 砂抜きが完了したサワグリを再びダッチオーブンに入れ、キノモトワラビとタケノコ、岩塩を加えた適量の水で煮ていく。
 熱湯ではなかったとはいえ一度湯にさらしたからなのか、煮始めた直後からほのかな香りが立ち込める。
 一般的なアサリより一回り大きな身は見るからに食べ応えがあり、先ほど狼に食べさせた時も確かな弾力を指先に感じたばかりだ。

「これは期待大かな~♪」

 その間にナイフで食器製作に取りかかったが、豊富に存在するフタバブナは広葉樹である為、細かい加工には向いていないようだ。
 何度かトライしたが木の硬さに加えて小さな節が邪魔をして、思うような形に切り出すのが難しい。

「ナイフ一本だとやっぱ限界があるわ。
 カッコいい木皿とかコップが作りたかったんだけどなー」

 木工製作が行き詰まってしまったので発想を転換する。
 やはり、限られた道具と技術では、元の生活水準を取り戻すのは厳しい。
 では、どうするのか…。
 加工が難しいなら別の素材を使えば良い――例えばこの竹はどうだ?
 古来から様々な物に使われており、食器としてのポテンシャルは十分に秘めているだろう。
 まずは空き缶容器から卒業する為にコップ作りから始める。
 適当な長さと太さを持った竹の上側の節を切断して、下側の節だけを残す。

「………え、これでコップ完成じゃね?」

 ちまちまと空き缶に水を受けていたのが馬鹿らしくなる程、あっさりとフタ付コップができてしまった。
 気を良くした俺は続いて器の製作にも着手するが、適当な長さと太さを持った竹の両端の節を残して半分に割るだけ。
 …今度は一度に2枚の皿が完成してしまった。
 この調子で箸やスプーン、串などを次々と製作していくが、どれも簡単で見た目のクオリティまで中々の物に仕上がるという、竹の持つポテンシャルを改めて認識する結果となった。
 出来上がったばかりのスプーンで食材の灰汁をすくい上げてみたが、必要十分にして壊れた際の代替も直ぐに用意できる点が素晴らしい。
 まだ灰汁を完全に抜くまでには時間が掛かるだろうが、全く問題ない。
 異世界では有り余る程の時間が流れているのだから。

「出来たばかりのお玉でアクを取っておこう」

 タケノコや山菜にはシュウ酸が含まれており、食べ過ぎると結石の原因となってしまう。
 それ以外にも臭いや渋味の原因にもなる為、料理のクオリティを上げたければ灰汁を丁寧に取り除いた方が無難と言える。
 次第にダッチオーブンから流れる香りは強まり、空腹も相まって待ちきれない気持ちが膨らむ。
 はやる気持ちを抑えてスープをすくい取ってみると…。

「おお! …おぉ!? う、旨い!!
 これは文句なし! サワグリの塩汁完成だ!」

 思わず驚きの声を挙げてしまう程の深み!
 急いでトライポッドからダッチオーブンを外し、完成した料理を竹皿に盛り付けていく。
 ぱっくりと口を開けたサワグリは芳醇な香りを伴って見る者を誘い、タケノコの白とキノモトワラビの緑が彩りを添える。
 乳白色のスープは貝の旨味が溶け出し、一口しただけで深い味わいのとりこになってしまった程。

「朝からちょっと贅沢させて…頂きます!」

 限りない食への感謝を伝え、主役を張るサワグリを口に運ぶと――思った通り!
 全身が貝柱のような弾力を持ち、噛むごとに旨味が溢れだす!
 熱を加えた事で身は縮んだものの、逆にそれが本来の弾力以上の食感を生み出す結果に寄与したようだ。
 シンプルな岩塩だけの味付けも相性抜群で、サワグリの出汁を存分に楽しめた。

「なんだよコレ…無限に食えるぞ…」

 キノモトワラビの苦味もアクセントとして秀逸な働きをみせ、タケノコのシャキッとした食感と僅かな渋味もクセになってしまう旨さ。
 有り合わせの食材で作った料理だったが、想像以上の味に朝から大満足の一時ひとときを過ごさせてもらった。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...