異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ

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第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!

Awazonでお買い物♪

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「できたぞ……究極であり至高の逸品。
 マダライワナの塩焼き完成だ!」

 串打ちにされたイワナはその身を泳いでいた時と寸分違わぬ姿で再現され、時として激流へと様相を変化させる自然にすら抗う力強さを備えたまま、完璧に調理されていた。
 イワナには独特の香りがあるが、焚き火で炙られた事で実に芳ばしく、嗅覚でも大自然を感じさせてくれる。
 串は水に浸しておいたので燃え尽きる事なく形を保ち、パリッと焼けた飴色の皮から覗く身は雪を思わせる程に白く、立ち上る湯気は食を誘う道標みたいだ。

「もう我慢ならん! 頂きますッ!!」

 限界ッ! 遭難ソロキャン以来、口にしていなかった動物性たんぱく質ッ…!
 最も膨らみのある背びれ付近の肉へ目掛け、開け放たれた口角ッ…!
 そして、口一杯に広がる旨味と塩が持ち得る確かなパンチが俺の体を震わせた。

「うめぇ……それしか言えねぇ…」

 どれだけの時間を空腹で過ごしただろうか。
 久しぶりのまともな食事に舌も胃も、全身が待ち望んだ瞬間を迎えたように感じる。
 特に皮の程よい歯応えが絶妙で、柔らかい身と相まって絶妙なアクセントを効かせていた。
 腹の方は逆に脂肪分が多く、焚き火の熱によって余分な水が抜けた事で、脂身の旨さをより引き立てている。

「腹が減ってるから…ますます旨く感じる!」

 一度口にすると次々に手が伸びていき、遂に最後の一本を食べ終えてしまった。
 なんとも言えない寂しさと、未だ満たされない空腹感が残る。
 いや、まだだ…ここからだ!
 俺は頭と骨だけになったイワナを再び焚き火にかけ、次なる一品シシロマミズガニの水煮を手元に引き寄せる。

「香りは――良い!
 小さいけど最高の出汁が出てるぞ」

 水煮とは言え、しっかりと岩塩を加えた事で蟹特有の濃厚なエキスと香りがホームに漂う。
 まずはスープを一口飲むと出汁と塩気が体に染み渡り、漏れ出した吐息にすら幸福を感じてしまう。
 イワナとは違った方向での味わいは、水を使った煮炊き料理だからだろうか、ここに野菜やキノコがあれば良い鍋になったのにな。
 更なる調理法の確立は次回への課題として、今は目前の食い物だ。
 シシロマミズガニは旬から外れていたので親指ほどの大きさしかないが、その身には十分な旨味が含まれており、むしろ缶詰のように小さな容器だったのが幸いしたのかもしれない。

「旨かった……御馳走様でした!」

 朝から堪能させてもらった。
 イワナの骨焼きが完成するにはもう少し時間が必要なので、俺はAwazonの通知欄をぼんやりと眺めながら、どうやって異世界に迷いこんだのか、何故見知らぬアプリと『異世界の歩き方』などという能力を得たのかを考えていた。
 全てが偶然なのだろうか?
 それとも何か超常的な力による意図的なものだろうか?
 そんな事を色々考えていると新たな通知が届く。

『タテガミギンロウを手懐けた
 ――300000ポイント』

 ……何か作為的なものを感じてしまう。
 気付けばいつの間にか目を覚ました狼が、しきりに俺の腹に顔を擦りつけて甘えていた。
「さてさて、最後のお楽しみといきますか」

 焚き火の遠赤外線を利用してイワナの骨を乾燥させれば、脊髄の太い骨まで美味しく食べる事ができるカリカリ焼きの完成だ。
 食後のおやつ感覚で口にしながら現在のポイントを確認すると、新たな通知欄が届いていた。

『釣竿を作成した――1000ポイント』
『マダライワナを釣り上げた
 ――1000ポイント』
『シシロマミズガニを採取した
 ――1000ポイント』
『サワグリを採取した
 ――1000ポイント』
 そして『タテガミギンロウを手懐けた
 ――300000ポイント!』

 残っていたポイントと合わせて合計320,300P!
 一気に金持ちになった気分だ。
 だが、ここで気を緩めて散財すれば後々後悔するかもしれん。
 しっかりと考えて何に使うのかを決めなければならない。

「とはいえだ、かなり…かな~り嬉しい!
 何を買おうか迷っちまうよ~♪」

 Awazonのショップ画面には様々なグッズが整然と並び、相変わらずどれを買えばいいのか悩ましい。
 まずは代用の効かない物、作成の困難な物から買うのが定石だろう。
 かなり悩んだ末に以下の購入を決めた。

 フルタング構造のステンレス製シースナイフに2400ポイント。
 薪割り斧5000ポイント。
 多目的ポリタンク2個で2000ポイント。
 鋳鉄製ダッチオーブン1000ポイント。
 衣類3000ポイント。
 丈夫な革手袋1500ポイント。
 大容量トートバッグ1500ポイント。
 保存用ガラス瓶3個で1500ポイント。

 結構な量を買ったが品物を厳選した結果、302,400ポイントを残せた。
 十分な額だと思う一方、今後も何があるのか分からないので倹約を心掛けなければならない。

「他にも必要な物を挙げたらキリがないけど、今はこれで十分……かな?」

 とは言え、ここで待望のナイフに加えて斧まで手に入ったのは正直、僥倖ぎょうこうと言う他ない。
 さもなければ、黒曜石を磨いてでも刃物の代用品を入手しなければならないからだ。
 それほどまでに、アウトドアにおいてナイフや斧の重要性は高く、生活水準がサバイバルレベルの現状においては死活問題と言っても過言ではない。

「これで助かる確率は段違いだぜ。
 この調子でどんどんポイントを貯めていこう!」

 本当はもっとナイフにポイントを使いたかったが、そこは我慢のしどころだと判断した。
 かなりハードな使い方を想定し、刃がハンドル部分の端まで一体化しているフルタング構造で、錆びに強いステンレス製を選択。
 斧についてはナイフでは切れない樹木の伐採や、建築まで想定して丈夫な物を選択した。
 まだまだ必要な物や欲しい物は数知れないが、取り敢えずはその時々で手持ちのポイントと相談して決めれば良い。

「にしても、お前が300000ポイントとはね。
 なんにしても助かったよ」

 当面の生活費を支えてくれた幼い恩人にせめてもの謝辞を述べると、彼は白い毛で被われた胸を一杯に張って『バウバウ』と吠え応える。
 まるで俺の意図を理解しているような口振りで、次いで地面に寝転がると『態度で示せ』と言わんばかりに腹を向け、ブルーアパタイトと見紛う瞳を潤ませて要求してきた。

「やれやれ、午後も忙しくなるぞ」

 そう言いながらも俺は、艶を取り戻した毛並みを満足して頂けるまでで続けるのであった。
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