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第3話 異世界アプリ『Awazon』
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「嗚呼、旨い…なにこれンマイ……」
炎天下で見つけた洞水は木陰と吹き抜ける風によって程好く冷えており、甘味と僅かなアルコールを感じる不思議な味わいだった。
たとえれば夏場で散々歩いた後に、冷奴を肴に一気飲みする生ビールと同等の美味しさ?
いやいや、それは言い過ぎか。
「うん、どちらかと言えばカクテルに近い?」
ひとしきり喉の渇きが癒された事で落ち着きを取り戻したのだろうか、洞の少し上に朽ちかけた蜂の巣があり、中の蜂蜜が幹を伝って水に溶け出しているのに気づいた。
そういえば聞いた事がある。
岩の窪みや洞に果実や蜂蜜が入り込み、雨水と混ざって自然発酵した天然の恵み『猿酒』
昔の猟師は好んで飲んだそうだが、虫や鳥の住処でもある場所に溜まった水などとてもではないが飲む気になれず、今までスルーしていたのだが…遭難しなければ一生味わう事なく過ごしていたかと思うと、なんだか得した気分だが安心してもいられない。
相変わらず救助の目処もなく、民家も見つかってはいないのだ。
このままではジリ貧になるのは目に見えている。
だからこそ、どうにかして人里を目指すのがベターだと俺は思う。
「考えもまとまったし、そろそろ行くか」
少し元気が出た所で再び腰を上げて南を目指す。
念の為に道中の小枝を時々折って目印とするのを忘れないようにし、何か口にできそうな果物や木の実がないかを注意深く探しながら歩く。
一面が緑に覆われているが、視線を地面に移せば所々に野草や白いキノコが自生している。
しかし、軽々しく口にするのは早計だ。
特にキノコはヤバいなんてもんじゃなく、10年間で300件以上の食中毒が報告されている。
その中でも白色のキノコは毒を持っている可能性があり、いくら空腹でも付け焼き刃の知識で手を出すのは避けた方が無難だ。
「野草にも毒を持った物があるが…これは何だ?」
足元には長い柄と紫の葉を広げた植物が一面を埋めていた。
特徴的な清涼感のある香りはシソとよく似ているが、相違点として葉が3つに分かれており別の植物にも思える。
「本当にシソの仲間か?
だとすれば食べられるんだけど…」
しばらく迷ったが口にするのは保留とした。
見知らぬ土地でもし救助が遅れれば、腹痛であっても万が一という事態になりかねないからだ。
まぁ、半日も山を歩いているのに人っ子ひとり見ない時点で、救助されるのかどうか相当に怪しいが。
その後は休憩時に板チョコを少しだけ食べて我慢するが、消費したカロリーと釣り合いが取れず心情的にはもっと食べたい気持ちが強まってしまった。
荒れた心を落ち着かせようと再び深呼吸を行うが、一瞬の静けさによって耳にしてしまう。
自分の背後から静かに迫る物音に!
「……ヤバい……ヤバい…ヤバいヤバい!!」
振り返りたくても心が拒絶する。
何故なら――明らかに人間の足音ではない!
もっとずっと長い…何かを引きずるような音…。
しかも、かなりの重量を彷彿とさせる上に、空気が抜けるような音まで混じっている。
「ッ…………う、うぉぉおおおお!!」
萎えそうな心を奮い立たせる為、気合いの大声を上げて振り返るが――。
「だ、誰も居ない……。
なんだよ…幻聴だったのか?」
あまりにもリアルで生々しい音が気のせいだったとは俺自身も正直、思えない。
しかし、疲労による幻聴という事にしなければ今にも発狂してしまいそうだった。
とはいえ、ここで闇雲に走って逃亡した挙げ句、無駄に体力を浪費してしまえば、待っているのは確実な死あるのみ。
ここは今一度、自分を騙してでも冷静さを取り戻さなければならない。
少しでも気持ちを落ち着かせようと震える手でスマホを取り出して確認すると、朝方の4時前だ。
「!? いやいや、数時間前まで太陽は真上にあったはずだ! スマホの時計がズレてたのか…?」
出発前は確実に時刻ピッタリだった。
新幹線と電車を乗り継いで雪山に来たのだから、それは間違いない。
では何故か?
何故…感動的なまでに美しい太陽が、西の空へ沈もうとしているのか!
見れば儚い夕日が鬱蒼とした森林を朱く染め上げていく最中であった。
「あり得ない……俺は…疲れてるのか…?」
確かに今日は散々歩き倒したさ。
雪山で暖かく過ごす為に、全身を完全防寒コーデで初夏みたいな陽気の森を歩き回った。
オマケに意味不明な幻聴にまで悩まされていたのを鑑みるに、疲労が頂点に達したのは明確だ。
「そうだ、俺は疲れている!
今日はもう寝る!」
ぐらつく頭を抱えて下を向いていると、地面に映る影は長く長く伸びやかに、俺を見つめているように感じた。
「はーい、ここが今日のキャンプ地でーす」
虚ろな目をしながら誰に向けられた物でもない言葉を口にする。
あれから日のある内にビバークの準備をするべく、手頃な木を支柱にしたデブリハットの作成を開始した。
簡単に言えば即席のシェルターだ。
高さ1m程で二股に分かれた木に、長めの倒木を2本V字に立て掛けて骨組みとし、幹に巻き付いていた『つる植物』をロープ代わりにして固定する。
支柱と倒木の間を大量に用意した細めの枝で、縦と横のラインを埋めるように次々と立て掛けていき、最後に上から葉の付いた枝を被せて完成!
「我ながら中々のクオリティだな。
ここが新たにオープンしたインターコンチネンタル東京ベイin知らん森支店だ」
森の中で湾もへったくれもないが、アホな冗談でも言ってないと本当に気が変になりそうだ。
それにしても、材料となる木材が沢山あって助かった。
場所によっては作る手間よりも、材料集めに手こずる場合がある為だ。
「ダウンジャケットのマットレスは…うん、思ったより悪くない寝心地だな」
丁寧に地面の石を取り除いたお陰で、体を刺激する地面の異物感は想像よりも少ない。
作業が一段落して腰を落ち着けると、いよいよもって自分の置かれた状況が理屈では説明できない事を理解しつつあった。
だからといって、何をどうすれば良いのかという根本的な解決策が全く思い浮かばないのだが…。
「腹ぁ減ったなぁ……。
やっぱ草いっとくべきだったか?」
考えても仕方ない状況よりも、今は空腹の方が差し迫った問題である。
俺は空腹を紛らわせる為、少し前に採取した二分裂葉を取り出し、その不思議な構造に目を凝らす。
多くの植物は葉の中央に葉脈と呼ばれる水を通す筋が存在するが、こいつは成長と共に1本の主脈が2本に割れて反対側へ向かって細かい側脈が広がっていた。
その為、一枚の葉でも場所によって厚みの違いができる事で断面が台形をしているのだ。
「………初めて見る植物だな。
マジに未発見の新種なのか?」
見れば見る程、俺は未知の植物を前にどうしても写真を撮っておきたい衝動に駆られ、貴重なスマホバッテリーを消費してでも保存しようとカメラを起動させた時に、見慣れないアプリが目に入った。
「ん……こんなアプリあったか?
Awazon?
なにこれ怖っ!
偽アプリって奴か?
触ったらアカン奴やん。
いつインストしたんだ?」
よく見れば通知欄には、Awazonとかいう胡散臭いアプリからのメッセージが溜まっている。
そうだ、キャンプ中は誰にも至福の時間を邪魔されないよう、一切の通知をオフにしていたのを忘れていた。
流石に遭難したとなれば、今だけは間違い電話でも大歓迎さ。
「だけど妙だな。相変わらず電波は全くないのに、アプリの通知だけは届くだなんて…」
絶対ないと思うが、もしかしたら救助の切っ掛けになるかも、という淡い期待が俺の意思を動かしてアプリを起動させた。
「おお、なんか見覚えがあるっていうか…そのまんまじゃねーか!」
そこには普段から非常にお世話になっている某大手通販サイトのトップページが、夕闇迫る森の中に輝かしく浮かび上がっていた。
よく出来ていたが一点だけ違う所はマイページに通知欄があって、訳の分からん駄文が延々と続いていた点だろう。
アホらしいと思いながらも、最新の通知から順に目を通す。
「なんだ?
デブリハットを作成した――10000ポイント
正確な方位を認識した――5000ポイント
猿酒を見つけた――2000ポイント
………嘘だろ?」
なんとも言えない肌寒さを感じさせるメッセージ欄に、俺は心底震えた。
どうして今日の行動が逐一記録されているんだ!?
しかも最後のデブリハット作成が記録していた時間は、体感時間と遜色がないように感じられる。
つまり、ここに表示されている時間は正確な物である可能性が高い。
「そんな…あり得ねぇわ」
まさかと思いポケットからファイヤースターターを取り出し、用意しておいた枯れ木の繊維に向けて金属製のストライカーとロッドを擦り合わせる。
2度、3度、4度……。
いつもなら余裕で一発だというのに、指先が震えて上手く火花が飛ばない。
大きく深呼吸してから強くストライカーを滑らせると、すっかり宵闇に包まれた森に一際派手な火花が飛び散った。
ほぐされた繊維は空気を含んでおり、いつものソロキャン同様に薄い煙を昇らせつつあったが、完全に火がつくまで入念に火花を放ち続けた。
ほどなくして内部に小さな火種が複数出来上がった頃、息を吹き掛けると米粒ほどの火は大きく燃え上がったので、枯れ枝をくべながら火力を安定させていく。
「よし、もう十分だろう」
本音を言うと確かめたい気持ち半分と、このまま知らないフリをしたい気持ち半分。
だが、ここは確かめておかなければならない。
スマホを持つ手は緊張で酷く冷たくなっていた。
ゆっくりと画面を覗き込むとAwazonの通知欄には『初めての焚き火――5000ポイント』が記載されている!
「あ、あり得ねぇだろ!
こんな…あり得るわけが…!」
これは俺の…いや、常識の範疇を超えた事態であるという事を示していた。
炎天下で見つけた洞水は木陰と吹き抜ける風によって程好く冷えており、甘味と僅かなアルコールを感じる不思議な味わいだった。
たとえれば夏場で散々歩いた後に、冷奴を肴に一気飲みする生ビールと同等の美味しさ?
いやいや、それは言い過ぎか。
「うん、どちらかと言えばカクテルに近い?」
ひとしきり喉の渇きが癒された事で落ち着きを取り戻したのだろうか、洞の少し上に朽ちかけた蜂の巣があり、中の蜂蜜が幹を伝って水に溶け出しているのに気づいた。
そういえば聞いた事がある。
岩の窪みや洞に果実や蜂蜜が入り込み、雨水と混ざって自然発酵した天然の恵み『猿酒』
昔の猟師は好んで飲んだそうだが、虫や鳥の住処でもある場所に溜まった水などとてもではないが飲む気になれず、今までスルーしていたのだが…遭難しなければ一生味わう事なく過ごしていたかと思うと、なんだか得した気分だが安心してもいられない。
相変わらず救助の目処もなく、民家も見つかってはいないのだ。
このままではジリ貧になるのは目に見えている。
だからこそ、どうにかして人里を目指すのがベターだと俺は思う。
「考えもまとまったし、そろそろ行くか」
少し元気が出た所で再び腰を上げて南を目指す。
念の為に道中の小枝を時々折って目印とするのを忘れないようにし、何か口にできそうな果物や木の実がないかを注意深く探しながら歩く。
一面が緑に覆われているが、視線を地面に移せば所々に野草や白いキノコが自生している。
しかし、軽々しく口にするのは早計だ。
特にキノコはヤバいなんてもんじゃなく、10年間で300件以上の食中毒が報告されている。
その中でも白色のキノコは毒を持っている可能性があり、いくら空腹でも付け焼き刃の知識で手を出すのは避けた方が無難だ。
「野草にも毒を持った物があるが…これは何だ?」
足元には長い柄と紫の葉を広げた植物が一面を埋めていた。
特徴的な清涼感のある香りはシソとよく似ているが、相違点として葉が3つに分かれており別の植物にも思える。
「本当にシソの仲間か?
だとすれば食べられるんだけど…」
しばらく迷ったが口にするのは保留とした。
見知らぬ土地でもし救助が遅れれば、腹痛であっても万が一という事態になりかねないからだ。
まぁ、半日も山を歩いているのに人っ子ひとり見ない時点で、救助されるのかどうか相当に怪しいが。
その後は休憩時に板チョコを少しだけ食べて我慢するが、消費したカロリーと釣り合いが取れず心情的にはもっと食べたい気持ちが強まってしまった。
荒れた心を落ち着かせようと再び深呼吸を行うが、一瞬の静けさによって耳にしてしまう。
自分の背後から静かに迫る物音に!
「……ヤバい……ヤバい…ヤバいヤバい!!」
振り返りたくても心が拒絶する。
何故なら――明らかに人間の足音ではない!
もっとずっと長い…何かを引きずるような音…。
しかも、かなりの重量を彷彿とさせる上に、空気が抜けるような音まで混じっている。
「ッ…………う、うぉぉおおおお!!」
萎えそうな心を奮い立たせる為、気合いの大声を上げて振り返るが――。
「だ、誰も居ない……。
なんだよ…幻聴だったのか?」
あまりにもリアルで生々しい音が気のせいだったとは俺自身も正直、思えない。
しかし、疲労による幻聴という事にしなければ今にも発狂してしまいそうだった。
とはいえ、ここで闇雲に走って逃亡した挙げ句、無駄に体力を浪費してしまえば、待っているのは確実な死あるのみ。
ここは今一度、自分を騙してでも冷静さを取り戻さなければならない。
少しでも気持ちを落ち着かせようと震える手でスマホを取り出して確認すると、朝方の4時前だ。
「!? いやいや、数時間前まで太陽は真上にあったはずだ! スマホの時計がズレてたのか…?」
出発前は確実に時刻ピッタリだった。
新幹線と電車を乗り継いで雪山に来たのだから、それは間違いない。
では何故か?
何故…感動的なまでに美しい太陽が、西の空へ沈もうとしているのか!
見れば儚い夕日が鬱蒼とした森林を朱く染め上げていく最中であった。
「あり得ない……俺は…疲れてるのか…?」
確かに今日は散々歩き倒したさ。
雪山で暖かく過ごす為に、全身を完全防寒コーデで初夏みたいな陽気の森を歩き回った。
オマケに意味不明な幻聴にまで悩まされていたのを鑑みるに、疲労が頂点に達したのは明確だ。
「そうだ、俺は疲れている!
今日はもう寝る!」
ぐらつく頭を抱えて下を向いていると、地面に映る影は長く長く伸びやかに、俺を見つめているように感じた。
「はーい、ここが今日のキャンプ地でーす」
虚ろな目をしながら誰に向けられた物でもない言葉を口にする。
あれから日のある内にビバークの準備をするべく、手頃な木を支柱にしたデブリハットの作成を開始した。
簡単に言えば即席のシェルターだ。
高さ1m程で二股に分かれた木に、長めの倒木を2本V字に立て掛けて骨組みとし、幹に巻き付いていた『つる植物』をロープ代わりにして固定する。
支柱と倒木の間を大量に用意した細めの枝で、縦と横のラインを埋めるように次々と立て掛けていき、最後に上から葉の付いた枝を被せて完成!
「我ながら中々のクオリティだな。
ここが新たにオープンしたインターコンチネンタル東京ベイin知らん森支店だ」
森の中で湾もへったくれもないが、アホな冗談でも言ってないと本当に気が変になりそうだ。
それにしても、材料となる木材が沢山あって助かった。
場所によっては作る手間よりも、材料集めに手こずる場合がある為だ。
「ダウンジャケットのマットレスは…うん、思ったより悪くない寝心地だな」
丁寧に地面の石を取り除いたお陰で、体を刺激する地面の異物感は想像よりも少ない。
作業が一段落して腰を落ち着けると、いよいよもって自分の置かれた状況が理屈では説明できない事を理解しつつあった。
だからといって、何をどうすれば良いのかという根本的な解決策が全く思い浮かばないのだが…。
「腹ぁ減ったなぁ……。
やっぱ草いっとくべきだったか?」
考えても仕方ない状況よりも、今は空腹の方が差し迫った問題である。
俺は空腹を紛らわせる為、少し前に採取した二分裂葉を取り出し、その不思議な構造に目を凝らす。
多くの植物は葉の中央に葉脈と呼ばれる水を通す筋が存在するが、こいつは成長と共に1本の主脈が2本に割れて反対側へ向かって細かい側脈が広がっていた。
その為、一枚の葉でも場所によって厚みの違いができる事で断面が台形をしているのだ。
「………初めて見る植物だな。
マジに未発見の新種なのか?」
見れば見る程、俺は未知の植物を前にどうしても写真を撮っておきたい衝動に駆られ、貴重なスマホバッテリーを消費してでも保存しようとカメラを起動させた時に、見慣れないアプリが目に入った。
「ん……こんなアプリあったか?
Awazon?
なにこれ怖っ!
偽アプリって奴か?
触ったらアカン奴やん。
いつインストしたんだ?」
よく見れば通知欄には、Awazonとかいう胡散臭いアプリからのメッセージが溜まっている。
そうだ、キャンプ中は誰にも至福の時間を邪魔されないよう、一切の通知をオフにしていたのを忘れていた。
流石に遭難したとなれば、今だけは間違い電話でも大歓迎さ。
「だけど妙だな。相変わらず電波は全くないのに、アプリの通知だけは届くだなんて…」
絶対ないと思うが、もしかしたら救助の切っ掛けになるかも、という淡い期待が俺の意思を動かしてアプリを起動させた。
「おお、なんか見覚えがあるっていうか…そのまんまじゃねーか!」
そこには普段から非常にお世話になっている某大手通販サイトのトップページが、夕闇迫る森の中に輝かしく浮かび上がっていた。
よく出来ていたが一点だけ違う所はマイページに通知欄があって、訳の分からん駄文が延々と続いていた点だろう。
アホらしいと思いながらも、最新の通知から順に目を通す。
「なんだ?
デブリハットを作成した――10000ポイント
正確な方位を認識した――5000ポイント
猿酒を見つけた――2000ポイント
………嘘だろ?」
なんとも言えない肌寒さを感じさせるメッセージ欄に、俺は心底震えた。
どうして今日の行動が逐一記録されているんだ!?
しかも最後のデブリハット作成が記録していた時間は、体感時間と遜色がないように感じられる。
つまり、ここに表示されている時間は正確な物である可能性が高い。
「そんな…あり得ねぇわ」
まさかと思いポケットからファイヤースターターを取り出し、用意しておいた枯れ木の繊維に向けて金属製のストライカーとロッドを擦り合わせる。
2度、3度、4度……。
いつもなら余裕で一発だというのに、指先が震えて上手く火花が飛ばない。
大きく深呼吸してから強くストライカーを滑らせると、すっかり宵闇に包まれた森に一際派手な火花が飛び散った。
ほぐされた繊維は空気を含んでおり、いつものソロキャン同様に薄い煙を昇らせつつあったが、完全に火がつくまで入念に火花を放ち続けた。
ほどなくして内部に小さな火種が複数出来上がった頃、息を吹き掛けると米粒ほどの火は大きく燃え上がったので、枯れ枝をくべながら火力を安定させていく。
「よし、もう十分だろう」
本音を言うと確かめたい気持ち半分と、このまま知らないフリをしたい気持ち半分。
だが、ここは確かめておかなければならない。
スマホを持つ手は緊張で酷く冷たくなっていた。
ゆっくりと画面を覗き込むとAwazonの通知欄には『初めての焚き火――5000ポイント』が記載されている!
「あ、あり得ねぇだろ!
こんな…あり得るわけが…!」
これは俺の…いや、常識の範疇を超えた事態であるという事を示していた。
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