姪だけど、抱かれたい!

茜色

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叔父と私

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「二人とも上がっていいよ。お疲れ様」
店長が事務所の金庫の鍵を閉めながら、私と石崎さんに声を掛けてくる。
私はちょうど陳列されている商品に埃除けの布を被せ終わったところだった。石崎さんがロールスクリーンを下ろしながら「お疲れ様っすー」と答え、それから急に声のトーンを落とし、フロアから引き上げようとする私を呼び止めた。

あずさちゃん、待って待って・・・!今日さ、帰り送っていくからメシでも行かない?オレ、おごるからさ」
大学を卒業後、私がこのインテリアショップに就職してから半年が過ぎた。
夏頃から、先輩社員の石崎さんにこうしてしきりと誘われるようになった。短く刈り上げた明るい色の髪に、人の良さそうな笑顔。面倒見のいい先輩だけれど、正直それ以上の感情はない。だからいつも私はこういうとき、対処に困ってしまう。

「おい、石崎。おまえ随分と大胆になったものだな。俺が奥にいるのに堂々と梓を誘うとは、冬のボーナスをカットされても構わないようだな」
ハッとして振り向くと、事務所にいたはずの店長が私のすぐ後ろに立っていた。その手は私の肩に置かれている。
「えっ、えっ、ちょっ・・・!待ってくださいよ、店長、それはないっすよぉ!」
「だったらバカな真似はやめておけ。おまえが梓を口説こうなんて100万年早い」
そう言って店長は冷ややかに笑うと、石崎さんに向かってシッシッと手で払う真似をした。
「梓、車で送ってくから、支度しなさい」
「はい、りょうちゃ・・・店長」
私が慌てて言い直すと、クスッと慈しむような顔で微笑まれた。相変らず私を簡単に悩殺するその笑顔に、しばしポーッと見惚れてしまう。横で石崎さんが、不服そうにまだブツブツ言っている。

「ずりいなぁ、店長。いつもそうやって梓ちゃんを独占してさぁ。梓ちゃんだってもうすぐ23になるんでしょう?大人ですよ?いくら姪っ子だからって、そんな過保護でどうするんすか!梓ちゃんだって、そろそろ彼氏くらい作らないと、ねえ?」
「だからって、梓をおまえにくれてやる気は毛頭ない。変な気でもおこしたら、おまえをぶっ殺す」
「な、なんすか、それぇ!怖すぎ・・・。梓ちゃんは、叔父さんにこんながんじがらめにされてていいの?」
「私は別に・・・。あ、あの・・・石崎さん、お疲れ様です。また明日」
私はこれ以上石崎さんに関わっていると面倒になりそうなので、作り笑顔でそそくさとその場を離れた。こっちにその気がないのに飽きもせず誘ってくる石崎さんには、なるべくサッパリした態度を取った方がいいということをこの数か月でようやく学んだところだ。

結局石崎さんはいつものように「ちぇっ、今日もダメか」と舌を出している。そして何ごともなかったように、あっけらかんとした態度で店長と挨拶を交わし、気ままな様子で店の裏口から帰っていった。
多分これから、飲みに行った先で女の子をナンパするに違いない。石崎さんは店ではテキパキ働いて店長の信頼も厚いが、女性に軽いのが玉に瑕だ。
「さて、うるさいのも追っ払ったし、帰ろうか、梓」
そう言って叔父は私の肩を優しく抱くと、ポケットに手を入れて車のキーをチャリッと鳴らした。


お洒落な住宅地の一角にあるインテリアショップのオーナー高宮遼たかみやりょうは、私の自慢の叔父だ。子供の頃から、私は叔父を「遼ちゃん」と呼んでいる。
大学を卒業して数年、大手家具販売会社で営業をした後、今は亡き私の祖父母が半分趣味の副業でやっていた古い雑貨店を改築し、輸入家具やデザイナーズ家具、インテリア雑貨を扱うショップに生まれ変わらせ、自らオーナーになった。ここでしか手に入らない一点ものの品や、センスのいいラインナップが人気を呼んで、今では時々雑誌にも取り上げられるちょっとした有名店になっている。

この春大学を卒業した私は、叔父の店のスタッフとして就職した。叔父がこの店をオープンした当初から、将来は自分もここで叔父と一緒に働きたいとずっと言い続けてきたので、念願叶ったというわけだ。
この店は、開店当初は叔父と石崎さん、経理と庶務担当のパートタイマー、林さんだけで回していたのだが、人気ショップになるにつれ忙しさもどんどん増していった。それで近年はアルバイトを雇ってなんとかしのいだりしていたので、私の就職を叔父はとても喜んでくれた。
まだまだ修行中の新米だけれど、仕事はとても楽しい。接客や事務作業、備品管理、すべてが興味深いし、毎日ひたすら勉強だ。失敗することもあるけれど、叔父にがっかりされないよう気合いを入れて頑張っている。
店の敷地はさほど広くないが、二階建てのレンガ造りの建物の中にはびっしりと洒落た家具や雑貨が並んでいて、眺めているだけでもうっとりしてしまう。いつか私も結婚して新居を構えたら、あのソファを置きたいな、キャビネットはあれがいいかな・・・などと夢はいくらでも膨らんでいく。
問題は、私が結婚したい相手が叔父の遼ちゃんだということだ。

遼ちゃんと私は、血の繋がりがない。そして11歳しか離れていない。
私の母が14歳のとき、父親(つまり私の祖父)の親友夫婦が不慮の事故で亡くなってしまい、幼い一人息子が遺された。それが当時まだ1歳だった遼ちゃんだ。
遼ちゃんのご両親はなかなか子供ができなくて、遅くにやっと授かった息子をそれは大事にしていたそうだ。それなのに夫婦そろって急死してしまい、手のかかる1歳児を引き取ってくれそうな親類も見つからなかった。
そこで、会社経営をしていて金銭的にも余裕のあった私の祖父が、親友の忘れ形見を引き取る決意をしたのだそうだ。祖母も、私の母を産んで以降二人目ができなくて諦めた過去があったので、遼ちゃんを引き取って育てることに大賛成だったらしい。母もまた、年の離れた弟ができたことがとても嬉しかったそうだ。それからは高宮家は家族4人となり、遼ちゃんはほとんど実子と変わらない愛情を受けて伸び伸び育ったと聞く。

母が23で結婚して翌年私を出産したとき、遼ちゃんは小学校5年生だった。小さな叔父は、生まれたばかりの赤ん坊がそれは珍しかったようで、最初から私にぞっこんだったと言う。
母は暇さえあれば新居から歩いて5分の実家に入り浸っていて、そのせいで遼ちゃんはしょっちゅう私の面倒を見てくれていたらしい。哺乳瓶でミルクを与えたり、お風呂のお手伝いをしたり、おむつ替えまで母に習って嫌がらずにやってくれたそうだ。学者肌で変わり者の私の父より、遼ちゃんの方がよほど私の子育てに貢献してくれたと母は未だに笑っている。

そんなわけで、幼い頃から遼ちゃんに溺愛されて育った私は、気づけば叔父にベッタリの甘えっ子になってしまった。
当然、初恋も叔父だ。小学校に上がる頃には、将来結婚する相手も叔父と決めていて、「血がつながっていないからケッコンできる!」と家族親類の前で宣言した。両親と祖父母は、そんな私の様子を面白がって笑って見ていた。ようするに、誰も本気にしていなかったのだ。そんなとき、当の遼ちゃんは嬉しそうに微笑みながら、いつも私を抱っこして頭を撫でてくれた。

みんな気づいていなかったのだ。私の幼い想いが本気の恋心に育っていったことに。
中学に上がり、周囲の友達が周りの同級生や先輩にキャアキャア言い始めても、私から見れば彼等などただのガキンチョに過ぎなかった。そのうち私も告白をされたりするようになったが、正直そういうのすら鬱陶しく感じられた。私は遼ちゃんがいてくれれば、それだけで良かった。

遼ちゃんは私よりずっと大人だったから、恋愛経験もそれなりに重ねてきたはずだ。頭脳優秀な上、スラリと背が高く、亡くなったお母様ゆずりのクールな美形だから、本人が何もしなくても女の人が次々寄ってくる。
母の過去の発言を思い返してみても、遼ちゃんに「彼女」と呼べる存在がいた時期は何度もあったと思う。でも遼ちゃんは、私の前で一切そういう気配を見せなかった。叔父に首ったけの姪っ子に気を遣ってくれていたのか、私と一緒にいるときは、いつだって「梓が一番大事」という態度を崩さずにいてくれた。

そういう育ち方をしたせいなのか、私は年頃に成長しても他の男の人に興味を抱くことができないままだった。試しに、年の近い男の子と付き合おうと努力したこともある。大学時代は誘われれば(本当は行きたくなかったけれど)合コンにも行った。でも全部無駄だった。私は困ったことに、どうしても叔父以外の男性を愛することができないのだ。
遼ちゃんは今でも、私を誰より大切に扱ってくれる。けれども、それはあくまで可愛い姪としてだ。今年で34歳になるのに(モテるにも関わらず)未だに結婚する気配もないが、別に私の為ではないだろう。だって遼ちゃんは、私を女として、恋愛対象としては決して見てくれないから。

だから私は、4年半前のあの日のことを、何度でも想い出して自分の慰めにしている。
私の高校の卒業式翌日。遼ちゃんがたった一度だけ、キスと、それ以上のことを私にしてくれた日のことを。


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