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珠里の幸福な日
しおりを挟む隙間もないほど珠里の中が誠也で埋まっている。繋がっているところが温かくて、ひとつになれたという事実が身体を通して伝わってくる。
少女の頃から秘めた想いを抱き続けた人と、ようやく身も心も結ばれた。心の奥でずっとずっと願っていた。叶う可能性は低くても、どうしても諦めきれなかった。
諦めなくて良かったと、珠里はぽろぽろ涙をこぼした。誠也がせつなそうに微笑み、親指で優しく濡れた頬を拭ってくれる。
「苦しくないか?……痛む?」
「ううん、そんなに痛くない。……でも、思ったより大きい……」
「そういうこと言われると、余計大きくなるぞ」
「え、そうなの?」
誠也がフッと照れたように笑い、珠里の唇を愛おしそうに吸った。
キスしながら手のひらで頬を撫でられ、耳の中を中指で優しくまさぐられる。
何とも言えない心地良さに、珠里は思わず身をくねらせた。それに合わせるように、誠也が腰をゆっくりと動かし始める。
くちゅ、と音がした。さっきまでみっちりと埋め尽くされ苦しいほどだったのに、新たな蜜があふれ出して誠也の熱を咥え込んでいるのが分かる。
最初は緩いリズムで優しく、やがて珠里の感触をくまなくたしかめるように淫猥に。意思を持った塊は珠里を内側から甘く犯し、カタチを覚えさせるようにその熱を伝えてくる。
誠也の首に手を回したまま、揺れる動きに身を任せた。
自然に吐息が濡れた響きに変わっていく。えぐられ、擦られるごとに身体が淫らに開いていく。
「辛くないか……?」
「へい、き。……なんか、これ、好き……」
「俺も、好き。おまえの中、すごい好き」
そんなことを言われると、せつなさでお腹の奥がキュッと疼いてしまうのに。
腰を揺らしあっているうちに、じんわりした心地良い感覚が生まれてきていた。そう告げると、誠也が嬉しそうな笑みを浮かべながら珠里のこめかみにキスした。
抽送のスピードが徐々に速くなっていく。珠里は必死でしがみつき、誠也の腰に自然に両脚を巻き付けた。
挿入の角度が深くなった気がする。奥の方を繰り返し突かれ、ふわふわした快感のうねりが珠里の身体を這いあがってきた。
「誠ちゃん、気持ちいい……?」
「いいよ。ものすごく、気持ちいい。ずっと、このままでいたいくらい……」
いつになく甘い瞳で見つめられ、恥ずかしさと愛おしさで胸が締め付けられる。誠也の動きが一層激しくなっていく。
突かれながら乳房を揉まれ、ますます快楽のうねりに追い込まれていった。絡みあう舌も唇も唾液まみれになり、歯と歯がぶつかってカチッと鳴った。
もどかしいほどに愛おしい。もっと溶けあいたくて、互いの濡れた肌をひたすら擦りあわせる。
「……珠里、愛してる」
これ以上ないほどシンプルな、ありふれている言葉。それを誠也の口から聞けるとは思っていなかった。さっきせっかく拭ってくれたのに、また頬に涙がこぼれ落ちた。
「私も、愛してる。……誠ちゃんだけ、ずっと……っ」
6歳のときにかけられた魔法は未だに解けないまま。今、新たな魔法をかけられていく。
「ふ、あっ……。せ、ちゃん……っ。きもち、い……っ」
ぬちゅ、ずちゅ、と繋がったところから卑猥な音が響いている。こんなにだらしなく蜜をあふれさせて、珠里の心と身体が誠也を狂おしいほどに求めている。
突かれる度に唇から熱い息がこぼれ、いつしか珠里は甘苦しい鳴き声をあげて誠也に縋りついていた。
結合部が打ち合って汗と蜜が混じり飛び散る。誠也が動くたびに珠里の白い乳房がせつなげに揺れて乱れた。
「あ、あんっ、も、だめ……っ」
激しく突き上げられ、珠里は悲鳴と共に身体を弓なりに反らせた。
誠也が珠里の乳首を指先で捻り上げる。そうしながら、熱いペニスは執拗に最奥を攻め続けた。
「あ……、きちゃうっ……。あ、あぁ……っ!」
「珠里……っ。いくっ……」
閉じた眼の裏に、さっき見上げた星々が広がる。
痙攣するように身体がしなり、快楽の大きな波が天辺で弾け飛んだ。
脱力したふたつの身体は重なったまま、濡れたシーツにだらしなく沈んだ。
お腹の奥が温かい。お互いの体温をまだ手放したくなくて、絡みあったまま唇を吸いあった。
……まだまだもっと、いくらでも欲しい。
唇も舌も、肌も、繋がっているところも。どこもかしこも熱く濡れて蕩けあっている。このままずっと、何年経っても、ふたりずっと抱きあっていられるように。
「誠ちゃん……。一生、離さないでね」
恥ずかしかったので、誠也の耳に口を近づけて囁いた。それだけで、まだ珠里の中にいる誠也自身がむくりと熱を取り戻すのが分かった。
翌朝眼が覚めたときには全身が鈍く痛んでいた。
脚の間がヒリヒリしている。でも不快感はない。不思議と、嬉しいような恥ずかしいような甘ったるい痛みだ。
気怠い疲労感に引きずられながら、珠里は誠也の腕にくるまれ幸福な惰眠を貪った。
カーテンの向こうから小鳥の囀りが聞こえてくる。どこかで小学生くらいの男の子が元気にはしゃぐ声がしている。他の泊り客は随分と早起きのようだと思って時計を見たら、とっくに午前8時を回っていた。
誠也も眼を覚まし、さっそく珠里の身体にちょっかいを出してきた。
裸のまましばしベッドでじゃれあっていたが、今日は滝を見に行く予定だったと思い出す。あまりぐずぐずしているわけにもいかないので、珠里は思い切ってベッドから出た。
着替えを邪魔しようとする誠也の手をピチッと叩き、珠里はサーモンピンクのシンプルなブラとショーツを身に着けた。
眩しそうに、満足そうに、誠也がじっと珠里を見つめている。こんなふうに見つめられると、やっぱりまだちょっと恥ずかしい。珠里は照れ隠しに誠也の腕を掴んでベッドから引きずり出し、ちょっと長めの「おはよう」のキスをした。
テラスのテーブルで昨日買っておいたクロワッサンや総菜パン、ヨーグルトの朝食を取った。
樹々の隙間から差し込む光は柔らかく、森を満たす空気は清涼でとても心地良い。眼の前にはまだ髪に寝ぐせがついたままの愛しい人。あくびをしながらコーヒーを飲む姿さえ、なんだか可愛らしくて見惚れてしまう。
幸せすぎて夢を見ているようだ。浮かれる珠里の様子を見て、誠也が「顔がユルんでるぞ」とからかった。
朝食を済ませると、コテージを出て予定どおり滝を見に行った。
駐車場に車を停めた後、短いハイキングコースをのんびり歩いて行く。鬱蒼と茂る緑の美しさに眼を奪われつつ、鳥の歌声に耳を傾けながらの散策はそれだけで最高の贅沢だ。珠里は「森林浴、森林浴」と繰り返し、澄んだ空気をめいっぱい胸に吸い込みながら歩いた。
滝は期待していた以上に迫力があり、心が洗われるような清々しさに感激した。
他の観光客に混ざって売店で食べたソフトクリームもとても美味しかった。珠里がソフトクリームを舐めているところを、誠也がいろいろな角度から何枚も写真に撮っていた。「なんでそんなに撮るの」と訊いたら、答えずにちょっとエッチな顔で笑っていた。
誠也は眼にする風景をずっとスマートフォンで撮影していた。仕事の参考資料にするのだろう。時々珠里の写真も撮ってくれるのがやっぱり嬉しかった。
途中やや滑りそうな道があり、珠里はサンダルを履いてきたことを少々後悔した。けれども誠也がしっかり手を握ってくれたので、安心して歩くことができた。
時折、擦れ違う若い女性たちが誠也にチラチラと視線を投げていく。
誠也本人は無頓着だが、珠里はその度に少し複雑な気持ちになった。だから繋いだ手は決して離したくない。キュッと力を籠めたら、誠也が指を絡め「恋人繋ぎ」をしてくれた。
昼過ぎにアウトレットに移動し、イタリアンレストランで食事をしてからショッピングを楽しんだ。
ここのアウトレットはよくテレビや雑誌などでも見かけるが、とにかく敷地面積が広くてショップの数も多い。誠也は普段から好んでいるブランドでシャツとパンツ、スポーツブランドでスニーカーとTシャツを買った。珠里もまた、可愛いブラウスと秋物のバッグ、赤いバレエシューズを手に入れて大満足した。
K高原ブランドの人気商店では、自家製ハムとチーズを多めに買った。家の分と、この旅をプレゼントしてくれた編集の野村へのお土産だ。冷蔵の宅配便で届けてもらうよう手配を済ませると、荷物を置きに一度コテージに戻ることにした。
夕飯までまだたっぷり時間がある。ひと休みしたらホテルに併設されているアクティビティスポットに行き、パターゴルフをして遊ぼうと決めた。
「旅行って、楽しいね。帰りたくなくなっちゃう」
駐車場に向かいながら思わずそう呟くと、誠也もしみじみと頷いた。
「旅行自体にあんまり縁がなかったから深く考えたことなかったけど、こうやって来てみるとクセになりそうだよな」
買い物袋を持ってのんびり歩く誠也は、いつになく穏やかでくつろいだ顔をしている。
「誠ちゃん、子供の頃に伯父さんと旅行したりしなかったの?」
「ほとんど記憶にねえなぁ……。日帰りで海とか水族館に連れてってもらったのはぼんやり覚えてるけど。……夏休みっていうと、子供の頃に婆ちゃん家に預けられて何度か泊まったけど、あれは結構楽しかったな。トウモロコシとかスイカとか食いすぎて、よく腹壊したけど」
「婆ちゃん家」とは、珠里が育った音原家のことだ。まだ珠里が生まれる前。母は看護師になって実家を出ていた頃なので、祖母がひとりであの家に暮らしていた。
祖父の後妻だった祖母と、先妻の孫である誠也に直接の血の繋がりはない。だが祖母は優しくて気のいい人だったので、誠也をとても可愛がっていたのだそうだ。
「珠里のお母さんも夏休みで二、三日帰ってくることがあって、一緒に遊んでもらったりしたぞ。ゲームなんかやるとすげームキになって、面白い叔母さんだった」
「そうなんだ……!」
「親父が俺を迎えに来る日は、みんなでオセロ大会だよ。珠里はオセロなんて知らないだろ。親父と叔母さんがこれまた本気で勝負するから結構白熱するんだ。あれはホントに楽しかった」
懐かしそうに眼を細める誠也の横顔見ていたら、じわりと優しい感情が込み上げてきた。
珠里がまだこの世に生を受けていない時代に、音原家の皆があの家で一緒に過ごし、笑いあっていた「時間」があった。その光景は想像するだけで胸が温かくなるもので、誠也たちの笑い声が珠里の耳にも聞こえてくるような気がした。
あの懐かしい家も、今はもうない。祖母の死後、更地になって売却され、今ではアパートが建っていると聞いている。
「……ねえ、誠ちゃん。これから毎年、ふたりで夏休みの旅行しようよ」
珠里は繋いだ手を前後に振って、誠也の顔を見上げた。
「いろんなところに行って、一緒に想い出たくさん作ろう」
まるで小学生の作文のようなセリフに、自分でも恥ずかしくなった。だが誠也はとても幸福そうな顔で「そうだな」と頷いてくれた。
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