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珠里のハプニング
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珠里はソファの上で、いくつものポーズを取った。
自分から言い出したとはいえ、格好が格好なだけに最初は死ぬほど恥ずかしかった。そもそもモデルの真似事などしたことがない上に、セクシーなランジェリー姿だ。ちょっと動いただけで、下着がずれて大事なところが見えてしまいそうになる。
それでも、珠里は嬉しかった。
羞恥心をかなぐり捨て、自ら誠也にモデルを買って出た。誠也の仕事の役に立ちたかったし、できることなら大人になった珠里を見てほしかった。ほんの少しでも、自分を「女」として認めてほしかった。動機は不純だったかもしれないが、こうして誠也に今の自分の姿を見てもらい、お世辞でも「綺麗だ」と言ってもらえたことが本気で嬉しかった。
誠也は珠里にスマートフォンを向けながら、どんどん集中していった。
最初はひどく戸惑い、逃げようとすらしていたかに見えた誠也だったが、いざ珠里の下着姿を見たら仕事魂に火がついたのか、真剣な様子で写真を撮り続けていた。
――体育座りをしてみて。猫みたいに四つん這いに。髪をかき上げて。後ろ姿を見せて。視線をこっちに向けながら、ソファにもたれてみて。――
誠也の要求に、珠里は次々と応えた。誠也の眼差しに熱が籠るほど、珠里もためらいを捨てて大胆に身体を動かした。
ソファの上に仰向けになると、誠也が上から覗き込むように珠里を見下ろしてきた。
両腕を上に伸ばし、伸びをするようにして誠也を見上げる。こうするとブラのカップが胸のふくらみからズレそうになり少し心配になるが、珠里は頬を熱くしながらも黙ってポーズを取った。
撮影することを忘れたかのように、誠也の動きが一瞬止まった。
ソファの背もたれに手を掛け、スマートフォンを右手に握ったまま、横たわる珠里をじっと見下ろしている。そのまま覆いかぶさって抱きしめられるのではと錯覚するほど、ふたりの視線が濃密に絡みあった気がした。
けれどもそれも数秒の出来事で、誠也は湿った咳ばらいをしてから再度珠里にカメラを向けてきた。
ひとしきり撮影が終わると、誠也は珠里を見ながらスケッチブックに絵を描き始めた。
さすがプロだけあり、写真を撮った時より更に真剣度が増している。「ごめんな。もうちょっとで済むから」と言いながら、誠也は何枚も何枚も珠里の姿をスケッチし続けた。
正直少し肌寒くなってきたけれど、珠里は誠也のためならいつまででも耐えられると思った。何よりも、誠也がこんなにも熱い眼差しで珠里の姿を絵にしてくれることに、深い深い喜びを感じていた。
会話もほとんどない。鉛筆が紙の上に走る音と、ふたりの吐息と雨音だけ。
珠里はとても静かな幸福を感じていた。この世に誠也と自分だけが存在しているような空間。このまま誰にも邪魔されずに、ずっと閉じ込められてもいいような気持ちにさえなった。
午後5時を過ぎて外の雨が上がり始めた頃、誠也はようやく鉛筆を置いた。
描き上げたラフ画をパラパラと捲って見直し、満足したように一度頷く。それを見て、珠里もホッと一息ついた。
「……イメージ、掴めた?」
「ああ、バッチリ。……ありがとう。珠里のおかげだ、ホントに」
誠也がスケッチブックから顔を上げて照れくさそうに笑った。
「良かった……!」
役に立てたことが嬉しくて、珠里も思い切り微笑み返した。
我ながら無茶な申し出だったと思うけれど、結果として誠也のスランプ脱出のきっかけになれるとしたら、もうそれだけで十分だった。
「……描いたの、見てもいい?」
「ああ、うん」
思い起こせば、珠里は誠也に似顔絵的なものを描いてもらった記憶が一度もない。少しドキドキしながら身をかがめ、誠也の持っているスケッチブックを覗き込んだ。
最初にチラリと見たラフ画とは雲泥の差だった。
あきらかに気合いの入り方が違う。線が生き生きしている。珠里の表情が丁寧に描き込まれ、身体の線もランジェリーの細やかなレースも、短時間のスケッチなのに見事に表現されている。これだけで、「オト・マコト」ファンなら垂涎ものの作品になりそうな出来栄えだった。
「……すごい。素敵。こんなに可愛く描いてくれたんだ」
誠也の手によって自分の姿がこんなふうに再現されたことがとても嬉しくて、なんだか胸がいっぱいになった。
「いや、モデルが良かったからだ。……久しぶりに、楽しんで描けた。ありがとな、珠里」
誠也が妙にしみじみとした口調で言う。それだけで救われた気がして、珠里は「うん」と笑顔で頷いた。
「あー……、寒いカッコさせて悪かったな。風邪ひくから、そろそろ」
誠也が珠里から目線を逸らして立ち上がり、クッションの上に投げ出されていたパーカーを指差した。
「あっ、そうだね」
突然現実に戻った気がして、珠里もにわかに恥ずかしくなった。急に誠也の態度がよそよそしくなったのは、珠里が下着姿のままなのを改めて意識したせいかもしれない。
パーカーを拾い上げようと上体を折り曲げた。背中の筋肉が伸びた瞬間、何かがブチッと弾け飛ぶような気配を感じた。
「あ……っ」
起こったことが、すぐには把握できなかった。背中からスルリと何かが滑り落ち、不意に肌が涼しくなったような気がした。それから自分の肘の辺りに黒いブラジャーが引っかかっているのに気づき、珠里はようやく背中のホックが外れて飛んだのだと理解した。
売り物にならない不良品だと言っていた。外国製だからか、金具の造りが少し安っぽくて硬かった。無理やり嵌めたけれど、正直心配ではあった……。
「きゃっ……」
「うっ、あああぁぁあーーーーーーーっ!!!」
珠里の悲鳴よりも誠也の叫び声の方が凄まじかった。
「み、見てない!全然、大丈夫だ!何も、いや、ちょっとしか、見てない!ほんとに!」
誠也は顔を横に背け、慌てて拾い上げたパーカーで珠里の身体を勢いよく包み込んだ。耳まで赤くなっている。誠也がここまで赤面するのを初めて見たので、珠里もまた動揺して首筋まで真っ赤になった。
「……ほんとに!見てないから!気にするな、まったく問題ない!ほら、早く着替えてこい……っ」
「あ、うん。ごめ……っ」
「き、今日は晩飯作らなくていいから!……で、出前だ、出前を取ろう……っ」
なぜいきなり出前にまで話が突き進むのかは不明だけれど、誠也が慌てふためいていることだけは分かった。珠里は裸の胸を見られてしまった恥ずかしさ以上に、誠也の狼狽ぶりに驚いて言葉を返す余裕もなかった。
珠里はパーカーにくるまれ、誠也の仕事部屋から押し出された。
自室に戻り、心臓をドキドキ鳴らしながらも急いで自分の下着に着替えた。鏡に映ったいつもの自分の姿を見てようやくホッとしたものの、さっきのハプニングを思い返すと顔から火が出そうになる。
珠里は自分の胸元に手をやりながら、大きなため息をついた。
……見られちゃった。
見ていないと喚いていたが、誠也は珠里の胸をしっかり見ていたと思う。時間は短かったが、「信じられない」とでも言うように眼を見開いて、珠里の胸元を凝視していたのは確かだ。
思い出すだけで、顔がカーッと火照ってくる。珠里は鏡の前で思わずしゃがみ込んだ。あのきわどいランジェリー姿を見せておいて今更だけれど、やはり裸を見られることは段違いに恥ずかしい。
けれど、嫌な気持ちにはなっていなかった。恥ずかしいのは確かだが、見られたのが誠也ならまったく構わないと思っている自分がいる。
珠里はピンクのブラに包まれた自分の胸のふくらみを見下ろし、誠也はどう思ったのだろうと気になり始めた。
がっかりしただろうか。それとも「女」として意識してくれただろうか。
あんなに慌てたのは、どういう意味だろう。「男」として性的に興奮したから慌てたのか、それとも「保護者」として見てはいけないものを見てしまったから狼狽したのか。
誠也の眼差しを思い出すと、身体の芯がキュッと熱くなってくる。珠里は服を着た後も、しばらく自分の部屋から出ていけなかった。
その日の夕食は、誠也の一存で出前を取ることとなった。珠里は作ると言ったのだが、誠也が「今日はいい。おまえは休め」と頑なに言い張るので、黙って言うことに従った。
久しぶりにお寿司を頼んだのだが、ダイニングテーブルで向かい合って食べていても味がほとんど分からなかった。テレビの音がそらぞらしく聞こえるだけで、お互い言葉も見つからないまま黙々と食べ続けるばかりだ。
チラリと眼を上げて様子を窺うと、誠也と視線がバチッと絡みあった。するとお互いみるみる赤面し、結局また下を向いて食べ続けるしかなかった。
……こんなことになっちゃうなんて。
珠里は途方に暮れる想いで小さく息をついた。これからしばしの間、気まずい空気は避けられないかもしれない。
それでも、耳たぶを赤く染めている誠也をこっそり見ると、不思議と嬉しさにも似たくすぐったい疼きが胸の内に湧き上がってきた。
……なんだか、誠ちゃん可愛い。
少なくとも、まるで動じずに平然とされるよりはずっといい。うろたえてくれる方が、女の子としては救いがある。
「……あのさ。……綺麗だったよ、ほんとに」
誠也がぼそりと呟いた。驚いて顔を上げると、誠也は下を向いたまま、トロに醤油をつけている。
頬はまだ赤かった。珠里の視線を感じても、やはりこちらを見ようとはしてくれない。
それでもやっぱり珠里は嬉しかった。意識してくれているのが、どうしたって嬉しかった。
頬が緩んできて、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。ようやく顔を上げた誠也も、つられたように照れて笑った。
自分から言い出したとはいえ、格好が格好なだけに最初は死ぬほど恥ずかしかった。そもそもモデルの真似事などしたことがない上に、セクシーなランジェリー姿だ。ちょっと動いただけで、下着がずれて大事なところが見えてしまいそうになる。
それでも、珠里は嬉しかった。
羞恥心をかなぐり捨て、自ら誠也にモデルを買って出た。誠也の仕事の役に立ちたかったし、できることなら大人になった珠里を見てほしかった。ほんの少しでも、自分を「女」として認めてほしかった。動機は不純だったかもしれないが、こうして誠也に今の自分の姿を見てもらい、お世辞でも「綺麗だ」と言ってもらえたことが本気で嬉しかった。
誠也は珠里にスマートフォンを向けながら、どんどん集中していった。
最初はひどく戸惑い、逃げようとすらしていたかに見えた誠也だったが、いざ珠里の下着姿を見たら仕事魂に火がついたのか、真剣な様子で写真を撮り続けていた。
――体育座りをしてみて。猫みたいに四つん這いに。髪をかき上げて。後ろ姿を見せて。視線をこっちに向けながら、ソファにもたれてみて。――
誠也の要求に、珠里は次々と応えた。誠也の眼差しに熱が籠るほど、珠里もためらいを捨てて大胆に身体を動かした。
ソファの上に仰向けになると、誠也が上から覗き込むように珠里を見下ろしてきた。
両腕を上に伸ばし、伸びをするようにして誠也を見上げる。こうするとブラのカップが胸のふくらみからズレそうになり少し心配になるが、珠里は頬を熱くしながらも黙ってポーズを取った。
撮影することを忘れたかのように、誠也の動きが一瞬止まった。
ソファの背もたれに手を掛け、スマートフォンを右手に握ったまま、横たわる珠里をじっと見下ろしている。そのまま覆いかぶさって抱きしめられるのではと錯覚するほど、ふたりの視線が濃密に絡みあった気がした。
けれどもそれも数秒の出来事で、誠也は湿った咳ばらいをしてから再度珠里にカメラを向けてきた。
ひとしきり撮影が終わると、誠也は珠里を見ながらスケッチブックに絵を描き始めた。
さすがプロだけあり、写真を撮った時より更に真剣度が増している。「ごめんな。もうちょっとで済むから」と言いながら、誠也は何枚も何枚も珠里の姿をスケッチし続けた。
正直少し肌寒くなってきたけれど、珠里は誠也のためならいつまででも耐えられると思った。何よりも、誠也がこんなにも熱い眼差しで珠里の姿を絵にしてくれることに、深い深い喜びを感じていた。
会話もほとんどない。鉛筆が紙の上に走る音と、ふたりの吐息と雨音だけ。
珠里はとても静かな幸福を感じていた。この世に誠也と自分だけが存在しているような空間。このまま誰にも邪魔されずに、ずっと閉じ込められてもいいような気持ちにさえなった。
午後5時を過ぎて外の雨が上がり始めた頃、誠也はようやく鉛筆を置いた。
描き上げたラフ画をパラパラと捲って見直し、満足したように一度頷く。それを見て、珠里もホッと一息ついた。
「……イメージ、掴めた?」
「ああ、バッチリ。……ありがとう。珠里のおかげだ、ホントに」
誠也がスケッチブックから顔を上げて照れくさそうに笑った。
「良かった……!」
役に立てたことが嬉しくて、珠里も思い切り微笑み返した。
我ながら無茶な申し出だったと思うけれど、結果として誠也のスランプ脱出のきっかけになれるとしたら、もうそれだけで十分だった。
「……描いたの、見てもいい?」
「ああ、うん」
思い起こせば、珠里は誠也に似顔絵的なものを描いてもらった記憶が一度もない。少しドキドキしながら身をかがめ、誠也の持っているスケッチブックを覗き込んだ。
最初にチラリと見たラフ画とは雲泥の差だった。
あきらかに気合いの入り方が違う。線が生き生きしている。珠里の表情が丁寧に描き込まれ、身体の線もランジェリーの細やかなレースも、短時間のスケッチなのに見事に表現されている。これだけで、「オト・マコト」ファンなら垂涎ものの作品になりそうな出来栄えだった。
「……すごい。素敵。こんなに可愛く描いてくれたんだ」
誠也の手によって自分の姿がこんなふうに再現されたことがとても嬉しくて、なんだか胸がいっぱいになった。
「いや、モデルが良かったからだ。……久しぶりに、楽しんで描けた。ありがとな、珠里」
誠也が妙にしみじみとした口調で言う。それだけで救われた気がして、珠里は「うん」と笑顔で頷いた。
「あー……、寒いカッコさせて悪かったな。風邪ひくから、そろそろ」
誠也が珠里から目線を逸らして立ち上がり、クッションの上に投げ出されていたパーカーを指差した。
「あっ、そうだね」
突然現実に戻った気がして、珠里もにわかに恥ずかしくなった。急に誠也の態度がよそよそしくなったのは、珠里が下着姿のままなのを改めて意識したせいかもしれない。
パーカーを拾い上げようと上体を折り曲げた。背中の筋肉が伸びた瞬間、何かがブチッと弾け飛ぶような気配を感じた。
「あ……っ」
起こったことが、すぐには把握できなかった。背中からスルリと何かが滑り落ち、不意に肌が涼しくなったような気がした。それから自分の肘の辺りに黒いブラジャーが引っかかっているのに気づき、珠里はようやく背中のホックが外れて飛んだのだと理解した。
売り物にならない不良品だと言っていた。外国製だからか、金具の造りが少し安っぽくて硬かった。無理やり嵌めたけれど、正直心配ではあった……。
「きゃっ……」
「うっ、あああぁぁあーーーーーーーっ!!!」
珠里の悲鳴よりも誠也の叫び声の方が凄まじかった。
「み、見てない!全然、大丈夫だ!何も、いや、ちょっとしか、見てない!ほんとに!」
誠也は顔を横に背け、慌てて拾い上げたパーカーで珠里の身体を勢いよく包み込んだ。耳まで赤くなっている。誠也がここまで赤面するのを初めて見たので、珠里もまた動揺して首筋まで真っ赤になった。
「……ほんとに!見てないから!気にするな、まったく問題ない!ほら、早く着替えてこい……っ」
「あ、うん。ごめ……っ」
「き、今日は晩飯作らなくていいから!……で、出前だ、出前を取ろう……っ」
なぜいきなり出前にまで話が突き進むのかは不明だけれど、誠也が慌てふためいていることだけは分かった。珠里は裸の胸を見られてしまった恥ずかしさ以上に、誠也の狼狽ぶりに驚いて言葉を返す余裕もなかった。
珠里はパーカーにくるまれ、誠也の仕事部屋から押し出された。
自室に戻り、心臓をドキドキ鳴らしながらも急いで自分の下着に着替えた。鏡に映ったいつもの自分の姿を見てようやくホッとしたものの、さっきのハプニングを思い返すと顔から火が出そうになる。
珠里は自分の胸元に手をやりながら、大きなため息をついた。
……見られちゃった。
見ていないと喚いていたが、誠也は珠里の胸をしっかり見ていたと思う。時間は短かったが、「信じられない」とでも言うように眼を見開いて、珠里の胸元を凝視していたのは確かだ。
思い出すだけで、顔がカーッと火照ってくる。珠里は鏡の前で思わずしゃがみ込んだ。あのきわどいランジェリー姿を見せておいて今更だけれど、やはり裸を見られることは段違いに恥ずかしい。
けれど、嫌な気持ちにはなっていなかった。恥ずかしいのは確かだが、見られたのが誠也ならまったく構わないと思っている自分がいる。
珠里はピンクのブラに包まれた自分の胸のふくらみを見下ろし、誠也はどう思ったのだろうと気になり始めた。
がっかりしただろうか。それとも「女」として意識してくれただろうか。
あんなに慌てたのは、どういう意味だろう。「男」として性的に興奮したから慌てたのか、それとも「保護者」として見てはいけないものを見てしまったから狼狽したのか。
誠也の眼差しを思い出すと、身体の芯がキュッと熱くなってくる。珠里は服を着た後も、しばらく自分の部屋から出ていけなかった。
その日の夕食は、誠也の一存で出前を取ることとなった。珠里は作ると言ったのだが、誠也が「今日はいい。おまえは休め」と頑なに言い張るので、黙って言うことに従った。
久しぶりにお寿司を頼んだのだが、ダイニングテーブルで向かい合って食べていても味がほとんど分からなかった。テレビの音がそらぞらしく聞こえるだけで、お互い言葉も見つからないまま黙々と食べ続けるばかりだ。
チラリと眼を上げて様子を窺うと、誠也と視線がバチッと絡みあった。するとお互いみるみる赤面し、結局また下を向いて食べ続けるしかなかった。
……こんなことになっちゃうなんて。
珠里は途方に暮れる想いで小さく息をついた。これからしばしの間、気まずい空気は避けられないかもしれない。
それでも、耳たぶを赤く染めている誠也をこっそり見ると、不思議と嬉しさにも似たくすぐったい疼きが胸の内に湧き上がってきた。
……なんだか、誠ちゃん可愛い。
少なくとも、まるで動じずに平然とされるよりはずっといい。うろたえてくれる方が、女の子としては救いがある。
「……あのさ。……綺麗だったよ、ほんとに」
誠也がぼそりと呟いた。驚いて顔を上げると、誠也は下を向いたまま、トロに醤油をつけている。
頬はまだ赤かった。珠里の視線を感じても、やはりこちらを見ようとはしてくれない。
それでもやっぱり珠里は嬉しかった。意識してくれているのが、どうしたって嬉しかった。
頬が緩んできて、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。ようやく顔を上げた誠也も、つられたように照れて笑った。
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