無限ではない力

嵯乃恭介

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第七話 捨てられた子供は甥っ子

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あぁ、神様どうか時間が戻せるならば昔の三人に戻して下さい。そして四人目のあの子にもご加護をください。
何故私は失う事ばかりなのでしょうか?神様あなたの怒りに触れてしまったのですか?

貴族でもすがるものもいる。
教会にてアオイは祈る様に無事を願うしかない。しかしそこで思いだしたのはライルからもらった携帯、何かあったら電話しても良いと言っていた。もしもあの子が落とされたとしたら、ライルはきっと拾ってくれているはずだ。切ない思いで電話をコールすると、数回鳴らしたコールからライルの声に変わった。

『早速過ぎないか?もしくは何か問題でもあったか?』

「私が・・・帰る前に消えたの!ハヤトが消えたの!!」

『・・・どういう関係だ?』

ライルは電話口で少し考えたタイミング的にハヤトが名前も親も居ないという部分が当てはまる。それにアオイも子供が居ると言っていた。それでも力の事を知らなかったのか?それにしても母親に秘密での子供をスラム街に?

『ねぇ・・・もしかして・・』

「お前は・・・なんで・・・なくすんだろうな・・・」

『そんな・・・私のハヤトが・・・あぁぁ・・・』

すすり泣く彼女の声が大きかったのかハヤトが下から袖を引っ張っていたが、ライルは口に指を添える。アオイはハヤトを愛してた。これは彼女が本当に知らなかったことだろう。知っていたとしても彼女の事だ身内を騙してでも隠すに違いない。

「ちなみにハヤト君の力は知っていたか?」

すすり泣く声で聞こえないが、まるで首を横に振っているような音が聞こえた。となると、父親の方に問題があったのかもしれない。化け物と呼ばれる子を産まれてしまった貴族の両親となると、社交界でははみ出し者になるだろう。かくいうライルはその辺のことは消していたが・・・アオイだけには覚えててもらいたかったのか・・自分でも判らない。

「落ち着けアオイ、お前の旦那はどの名家だ?」

『ぅぅぅ・・・ぁ・・・ひっく・・貴方の・・・お兄様のカナエさん』

ギチと携帯が壊れそうになるほど手に力が入ってしまった。兄の記憶も消したとはいえ、まさか幼馴染のアオイと結婚して、その子供を捨てたとなると、自分の制御が効かなくなる。逆にアオイは恐らく自分の面影を想って兄に近づいたかもしれないがありえないと考えた。確かにアオイを守りたくて逃げ出した・・・。逃げ出すほど弱かった自分が憎かった。アオイに忘れてほしくなかったのもある、こうなるなら記憶を消しておけば良かった。

「カナエ・・・そうか・・・、じゃぁハヤト君は俺の甥っ子になるんだな?あとユウとも・・・」

『そうなるわ・・・っく・・』

「今は俺が預かっているが、ユウが育てると言ったのは本能で血のつながりを考えたのかもしれないな」

『ユウが?』

声のトーンが上がった。少しは落ち着いたかと思いうが、下手に刺激しないほうが良いと感じたが自分の気が済まない。兄のカナエはライルが欲しいと思うものを奪ってきたが、記憶を消しても狙っていたのかアオイから誘ったのか・・。どちらにしてもライルの怒りは収まらない。

「夫が寝たきりになってもかまわないか?」

『・・・え?』

「あぁ、これは俺の問題でもあるんだが、お前の問題でもあるし俺は甥っ子に当たるハヤトを捨てたことを後悔させてやりたいんだが・・・」

『・・・でも、そうなると私出戻りになってしまう・・・』

ライルはフゥと深呼吸するように息を抜いた。覚悟を決めるのは彼女であって自分ではないとライルは思っているが、正直に言おう。ライルはアオイと再会した時にさらっておけば良かったと今更ながら思ってしまっている。それが遅かろうと早かろうと、どっちでもいい。
兄の手から離れてほしい、そして母親と息子として生きていてほしい。そうしたら、ハヤトも元気になるだろうし殺し屋になる必要はない。

「決めるのはお前だ。強要はしない。お前が拒否すれば俺はカナエには何もしない・・・」

ここまで非道だとは思わなかったが、アオイと甥っ子であるハヤトを追い詰める兄が憎い。久々に温厚な表情が剥がれて暴走してしまいそうだと顔を手で覆うと、ハヤトが心配そうに見上げていた。ハヤトの頭を撫でて背中を向けると、不安になったのかシャツの端っこを持ったまま離れない。

「お前の子供は・・優しすぎる、スラム街では無理だな・・・」

『そんな・・・カナエを説得するから!!』

「何年あいつと付き合ってんだよ。判っているはずだろ?あいつは自分以外は道具でしか考えてない。何かほしいものがあれば、何でもする・・・今回の妊娠だって喜んだか?男だった以外に、ハヤトを愛したか?」

『っ!』

アオイは黙り込んでしまった。思っていた通りだと思う、名家とはいえ、アオイたちの方が身分は上だ。貴族にも基準があるものだ。皇族の血筋が流れている者が居る場合もあるが、皇族としての扱いはないが貴族としての気品など立場上は上である。

アオイは黙ったままだった。それもそのはずだ夫と離れ息子を選べば上品に育ってきたアオイは、レイプされてしまいハヤトは力を使おうが未熟なので、助けることが出来ないだろう。

ー誰も救えない・・・

握りしめる拳に血がにじむとハヤトが手に触れる。
黙ったまま笑顔を浮かべて、しゃがんでハヤトの頭を撫でると嬉しそうにハヤトは黙って笑っていた。そしてハンカチだろうか、何かの布切れでライルの手を押さえる。
とても優しい子だと実感する、だからこそ育てるべきだ。スラム街に落ちたことも運命かもしれないが助けてやりたい・・・、何かを犠牲にしても良い。
そこで思ったのはアオイとハヤトの保護だったが、自分とのかかわりがあるとなると、余計な危険もあるだろうし尚更無理だと首を振る。

「お兄さん、どうしたの?」

ポンポンとハヤトの頭を撫でて、また口元に指をあてるとハヤトはコクリ首を縦に動かした。
さて、どうしたものか。とりあえずは兄の行いを後悔させることが先決だが、アオイが渋っている以上、手出しは出来ないが・・・、アオイが一息つくと強めの声で宣言した。

『私も・・・スラム街に行くわ』

「本気か?無理矢理犯されて殺させるだろう?昨日来れたのだって奇跡に近い」

『私だって、いつまでもお嬢様で収まるつもりはないわ。力がなくとも、母親の底力見せてあげるわよ』


協会に居たアオイは化粧関係なく袖で涙をぬぐい、何か言っているライルの言葉を切った。そして荷物をまとめる準備をする決意を固めていた。


「切れちまったか、母親ってすげーな・・・。ハヤト・・お前のお母さんは強い人だな」

「?お母さんと電話してたの!?僕も出たかった!なんで捨てたのかとか聞きたかった!」

「大丈夫だ、たぶん迎えに来てくれる。一緒にここで住んでくれるかもしれないぞ?それまでにハヤトが力を、ちゃんと使いこなせないとな?」

「それなら頑張る!」

ライルとハヤトの訓練は、緩やかだが徐々にきつくなっていくだろう、それでもハヤトは母との生活の為に泣くことはなく段々と向上心が上がる、そんな気がしていた。
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