二つの世界

第一話

作家である加藤冴子の担当になる男性は不思議な死を遂げていた。ある者は突然、走り出しビルに上がり飛び降り、ある者は家に帰って首を吊って、ある者は抵抗なく水没し。
　よって誰もが彼女の担当につこうというものは居なかった。もちろん女性も行くと言う者は居ない、そこで編集長は入社したての者に行かせることにした。男性は噂を既に知っており断りを入れてきたが、女性で田舎から出てきたばかりの笑顔を絶やさない佐川香苗に命じると、ボヤーとした表情を見せた後にニッコリ笑い頷いた。

　「あの子じゃない？今度、加藤さんの担当になるの・・・」

　「加藤さんは人気作家だし、アリバイもあるって聞いてるし・・・それに被害者は男性ばかりでしょ？ボヤーとしてるけど、大丈夫かしら？」

もちろん出版社の男女問わず噂されているが、本人も自覚しており顔には出ていないが心臓が口から飛び出そうなくらい緊張していた。

　『落ち着け私！ようやく田舎から出てきたばかりじゃない！』

丁度その日に原稿が上がるという事で、編集長から加藤冴子の家に向かってほしいと命令が下り佐川は、住所の書かれた紙を見ながら家に向かった。
　しかし迷ってしまい、辺りも暗くなってきており半分泣きそうになりながら歩いていると、背後から羽交い絞めにされ口を塞がれ両手を後ろで掴まれた。もちろん佐川はパニックに陥り、殺されると覚悟までしたが、後ろからの声と共に羽交い絞めにしていた男の体が地面に倒れこんだ。
　長い黒髪をなびかせ、妖艶な鋭い瞳、真っ赤な唇、赤い瞳の女性だった。バックに浮かんでいる満月の光が幻想的に見えた。彼女は男を担ぎ上げると男を背負ってるとは思えないほどに飛び上がって月夜に消えていった。

　「なんだったの・・・？」




その十分後、ようやく住所と合致した場所につき、力尽きそうになった彼女がインターホンを鳴らそうとする前に扉がガチャリと開いた。現れた女性はボサボサの髪で黒縁眼鏡の自分よりも田舎娘と言った印象だった。

　「あれ？新しい担当さん？遅いから迎えに行こうと思ってたの」

良く見るとパジャマとジーパン、靴もバラバラので出ようとしていたらしい。

　「あの・・・佐川香苗です！遅くなって申し訳ございません！あと、その姿で外に出るのは・・・」

　「え？へ？あぁ！私ったら！あはは、よくあることなの」

よくあるのか、と言うより印象が違い過ぎて少し警戒心だけは取れた。家に入れられると普通の一軒家で必要なものしか置いておらず、人気作家と思えないくらい平凡だった。そして、遅れた理由と先ほどあった襲われかけ女性に助けられたということを言うと

　「え？大丈夫！？ケガとかない？この辺、多いんだって！時間が夕方になるなら、次の日でも良いからね！」

　「あ、はい。ありがとうございます」

　「じゃぁ、これ原稿ね。もぉ今日は遅いし泊って行って。そういえば前の担当さんの人と交代したの？なんだか毎回変わるんだけど？」

噂を知らないのか加藤は問いかけて来るが、本人を目の前に言えるわけがなく本当は泊まることさえ躊躇しているが、先ほどみたいに変質者に襲われたくないが、助けてくれた女性にお礼は言いたい。

　「私は今年に入社したので、判りませんが人気作家の加藤先生の担当になれて光栄です」

　「やめてよー、私なんて全然だよー？ていうかお泊り会みたいで楽しくしましょ、お酒の方はいける口？」

　「あ、たしなむ程度ですが」

　「私はとことん飲むわよー！原稿明けの酒がたまらなく旨い！！」

佐川は、彼女から悪意も何も感じず、むしろ女友達の様に感じていた。