不死の王様は一人ぼっち

嵯乃恭介

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三章

狼男と血吸いの鬼

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布切れで身体は見えないのが好都合だ。
だが、中世的な顔立ちは、どちらなのか判らないくらいだ。

「喋ってる場合やないでー」

ドゴン

狼男が小屋の壁に叩きつけられ、壁を破壊し外に追い出された。
加賀見も行こうとするが、力が入らないらしい。
私は嫌がる加賀見を腰で担いで、二人の後を追った。

「離せ!!ちくしょう!!」

「あとでいくらでも怒られてあげるから、お兄さんの敵討ちしたいんだろう?」

「妖魔に退治されるくらいなら、玉砕覚悟で突っ込んでやる!!」

ピタリと私は足を止めて加賀見を投げ捨てるように投げ落とした。
加賀見の瞳は殺意に満ちている。
先ほどの発言が私が忘れかけていた感情に触れたのか判らないが、とても気に入らない。
人間としては正しい。
だが、それによって死人が喜ぶかと何度か説教されている者がいた。
私の親しい人間も、その部類に入っていた。

「じゃぁ、私と交戦するかね?妖魔だ。血を吸う妖魔だ。加賀見君の力じゃぁ何もできないだろうけど、私には君を切り刻み、その生き血を全部飲み込んでしまうくらいのな。だが、しかしだ。お兄さんは、そんなことを望んでは居ないだろう?君が立派に陰陽師として覚醒するのを待っているはずだ」

「兄は死んだ!!俺は仇を取るんだ!!」

私は至近距離で加賀見の顔を覗き込む。
きっと私の瞳は真っ赤に染まっているだろう。

「君は判っていない。先立たれた者の意思を。私は千年間、人間との【約束】のために生き続けているが、人間の血を吸っていない。【約束】は、別に生き血を吸わないというものではない。その人間は、見つけてほしいと言ったんだ。輪廻の輪を回ってくる自分を見つけてほしいとね」

「妖魔と・・・?」

信じられないという顔で私を見た加賀見は、空気の抜けた風船のように空気がぬけたのか、その場に倒れこんだ。
その間にも、子供だった血吸いの子供だった者と狼男のじゃれあいは続いている。
山の所々で木が折れる音が響いている。
どうやら、拾ってきた子供だった者が劣勢のようだ。

「君は君の考えを出してから動くと良い。私はこれからも彼女を探すだけの存在だ。さきほどの子供だった者にも言い聞かせるつもりだよ」

そういって、木の上に跳躍した。
加賀見は一人残されて、腕で目を覆い、涙を流す。



「終いだよ!!」

「いややー!お前の血のむんやー」

おっと、劣勢だと思っていたが、意外にも遊んでいるように見える。
まぁお互いにあちこち血を流しているのが判る。

「おーい、手助け居るかー?」

子供だった者に声を掛ける。
子供だった者は、楽しそうに笑っているが、少しだけ疲れているようだ。
ここはバトンタッチかな?
生まれて、血を初めて吸ったばかりのヒヨッコに過ぎないのだから。
まだまだ手助けは必要だろう。
人間相手なら血を吸いながらの戦いに慣れていくだろうが、いきなり同じ妖魔が相手となれば消費も激しい。

ふと思った。
まぁそれを実行するのは、後でも良いだろうと、狼男の頭めがけて飛び蹴りをくらわせた。
狼男は、キャイン!と可愛らしい声で地面を滑って転がっていった。

「子供じゃぁ呼びにくいから、仮の名前でも考えておきなさい」

「仮の名前?」

ポンポンと頭を撫でて、狼男が転がったほうに跳躍しながら追いかけることにする。
いつまでも子供じゃぁ呼びづらいし、私のように勝手に名前を出すことはないだろうしね。
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