Paso royale

夏油いずも

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ヴェニーズワルツ

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アメリカのMIC。

世界的なチャンピオンシップ。

今から僕らが踊るのは、2人の出会いのきっかけにもなったパソ・ドブレ。

アメリカではジェンダーに囚われず男性ペアでも出場権が得られる。

あの後直ぐに父親たちに談判して、米国に新たな開発部門を設立することを宣言して僕らは2人で渡米した。

新部門の会社代表は僕。補佐役には拓を。

父親たちは僕らが互いに潰し合うことを期待していて生き残った方を本社の跡継ぎにしようと画策しているらしいけど、そんな馬鹿げた茶番に付き合う必要なんて僕らにはないんだ。

寧ろ、父親たちの方が僕らに乗っ取られないように気をつけた方がいいのにね。

まるで滑稽な喜劇だよ。拓は気をつけろって言うけれど、そこはお前が抜かりなく手を打ってくれているんだろう?

「どうした、顕人兄さん」
「ふふ。お前は今日も可愛いなぁって」

こんな時に冗談は止めてくれ、なんて赤面しながら言われても説得力皆無だよ、ひらく。

競技が始まる。

拓が着るパソボレロは、黒いラメ入りの生地に錦糸で刺繍が施され、右肩からはあの時と同じタッセルが揺れる。

でもこれ、パンツがぴっちりし過ぎていてラインが服の上から分かるんだけど。

僕以外の誰かにこんなに艶かしいおとうとを見せるのは少し妬けるかな。

対する僕の衣装は、燕尾服にラテンの要素を取り入れて、上着が透けて見える斬新なデザインだった。

何もペアだからって同じ衣装を着なければいけないわけでもないしね。

拓のパソ・ドブレは、最初に見た時よりも更に情欲や熱情を絡ませ表情が豊かになった。


時に切なく、時に甘く。恋を知りたての乙女のように、儚げに笑い僕を誘う。

リードしながらあらぬ所に手を出すけれど、誰に見られようと関係ない。僕らが見ているのは互いのみ。

ファイナリストを呼び上げる声の中に、僕たちの名前が出たような気もしたような。

だけどそんなのはお構い無しに、人前で拓に口付けた。

ねえ、これからもずっと。

お前と一緒なら、どこまでも僕は堕ちていけるよ……────。
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