Paso royale

夏油いずも

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パソドブレ

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HTIカップのパソ・ドブレ、Aクラスの競技中。薄茶色の髪を揺らして踊る【そのこ】に、思わず目が奪われた。


漆黒のパソボレロは金の刺繍で彩られ、両肩からこれまた煌びやかなゴールドのタッセルが跳ねて踊る。その表情は硬く、まだ蕾のような初々しさが残る表情だけれど凛として前を向く様が初夏の風のように心を擽る。情熱的なステップ。相手の女はパッとしない美人。パッとしない美人ってなんだって自分でも思うけど、あのこから多彩な表情を引き出せてないじゃない。

きっとあのこが色恋を表現したら、もっと艶めかしく踊れるはず。あのこに色気が増したら、一体どんな表情を魅せてくれるんだろう?

まあ、あのこの相手があの女じゃそれは無理な話しだよねぇ。だって女の方は熱視線をあのこに送っているけど、あのこの方は演技に夢中で、相手に対する愛しさとか慈しみとかそんな感情が流れてきていないもの。それは僕の相手も同じ。僕だってこんな女にそんな目を向けたくないし?

会場の皆がマタドールとカポーテをイメージした衣装を着ているのに何故かそのこだけに目が釘付けになってる。パソ・ドブレを踊る男女の関係を言い表すならば、戦い。女は時に闘牛となり剣となる。男はそれを抑えるリーダー。

……それなのに何あれ、あのことあの女では、全く釣り合っていない。

自分も競技の最中だと言うのに気もそぞろで自分の相手のことは眼中になかった。どうせ1回2回寝ただけの軽い関係。周りに言われて仕方なく組んでいる相手。大体、日本の社交ダンス界って女性ダンサーが余ってるから男性ダンサーは必ず女性とペアを組むべし、ってこれ絶対どこかの団体が圧力かけた結果でしょ。鬱陶しいなあ。諸外国ではそんな垣根が払われつつあるのに可笑しいね。

プロムナードクローズからスパニッシュラインの第3ハイライト全てを踊り終えるまで、とうとうそのこから目が離せなかった。


うーん、どうしようね。あのこのことを知りたい、もっと。他の誰よりもよく知りたい。

「ねえ、聞いてる?」

塗りたくった赤い紅がその実を開く。ほんと、鬱陶しいなあ。なんならその揺れるドレスも高いピンヒールも全てが気持ち悪くて仕方がない。聞いてるかって?聞いてるわけないでしょ。たかが数回同衾したぐらいで僕の女面するのは止めてくれないかなぁ?

「ねえ、この後いつものスカイラウンジに行かない?」
「……ごめんね、今日はそんな気分じゃないんだ」

ライトアップされた都内ツリーと夜景を見下ろせるいつものBAR。生憎今日はそんな下らない逢瀬を重ねるより、あのこと一緒にいたい。あれ、おかしいね?僕はノーマルだと思ってたんだけど、あのこをさっきみつけてからどうしてもあのこが僕の隣で笑ってくれている予想図しか浮かんでこないや。

「うん、今日は用事があるからまた今度ね」
「え?あ、ちょっと!?」

引き止める女の腕を振り払って、競技を終えたあのこの元に近づき肩を叩く。驚いた顔で振り返るそのこの瞳はあまりにもつぶらで純粋で。穢れを知らない無垢な君。きっと、僕より少し年下なんだろう。もしかしたら男女のそういう感情にも疎いタイプなのかも知れない。

そのこに向けてにこりと笑い、警戒心を抱かせないようにゆっくりと近づいてみる。良かった、不信感は持たれなかったみたいだね。

「あの…。何か?」

相手の質問も尤もだ。だって全く知らない相手からいきなり肩を叩かれたんだもの。普通に吃驚するよね。

「うん、君のパソがすごく良くてついつい見てたんだよね。それで、この後リーダー役についてお話ししたいんだけど、いいかな?近くのライブバーで」

よくもまあ口からべらべらと嘘八百並べられるよね、自分。でもこのこの踊りが僕を魅了したのは紛れもない事実。さて、このこはどうするのかな?

「本当ですか!?いや…実は俺も、貴方のスローフォックスを見て素晴らしいと見惚れていたんです。特にリバースターンが優雅で……。よろしければ、是非貴方の手や足の動きを参考にさせていただきたいのですが」

おお、これは千載一遇のチャンスってやつじゃないかな?

「あら!ねえ、今日はこっちのペアと一緒にって事だったのね?」

不意に僕のパートナーが会話に割り込んできた。なんなの、もう。不愉快で仕方がないんだけど。

「あの、では皆さんでご一緒しませんか?」

そのこのパートナーも空気を読まずそんな発言をする。ねえ、僕はこのこと2人きりで話しがしたいしなんならお酒なんかも飲みたいの。邪魔して欲しくないんだけど。どうしてこうも女って生き物は執念深くて面倒くさいんだろう。強いパルファンの香りにすら吐き気を催すほど嫌悪感が湧き上がっていく。ねえ君たちはどこかに消えて?

僕はそう念じたのにそのこはあっさり「成程、皆で勉強会というわけか」なんて言って同伴を許可してしまった。

ああ、面白くない。

ライブバーに至る道中、僕はずっとそのこの隣を陣取って女たちを無視し続けたし、その子に対しても女たちが口出しをする隙を与えなかった。だって腹が立つじゃない。厚かましく着いてきて我が物顔で会話でマウントをとるなんて全くこれだから鼻持ちならないったら。女王のようなその態度も、僕から見ればまるで童話に出てくる継母とか魔女とかそんな悪どい人相にしか見えないし。

世間一般では美人と言われる部類らしいけど、今の僕にはどうでもいい虫けら以下の存在だ。


それより気になるのはこのこの存在。


店に着いてからもお酒を急ピッチで飲みながらダンスについて女どもと熱論を交わしているけど、そろそろ僕の方を見てくれないかな?僕だけを、見てくれないかな?僕もお酒だけに頼ってる場合じゃないっていうのに。

「……そうか、顕人(けんと)さんにはベースにバレエという要素があったんですね。道理で指先まで優雅に表現出来るはずだ」
「そうだね。ねえ、1度踊ってみない?君と、僕とで」
「は!?男性同士で、ですか……!?」

驚いたのはそのこだけじゃなくて。着いてきた女どもも目を丸くして馬鹿面を下げていた。

「ねえ…。知ってると思うけど、男性同士のペアは日本では許可されていないのよ?ダンスホールでそんなことしたら、追い出されちゃうじゃない」
「もういいから黙りなよ?僕が本気で怒る前に」
「えっ……?」

察しも悪いの、この女。確かにダンスホールで男性ペアが踊ったら追い出されるけど、ここはライブバーだ。そのために…このこと踊りたいためにわざわざフリーで踊れるここに来たのに、のこのこ着いてきて何を言ってるの?

女は無視してそのこに向き直る。うん、もう雑念は無視しちゃおうね。

「ねえ、君はどの種目が得意なんだい?」
「あ…?俺ですか?俺はクイックステップが得意だな。小さい頃はヒップホップを習っていたからか、どうにも社交ダンスのカウントの取り方が未熟なんですが、その点クイックステップは割と音が拾いやすくて」
「そっかあ。確かにね。ヒップホップは音に合わせて踊りを覚えて動くけど、社交ダンスはカウントで動くからね。まず、試しにやってみよう?クイックステップでいいかい?」
「だが、貴方に合わせられるか……」

大丈夫。僕ならきっと君に合わせられる。僕ならきっと、このこの表情をもっと引き出してあげられる。そうするためにはまず……まず、やらなきゃいけないことが、あるよね?

「曲は 〘I'm So Excited〙で、いいかな?」
「ああ、得意な曲です」
「じゃあ、始めようか」

フロアマネージャーに支持してホールを空けてもらい、スタンバイ。

予備歩から互いに纒わり付く視線。こちらを探るような、力量を推し量るようなこのこの視線を、熱のこもった眼差しに変えてみたいね。

ナチュラルターンからルンバクロスを2回。このこのステップはなるほど軽快で、種々の足技は確かに跳ねるように軽やかなリズムを踏む。ヒップホップで鍛えたらしい足技と上半身の動きはダイナミックで力強いし何より華がある。ダブルリバーススピンからクロススイブルへと繋いでフィッシュテイル。

うん、僕ならこのこについていけるしダンスの方向性が違う環境がベースにあるからか、表現力も多彩になるね。静の部分は僕が。動の部分はこのこが。興に乗ってきたのか、そのこが挑発的な指先で僕の顎を擽った。

まんまとノせられた僕は、強引に手を取りそのこを抱き寄せまるで押し倒すかのように互いの上半身を傾げた後交わるように足を搦めてステップを踏む。ランニングフィニッシュを演じ切る前に、ホール内には拍手と囃し立てる口笛の音が曲の音をかき消していた。

「ねえ、どうだった?」
このこの耳に届くよう、耳元に小声で囁けば。
「ダンス自体はヒップホップも含めて長くやってきたが、なんというか……こんなのは、初めて、で……」

そんなことを言って、そのこは恥じらいを見せて俯いた。なにこのこ。本当に可愛いんだけど。
どうしよう。このこがほしい。心も……勿論体も。

「近くのホテルに部屋を取ってあるんだけど。……僕、もっと君のことを知りたいな……?」
うっそりと笑って手のひらを差し伸べそのこを誘う。

さて、どう出るか。

「俺の名前は、拓(ひらく)…です」

頼りな気な瞳で、僕を見上げるそのこの瞳が潤んでいるのが堪らなく扇情的で身体中が熱くなる。差し伸べられた掌の上に、おずおずと乗せられた冷たい右手。

こんなに誰かに執着したことなんて、今までになかった。



何を棄ててもいい。

僕は、このこがほしい。



予約していたインペリアルフロアのスイートルームは、日々の喧騒から離れて下界を見下ろす謂わば異空間のようだと思うよ。夜景と一緒に、遠く離れた雪山が暗闇の中浮かび上がっているね。

元々はどうせ一夜限りの女でも連れ込んでよろしくやろうと思って予約していた部屋だけど、そんなことに使わなくて良かった。大きな1枚板のガラスに映るのは僕と……拓。

緊張した面持ちで所在なさげに立ち尽くす拓を振り返り、笑顔でベッドへと誘った。

「れ…冷静になってみたら、その、何故こんな事態になっているのか混乱しているの……ですが……」

おお、少し声が上擦っているところも、初々しくて可愛いね。でも、このこ男性との経験って無さそうだけど、女との経験ってあるのかな?僕は取っかえ引っ変えしてたからこのこを責めるのはお門違いかもしれないけど、それでもね?なんでだろう、そこに思考が行き着くと無性に面白くないんだよね。このこの全ての初めては、僕が貰いたいんだってば。

「こういう時はね、黙って目を瞑るんだよ」

拓の耳元で甘く囁く。漏れる吐息は熱くて、このこをこのまま溶かしてしまえばいい。

僕の言う通りに従順に目を瞑り、微かに震える拓を見たらもう理性なんて吹っ飛んでしまった。

初歩のプレッシャーキスから難易度を上げて、カクテルキスまで長く口付ける。お互いの吐息と唾液が混じり合い、淫靡な水音が広い室内に響く。

脳内まで溶かされそうなその音に益々気分は盛り上がっていく。拓の胸ボタンを焦らすようにゆっくり外し、右の乳腺の小さな隆起に吸い付いた。左手では左側の隆起を強く弱く抓りこのこが感じるように弾いたりもしてみる。次第にそこはピンク色に染まり、形良く立ち上がっている。拓は声を出すまいとしてか、手の甲を口元に当てて声を押し殺していた。

「んう……う…」
「だめだよ、ちゃんと声に出して教えて?ここがいいの?」

拓の顔から手を外して抑え、押し倒したら下半身の着衣を一つ一つ取り払っていく。

「だめ、だ…!やめて……っ」
「今更それは無し、だよ?大丈夫、ちゃんと気持ちよくしてあげるから…ね?」
「うぅぅ……」

耳元で更に優しく言葉を紡いでやれば、観念したのか拓は体をされるがまま僕の手に大人しく委ねてきた。そうそう、いいこだね。

脱がせた下着から陰茎を取り出して若干強く手で扱けば、「ん……んぅっ」と、泣きそうな声を漏らした。女に扱かれるのと男が扱くことでは、強さが違って男の方に扱かれるのが気持ちいいって、そういえば昔LGBTだった知り合いが好物の茶を飲みながら言ってたっけ? 女が扱くと握る強さが弱いんだって。見れば屹立した逸物からは既に先走り汁がぽつぽつと零れ始めてる。うん、もっと気持ちよくしてあげようね。

「ねえ、君はこういう事してくれる相手の女って、いるの……?」
人肌に温めたローションを下半身に塗りつけてやると、びくりと体が跳ねた。特に菊門の辺りを念入りに撫で、前の陰茎も扱く手を緩めない。
「女だったら…何人か……」
「そう?男は?」

そんな男がいたら全く嫌なんだけど。

「お……おとことは……っない……っ!」
「そっかぁ。じゃあ、君の初めては、全部僕が貰うよ?」

なにそれこのこ処女なの?それ最高だね。僕と踊った時はあんなに魅惑的に踊っていたのに?場馴れしていないというか、そのギャップからしてもう悶えそうになるよ。

菊門周りを入念にマッサージして、ゴムを着けた指で入口付近を柔らかく解す。拓から漏れる喘ぎ声が甘く蕩けそうなものに変わりつつある。そうだよ、君を変えるのは僕。ねえ、体で覚えてね?会陰から菊門にかけてマッサージをしながら少しずつ指を中に入れていく。

「……痛い?」
「いや……あ…っ、まえ……そんなに、弄らない、……で」
「どうして?」
「イく……あ…っ、だめだ、やめて……やめ……ああ……っ」

びくりと体を仰け反らせて、拓は陽物から白い飛沫を飛ばした。粘り気のある白濁液は、僕の衣服に付着して垂れて零れていく。青臭いその匂いにも興奮する。ほんと、おかしいよね。だって自分は今までノーマルだったし、男に興味を持ったこともなかったんだけど。

セックスって言ったら精々性欲処理に女を使って気持ちよくなれればいいや、なんて下衆なことしか考えてなかったのに。



このこと一緒になら、どこまでも堕ちてみたい。



中にいれた指を第2関節まで伸ばして更に奥へと侵入する。ええと、どこだっけ?神経終末がある前立腺は……。

「ひっ……?」
「ああ、ここかな?」

探し当てた胡桃大のそこを重点的に攻め小刻みに動かし内壁を優しく抉るように撫でると、拓の嬌声が一段と甘くなった。

「あ……そこ、だめだ…。いや、だ……や……っ」
「駄目でも嫌でもないでしょ?本当は、どうなの?」 
「気持ち、良すぎて……っ、変に、なる……!」
「ちゃんと外ではイけたからね。今度は中でイってごらん?」
「やだ、や……!」

幼子のようにふるふると首を振るそのこが、どうしようもなく愛おしくて。

指が自由に出入りできるぐらいに緩急をつけて解す。暫くそれを続けていると、やがて拓の体が再びびくびくと痙攣しだした。

「あ………あああっ……なん、だ、これ……っ。やだ、やめ……!」
「止めないよ?いいよ、そのまままたイけるかな?」
「イく……?あ……っ、だめ、や……あああああ……ぁぁぁっ!」

目を虚ろにさせて涙を流しながら僕が齎した快楽に溺れるこのこは、本当に淫靡でどんな女より僕を惑わせる。初めての中イキも僕が奪ってしまったね。こんな充足感は他では得ることなんてできないし、堪らないでしょ。クセになりそう。

舌なめずりをしながら正常位で少しずつイったばかりの中に僕自身を入れていく。ああ、確かにこれは気持ちいいね。締りが良すぎてすぐに持っていかれそうだよ。

「そこ……、責める、のは……っ、もう止めて、くれ……!」

僕自身で前立腺を攻めれば、啜り泣きをしながら拓が懇願してきた。ああ、ごめんね?攻め方が足りなかったかな。疎かになっていた胸の突起に噛み付いたら、「んぅ……っ!」と拓が鳴いて締まりも良くなった。ああ、これだめかも。早漏なんて言われたことないのに、このこの中では長く持ちそうにないかな。

しかも喘がされて嬌声をあげるこのこがまた、淫らに腰をくねらせて絡みつく襞で僕を離そうとしないんだもの。長い足を僕の腰に絡ませて誘う様が僕をさらに煽る。見上げる視線には物欲しそうな情欲が混じりつつある。

ほら、ね。このこが色欲を持ったらとんでもないカルメンになるって、そう思っていたんだよ?とてもいいね、その表情。やっぱり君にそんな顔をさせられるのは、僕しかいないんだって実感したよ。

「ねえ……っ、本当に君、……初めてとは思えないくらい……イイよね……っ?」
「知ら……ん!やめ、あああ……っ、また、やだ……や……っ………あ、ああああっ……!」
「ああ……、僕も、もう……っ………んん……ぅっ!」

お互いに荒い息遣いを絡ませてキスをする。
いつもだったら遠慮なく中に放出したら残るのは虚無感だけだったのに、今は手に余るぐらいの充足感に満たされている。その後も何回も交わり、その都度僕は徐々に満たされていった。

拓自身も流されたのか諦めたのか、次第に僕を受け入れ、そして、もっと、と、呂律の回らない口で強欲に僕を強請ってきていて、乱れる様が更に僕を煽る。体の相性も良いなんてね。
ああ、きっとこのこじゃなきゃ、駄目だったんだ。

拓。

僕のただ一つの真。

その体を抱き寄せて、僕の腕の中に閉じ込める。
どこにも、逃がさないように。
僕自身が初めて出会った、真の片割れ。
それが、お前、なんだね……。





窓から注ぐ白い日差しで目が覚めた。腕枕をして一緒に寝ていたはずなのに、そこにはもう可愛いあのこの姿はなくて。シャワーかな、なんて呑気に考えてる僕の目に止まったのはサイドテーブルに置かれた、1枚のメモ用紙。
『忘れてくれ』

そう書き残して、あのこは消えた。



忘れてくれ、なんてメモ1枚で。逃がすわけ、ないじゃない?


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