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番外

知らぬが

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 ミフムがその精霊と出会ったのは、6歳の時だった。

 天真爛漫な少女はその日、ふと思い立って探検に出かけた。

 探検、と言っても何のことはない。
 普段は立ち寄らない場所に行ってみるという、ただそれだけのものだ。

 建物の間を縫うように走る細道。
 ずっと主がいないままになっている空き家。
 いつもお使いに行く店の裏手。

 彼女は町の中をあちこち巡り、最後に町はずれの林へと向かった。

 そこは特段、危険な場所というわけではない。
 が、「わざわざ行く用事が無い」というごく単純な理由で、人々が寄り付かない場所でもあった。

 故に人の手の入っていない林を、ミフムはわくわくしながら進んだ。
 この先に何か良いものがあると、多くの子どもがそうであるように、漠然とした期待を抱いていた。

 かくして、その期待に現実は応える。

 林の奥には澄んだ泉があり、泉の中央にはぼんやりとした人影が佇んでいた。

 その光景に、少女ミフムは息を呑む。
 得体の知れないものへの恐怖ではなく、美しいものを目にしたことによる感動で。

 実際、人影は輪郭や顔が曖昧ながらも、不思議と美しさを保っていた。
 物言わぬその神秘的な魅力が、ミフムの心を捕らえたのだ。

 彼女はそっと人影に近付く。
 その時には既に、これが話に聞く「精霊」だと直感的に気付いていた。

 泉に佇む精霊はまともに自我を持っていないらしかったが、何かをごく小さい声で呟いていた。
 好奇心に満ちたミフムは、精霊の言葉をすぐさま紙に書き留める。

 一か所だけ聞き取れる単語があったが、あとはまったく意味のわからない言葉だった。
 けれどミフムは、そんなことはどうでもよかった。

 滅びたと思われていた精霊の話した言葉だというだけで、どんな高価な本、どんな宝よりも素晴らしいものに感じられたのである。

 この日を境に、ミフムは足繫く泉に通うようになり、同時に魔法の勉強にも力を入れ始めた。

 目的はもちろん、精霊の言葉を解読することと、精霊の自我を取り戻させること。
 まあ結局、どちらも叶うことはなかったのだが。

 無邪気な少女と、精霊の残骸の邂逅。
 通常ならば「ちょっとした話」で済まされるような出来事。

 しかしながら、この出会いは未来に多くをもたらした。

 例えば、泉に通るミフムを魔王の配下が見かけ、後を付けたことで精霊を発見したり。

 例えば、ミフムが魔法の道に進んだことで、魔王の部下となったり。
 実力が認められて、人間界侵攻にも参加することになったり。

 彼女の行動は、巡り巡ってひとの命を救うことにも、ひとの命を奪うことにもなった。

 だが当の本人は、それらのことを半分ほども知らない。
 知らないけれど、きっとその方が良いだろう。

 全ては過ぎたことであるし、彼女に直接的な責任は無い。
 であれば、知らぬが花なのである。
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