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第6章 その先で待つもの

激突

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「っしゃ! さっそく『道』を作るぜ!」

 先頭を走るウラハが、固く閉ざされた城壁の門をぶち破る。
 鳴り響く破壊音、次いでもうもうと土煙が立ち込めた。

「すごーい! 一撃だ!」

 バサークが無邪気に称賛の声を投げかける。

 でもこれじゃちょっと前が見にくいな……と、思ったら。

「浅葱」

 そんな声と共に、ウラハの少し後ろを走るジギの髪がざわりと動く。
 するとどこからともなく風が吹き、あっと言う間に土煙をさらっていった。

「ん? 今の何だ? 魔法?」

 振り向いて、ウラハが問う。

「辻なり」

「? ま、いっか!」

 さしもの彼も、やはりジギの言葉はわからなかったようだ。
 あっけらかんと追及を放棄し、彼は前に向き直る。

 明瞭になった眼前の光景、その奥には黒い影がうごめいていた。
 影の兵士たちだ。

 俺たちが前に城下で戦った時よりも、見るからに数が増えている。

「ウラハ、ジギ! 倒すのは大雑把で良い、とにかく止まらずに斬り込んで行ってくれ!」

「合点!」

「貫徹」

 ゼンの指示に従い、2人はさらに速度を上げて影の兵士の群れに突っ込んで行く。

 と同時に、左右それぞれの少し離れたところから爆発音が聞こえて来て、反射的に辺りを見回した。

 門がある位置から、煙が立ち昇っている。
 どうやら両脇の部隊も城下に突入できたらしい。

 視線を前に戻す。

 少し離れたところでジギが黒く巨大な蛇のようなものを出して、影の兵士たちを次々と呑み込んでいた。
 おそらくウラハはジギの前方にいるのだろう、姿は見えないが時おり兵士が吹き飛ばされて消えていくのが見える。

 2人が強いのもそうだろうが見た感じ、やはり影の兵士はそこまで力を持っていないようだ。

 が、その質を補うほどに量が多く、3分の1ほどはウラハたちの攻撃をかいくぐって来る。

「ごめん、どいてね」

 俺は剣を構え、前から左右から迫る影を切り伏せていく。

 1体、2体、3体――と剣を振るっていると、後ろから幾本もの光のすじが飛来し俺と対峙していた兵士たちを貫いた。

「応戦するのは良いけど、ちゃんと加減してよね。魔王と戦う時にバテてちゃ意味ないでしょ」

 義足の調子を確かめるようにつま先をとんとん、としながらナオが苦言を呈する。

「そうですわ。雑魚共は私たちにお任せくださいませ」

 言って、デレーはパチッと片目を閉じつつ可憐に微笑み、くるっと回って斧を背後の兵士に叩き付けた。

 俺としてはみんなの手を煩わせる前にできる限り敵を掃いたいけれど、ナオたちの言うことにも一理ある。
 万が一にも、俺は魔王に負けられない。

「わかった、ありがとう。ちょっと抑えめにするね」

 飛びかかって来た兵士を真っ二つにして、俺は答えた。

 なおも進軍は止まらない。
 炎が地を這い、氷の柱が乱立し、間を縫うように得物がひらめいては敵を蹴散らす。

 怖いくらいに順調だ。
 俺は攻撃を控えめにしつつ、代わりに周囲へ気を配る。

 デレーとヒトギラは常に俺のすぐ近くで戦っている。
 アクィラも時おり、斧から姿を現してはデレーの背後の敵を弾き飛ばしているみたいだ。

 前方やや右ではバサークが、やや左ではフワリがウラハたちの取りこぼしを処理している。
 バサークはいつものように自由奔放に飛び回っており、フワリの方も相手の攻撃を躱しながら上手く立ち回っている様子だ。

 首を捻って、後方を見やる。

 エラが作った足場を飛び移り、絶え間なく矢を放つナオ。
 その傍らには、強化魔法等で支援をしているであろうトキもいた。

 前衛と後衛の間で指示を出すゼンの方へも視線をやる。
 直前まで駆け回っていたせいか、この距離からでも若干の疲弊が見て取れた。

 俺は背後に意識を割いたまま、再び周囲を見渡す。

 影の兵士たちの攻撃は無差別的だ。
 特に統率もとれておらず、手当たり次第に襲い掛かっている。

 しかしそれは「今のところは」の話である。
 仮に魔王が今この場を監視しているのなら、おそらく……。

 剣を握り直し、俺はほどほどの力で兵士を斬り捨てる。

 俺は、誰ひとりとして失いはしない。
 魔王が何をして来ようが、正面から返り討ちにしてやる。


 魔王城まで、半分ほど距離を詰めただろうか。

「んもう、ほんとどれだけいるのよこいつら!」

「ふふ、私はまだ余裕ですわよ」

 もう何体目かわからない兵士をデレーらが叩き斬った。
 兵士は空気に溶けていくように霧散する。

「喋ってないで手を動かせ、手を」

「あなたよか動かしておりますわよ、ヒトギラさん」

 軽口をたたき合いながら、彼女らは次なる標的へと狙いを定める。

 が、次の瞬間、影の兵士たちの動きが一斉に停止した。

「あ、あら?」

 今にも飛びかからんとしていた者までもが静止し、俺たちは拍子抜けしてしまう。

「んわーー!」

 向こうの方では、バサークの悲鳴と共に何かの崩れる音がした。
 攻撃が外れ、そのまま勢い余って建物にでも突っ込んだのだろうか。

「いったい何が……」

 呟いてから、ふと気付く。

 魔王城の方から魔力が流れて来て、兵士たちに吸収されていっている。
 それも、全体にではなく、俺たちの周辺と進行方向にいる兵士たちにのみ。

 そうか、と俺は納得する。
 やはり、そう来たか。

「みんな、気を付けて! 魔王が兵士たちに強化魔法を――」

 言い終える前に、止まっていた兵士が再び動き始めた。

 俺は慌てて、目の前に来た1体の攻撃を受け止める。
 速度も力も段違いに跳ね上がっていた。

 魔力の出力を少し上げ、兵士を斬り払う。
 すると剣を振った後の隙を突き、後ろに控えていた兵士が間髪入れず迫って来た。

「っと」

 危うく体勢を崩しそうになるもこれを耐え、すぐに剣を翻して迎え撃つ。

 と、今度は同時に2体が斬りかかって来た。
 ならばと空いた左手から炎魔法を出して焼き払いつつ、俺は思考を回す。

 魔王が影の兵士を強化してきたのは予想の範疇だったが、これは想像以上だ。
 身体能力もそうだし、急に統率がとれ出している。

 ちら、と横に目をやると、ヒトギラたちも突然強くなった上に連携を取り始めた兵士たちに手を焼いていた。

 何体かを直接操ってくるかもしれないとは思っていたものの、まさかここまで大量の兵士を指揮して来るとは。
 ともすると、統率を取らせるための魔法式を編んだという場合も有り得る。

 もしかして、ここでもう決着を付けようとしているのか?

 いや、それは無い。
 そうであれば、これとは比にならない強化を施したのち、全ての兵士を俺にぶつけてくるはずだ。

 だとすれば、魔王の目的は俺の体力と魔力を先に消耗させておくことか、もしくは……。

「まずいな」

 いつの間にかすぐ隣に来ていたヒトギラが言う。

 彼の視線の先では、先頭のウラハとジギが強化された兵士たちに押されていた。

 このままでは兵士の群れを突破できないどころか、みんなの命も危なくなってくる。

 ナオたちには温存しろと言われたけれど、こうなっては致し方ない。
 俺が一気に、この厄介な兵士たちだけでも潰してしまおう。

 魔力を集中させ、俺は剣を構える。
 みんなには当たらないように、かつ、兵士は逃がさないように。

 息を吸い込み、止め、ぐっと全身に力を込めた。
 その時である。

「おら野郎共、死ぬ気で行けェ!」

「応っ!」

 荒っぽい少女の声、そして空気を震わせる大勢の声。

 放とうといていた魔力を引っ込め、声のした方、すなわち左を見る。
 そこには少女――リュキを先頭に据えた、魔族の大軍団がいた。

 爬虫類のような魔物に騎乗したリュキは、俺を認めると不敵に笑う。

「第2部隊、改め『友好会』連合! テメエらのために参上したぜ!」
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