上 下
108 / 209
第4章 魔族の住む世界

裏返しの愛情

しおりを挟む
 しばらくすると、リュキが戻って来た。
 少年は見当たらず、代わりに3人の男女がどやどやと入って来る。

「まったく、急に何なんですか。幹部が暇ではないことくらい……おや、知らない顔がいますね」

「またリュキが厄介事持ってきたんじゃねーの?」

「別にどーでもいいよ、うちに仇成すなら殺せばいいだけじゃん」

 彼らは口々に喋りながら、思い思いの席に座る。
 口ぶりからして、リュキの言っていた「他の幹部」のようだ。
 当のリュキはむすっとした顔のまま、室内で一番上等な椅子の、すぐ横のソファに腰を下ろした。

「リュキ、なぜこの者たちと私たちを引き合わせたのですか? 説明なさい」

 高圧的な態度で女性が言う。

「こいつらと協力関係を結ぶためだ」

「は? たかだか魔人4人なんかと?」

「4人じゃねえ。こいつらはレジスタンスだ。近々魔王と決戦をするってんで、俺らと共闘しねえかっつって来たんだよ」

「勝率は?」

「知らね。まあ俺の直感じゃあ、俺らが2倍いて5分5分だな」

「随分といい加減ですね。短慮もいいところです。さすが、数年間子どもじみたわがままを貫き通しているだけはありますね」

「……んだとテメエ、喧嘩売ってんのか?」

「ただの事実でしょうに、そう怒らないでくれます?」

 なんだかものすごく険悪な雰囲気だ。
 にもかかわらず、残る2人の青年が止める気などさらさら無さそうなところを見ると、いつものことなのだろうか。

「はあ……。話になりません。時間の無駄です、あなたたちも帰ってください。もしくはそれ相応の利益を提示することです」

「ふむ、利益か! ならそうだな……魔王を倒した暁には、オレたちがキミたちのボスを鍛えるというのは?」

「なるほど、ボスを――え?」

 女性がはたと言葉を止める。

「どうしてあなたがそれを?」

「あ」

 しまった、とゼンは目を泳がせた。

「まさか……」

 じろりと女性がリュキを見る。
 マズい、このままじゃリュキが口を滑らせたのがばれてしまう。

 するとそこで、デレーが口を開いた。

「あら、やっぱり何かありますのね」

 慌てる俺たちに反して、彼女はいつもの調子で言う。

「ボスが変わったというのは聞き及んでおりましたので、少々鎌をかけさせていただきましたわ。まさか的中するとは思いませんでしたけれど、あなた方のボスはそんなに頼りないんですの? それとも他に問題が?」

 さすがデレー! と俺は心の中で喝采を送った。
 女性は彼女の言葉を聞いて、リュキに対する疑いの目をやめる。

「そういうことでしたか。姑息な真似をしてくれますね」

「お褒めに預かり光栄ですわ。それで、私たちと手を組んではいただけませんこと? もし断られるなら、それでも構いませんが」

「一丁前に脅しですか? 『友好会』を舐めた者たちがどんな末路を辿ったのか、その身に教えてあげましょうか」

 バチバチと火花が散る。
 そこへ、片方の青年が「まあまあ」と割って入った。

「共同戦線、俺は良いと思うぜ? レジスタンスにこっちを裏切る利点はねえから、後ろから刺される心配がいらねえんだしよ。魔王をぶっ飛ばすのに参加すること自体、ボスにゃ良い刺激になるんじゃね? なあ、クーキヨ」

「どっちでもいーんじゃない。ま、少なくともレジスタンスは敵にはならないだろうね」

 クーキヨ、と呼ばれたもう一方の青年は投げやりに答える。
 その姿……というか目元? に既視感があるような気がするのだが、何だったろうか。

「ほらみろ、2人ともこう言ってるぜ。俺の判断は正しかったってことだ! 意地になってねえで認めろよ、レジスタンスと協力した方が良いってよ!」

 勝ち誇った様子でリュキは女性に言う。
 女性は何か言いたげに押し黙った後、「好きになさい!」と捨て台詞を吐いて部屋を出て行った。

「へっ、やってやったぜ。見たか? あいつ、顔真っ赤にしてやんの! デレーっつったけか、テメエもやるじゃねえか!」

 デレーの背中をバシバシと叩くリュキ。
 彼女を言い負かしたことがよほど嬉しいようだ。
 当初から目的が変わっている気がするけど、本人が楽しそうなのでここは流しておこう。

「でもいいのかな。あの人も幹部なんでしょ?」

「いーんだよ、ほっときゃそのうち戻ってくるさ。気になるってんなら見に行ってもいいけどよ」

 俺は少し迷い、しかしやはりそうすることにした。
 やっぱり仲間なんだから仲良くした方がいい。

 部外者の俺なんかが行っても……という思いもあるが、逆に第三者だからこそ、みたいなこともあるかもしれない。
 何より、今の俺は嫌われていないので、たぶん会話くらいはしてもらえる。

「あいつ……ヴィヌの部屋は階段上がって右、奥から2番目だ。あ、どんな感じでへこんでたか、後で聞かせろよな!」

 上機嫌のリュキに部屋の位置を教えてもらい、俺は廊下に出た。
 今度はベットさんが付いて来ることもなく、完全に1人である。

 交渉が成立して味方認定をしたとはいえ、会ったばかりの相手に拠点内を歩き回らせるなんて、少々不用心ではなかろうかと思ってしまう。

 いや、もしくはそうではなくて、クーキヨさんが言っていたように、「何かあれば殺すから大丈夫」という思考なのかもしれない。
 いずれにせよ、俺に悪事をはたらこうという意志は無いので関係ないのだが。

「階段を上がって右……」

 リュキに言われた通り、ヴィヌさんの部屋へと進む。
 ここの並びにある4つの扉はそれぞれの装飾にやや個性が出ており、幹部たちの私室らしいことが推し量れた。

 俺はその奥から2番目の扉の前に立つ。

「ふー……よし!」

 深呼吸をし、ノックをしようと手を伸ばした、その時。

「…………い……!」

 ふと、中から叫び声のようなものが聞こえてくることに気付いた。
 そんなに怒り狂っているのだろうか。

 もしそうなら、出直した方が得策かもしれない。
 そう考えた俺は悪いとは思いつつも、彼女の様子を少しだけ窺おうと扉の隙間から中を覗いた。

 するとどうだろう。

「かっ……くぁわっ……! もうっ可愛い! そしてカッコいい! 最高すぎる!!!」

 ヴィヌさんが、麺棒のごとくベッドの上で転がり回っていた。

 あまりに予想外の光景に、思考が停止する。

「『……んだとテメエ、喧嘩売ってんのか?』ですって! 売ってる売ってる~! あなたのカッコよくて可愛い怒り顔を見るために! 売りに売っていますとも! はー凄い、眼福加減が凄い! でもベットには妬いてしまいますね。いつもリュキさんの横にいられるなんて、羨ましい……妬ましい……。いえ、いいのですヴィヌ。私には私だけの特等席があるのですから! そう、犬猿の仲という特等席が!!! うふ、うふふふふふふ!」

 デレーばりの勢いで独り言を叫ぶヴィヌさんは、とても先ほどの冷徹な女性と同一人物に見えない。

 というか、とんでもない事実を知ってしまった。
 ここはあれだ、見なかったことにして引き返そう。
 みんなには「やっぱ無理そう」って言おう。

 ヴィヌさんに気付かれる前に――

「……誰かいるのですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】マギアアームド・ファンタジア

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。  高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。  待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。  王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...