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第3章 お尋ね者の冒険者パーティー

煽るなキケン

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「それで、ナオはどうして急に『勇者』の力に目覚めたの?」

「あんたの影響だよ、たぶん」

 そう言って、ナオはこれまでの経緯を語り出した。

――おれはカターさんたちと一緒に、あんたらを追いかけてたんだ。

 あの屋敷から飛び立った鉄巨人の行く先は、目撃情報からすぐに割り出せた。
 あんなデカブツ、目立つに決まってるからな。

 王族はすぐに騎士団を集めてここ、ジュネの街に向かわせようとした。
 けど竜人が「ジュネの街がこれ以上破壊されたらどうする!」ってごねたんだ。

 おれは竜人って言ったらそこの能天気のイメージがあるから、意外と頭が固いんだなあって驚いたよ。
 まあ、かたくなに人里に降りようとしない時点で十分固いか。

 王族が頑張って説得したけど、結局「騎士団は少数精鋭を送り込む」「竜人はジュネの街では戦わない」ってことになってさ。
 交渉してたせいで出発も遅れて、今日やっと第二領地に着いたってわけ。

 そんな時だよ、山の方から強い魔力を感じたのは。

 本当に突然だった。
 魔力を感じた瞬間、雷に打たれたみたいな衝撃が走ったんだ。

 気付いたらおれはなんかキラキラ光ってて、それで……頭が妙にすっきりしていた。
 ついさっきまで渦巻いてた、あんたらに対する敵意とか憎悪が嘘みたいに消えてて。

 しかも「ああ、おれ『勇者』だったんだ」って唐突に理解するしわけわかんなかった。
 今思えば、魔王の力に対抗して、『勇者』の力が目覚めたんだろうな。

 おれが急に光り出したもんだからカターさんたちも大騒ぎだよ。
 でもおれが『勇者』だって言ったら、すごい素直に納得してくれた。
 「貴様の才はそのためであったか」ってさ。

 ともあれ山の方で魔王の力が暴れてる……みたいな感じがしてたから、おれはカターさんに言って、先行して山に向かった。

 どうやって飛んでたかだって?
 知らない。
 意味わかんないくらい魔力が漲ってて、走ってたつもりがいつの間にか飛んでたんだよ。

 それはまあいいとして、おれはひとまず山の向こう目がけて光の矢を撃った。
 魔王の魔力を帯びた、大きな何かがあるって感じてたから、それを壊そうとしたんだ。

 その時はもう、フウツが魔王の力を悪用するような奴じゃないってわかってた。
 ならきっとアレは、力が勝手に暴れてるのか、暴走を引き起こしている原因かのどっちかだと思ってね。

 でも一撃ではただ倒れただけで、消えた感じは無かった。
 それでもう一発撃とうとしたら爆発が起きて、魔王の力が一気に小さくなったんだ。

 おれは安心したよ。
 矢で射られて倒れた隙に、あんたらが上手いこと消し飛ばしてくれたんだって。

 まああれだけの爆発を起こせるなら、おれが援護しなくてもよかった気がするけど。

 ……え?

 おれの矢、鉄巨人に当たったの?
 なんで?

 ほぼ全員気絶?
 鉄巨人はフウツが操縦してた……?
 じゃあ爆発は……。

 …………。
 うん、えっと、ごめん。

 あー、そこからはあんたらの見た通り。
 おれはやっとジュネの街に到着して、あんたらと接触して今に至るって感じ。

「……その、鉄巨人に関しては本当にごめん。目視できる距離まで近付くべきだった」

「俺が魔王の魔力使って操縦してたから、あの変なでっかいのと間違えちゃったんだよね? それじゃ仕方ないよ、気にしないで」

「全能感に振り回されるガキは厄介だな」

「ヒトギラやめて煽らないで」

 さっき嫌味を言われたことを根に持っているらしい。
 が、それにしても大人げないし、またいらぬ争いを生みそうなので止めておく。

「事情はわかったけど、ナオくんはこれからどうするつもり?」

 ひょこりとフワリが顔を出して言った。

「騎士団がじきに来るんでしょ? キミは騎士団を裏切るの?」

「裏切る……。ああ、そうなるかもしれない。おれは騎士団からあんたらを逃がすつもりだ。けど、おれがやるべきはそれだけじゃない。あんたらを逃がしたら、まずは――」

 にわかにナオが言葉を止め、サッと弓を構える。
 何事かと思ったのもつかの間、ナオは俺の背後に向けて素早く光の矢を飛ばし、一瞬遅れて「ぎゃっ!」と悲鳴がした。

「誰だか知らないけど、隠れてないで姿を現したらどう? じゃなきゃこのまま撃ち続けるよ!」

 ナオは茂みの方に声を飛ばす。
 騎士団、ではなさそうだ。
 もしそうならナオがこんな態度をとるはずがない。

 俺たちも各々武器をとり、あるいは構え、周囲を警戒する。
 ややあって、木々の影から出て来たのは……何人もの竜人だった。

「くそ、話と違うじゃないか」

 ナオが悔しそうにうめく。

 いつの間に来ていたのか、俺たちを取り囲むように並ぶ竜人たち。
 ざっと十数人はいるだろうか。

「あれ? ルシアンだ! やっほー、久しぶり!」

 中にはバサークの友であり、かつて俺を狙って襲撃してきた人物・ルシアンもいた。
 彼はバサークに緊張感の無い声をかけられ、「黙ってろ!」と顔を真っ赤にして怒る。

 その様子にざわつき、明らかに良くない感情を表情に出す他の竜人たち。
 また話がややこしく……と思っていると、デレーが俺の肩を叩いた。

「フウツさん、ここは私が」

「! わかった、お願い」

 どうやら得意の話術で、なんとか落ち着かせられないか試みてくれるらしい。
 トキの母親の時みたいに丸め込むことは難しいだろうが、話し合いには持ち込めるかもしれない。

 頑張れ、デレー!
 俺は心の中で声援を送り、その口が言葉を紡ぐのを見守る。

「まあまあまあ、竜人は卑怯な手がお好きなのですわね。それとも奇襲しか策らしい策をご存知ないのでして? 掟を妄信して人里に下りようとしないと、ろくに策も練られなくなるのですわね。馬鹿と鋏は使いようと言いますけれど、馬鹿を追い出したところを見るとやはりあなた方はその程度でいらっしゃるのでしょう。そもそもご自慢の『鋏』すらもったいぶって上手く扱えていないようですしね」

「めっちゃ煽るじゃん」

 ストレートに嫌味を言うばかりか、比喩まで使って煽りに煽るデレー。
 当然、竜人の皆さんはカンカンである。

「我ら竜人を侮辱するとはいい度胸だな!」

「『魔王の器』に与するばかりか俺たちを馬鹿にするなんて、恩知らずにもほどがある!」

「誰が魔物から守ってやったと思ってるんだ!」

 まさに非難轟々。
 しかしルシアンだけは「待て!」と仲間たちを諫める。

「落ち着け、お前たち。挑発に乗ってどうする。それより大きな問題があるだろう」

 彼はナオを指差す。

「見ろ、あれは『勇者』だ。『勇者』が『魔王の器』と仲良く一緒にいるとは、なんとも由々しき事態ではないか。いったいどういうことだ」

「どうもこうもないよ。フウツ、さんは人間の敵じゃない。おれはそれにやっと気付いたから、こうして彼と共にいるだけだ」

 ナオの言葉にまた竜人たちがざわめく。
 それはそうだ、魔王を打ち倒すはずの『勇者』が魔王の手先の肩を持つなんて、とんでもないことである。

「魔王の力に惑わされているのか……? 仕方ない、異端の娘同様、『勇者』も捕縛対象とする。いいな」

 ルシアンの言葉に竜人たちは頷く。
 ところで今気付いたが、この場にいる竜人たちはみんな若者ばかりだ。

 ナオの話だと竜人全体としてはジュネの街で戦わない方針らしいし、さてはルシアンを筆頭に若い竜人が勝手に行動しているのか。

 俺は思考を巡らせる。
 竜人が総出で来ているなら勝ち目は薄いが、これならあるいは……。
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