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第3章 お尋ね者の冒険者パーティー

魔法戦士

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 ナオが矢を射る。
 構えていた方向からして正面にいるエラめがけて飛ぶかと思われたそれは、しかし端の方でデレーに抱えられる俺に向かってきた。

「甘いですわ!」

 デレーは斧を盾代わりにしてそれを難なく防ぐ。

「どういうからくりかは知りませんが、随分と姑息な真似をしますのね。それが騎士のやり方ですの?」

「姑息なのはどっち? 動物なんかに姿を変えて……。けどおれの目は誤魔化せない。さっさと正体を現せよ、『魔王の器』」

 どうやら彼にはバレていたようだ。
 ならばもう狼の姿でいることに意味は無い。
 俺はデレーの腕から降り、エラに目配せをして魔法を解いてもらった。

「やっぱりね」

「……別に、好きで狼になってたわけじゃないんだけど。あと、少しくらい話を聞いてくれたりしない?」

「この後に及んで命乞い? おれはお前らと話すことなんて何も無いよ。それに――」

 ナオはまた矢を番え、ギリギリと力を込める。

「おれは人攫いが大っ嫌いなんだ!」

 矢が射られたのを合図に、騎士たちが一斉に斬りかかってきた。
 俺はまたもや奇妙な軌道で飛んで来た矢を弾き、向かってくる彼らに剣を構える。

「近寄るなゴミ共」

「まったく、血気盛んなことで」

 ヒトギラとトキが拘束魔法で数人の騎士を床に押さえつけた。
 それを見たカターさんは声を張り上げて指示を飛ばす。

「皆の者、奴らは魔王の力で強化されている! できるだけ奴から引き離せ、そうすればいくらかは弱まる!」

「なにそれ初耳なんだけど!?」

 つまり、俺の近くにいればいるほど能力が向上してるってことだろうか。
 魔王の力、何でもありだな……。
 でも言われてみれば、思い当たる節が無いでもない。

「わざわざ情報提供ありがとうございます! 皆さん、今だけはフウツさんに近付くことを許してさしあげますわ! 全力で無礼者を追い返しますわよ!」

「うん、もちろんだよ」

「思いっきり暴れちゃうもんね!」

 フワリとバサークが前に出、刃を躱しながら騎士たちをちぎっては投げちぎっては投げ。
 取りこぼしをエラや後衛の2人が魔法で仕留めていく。

 アクィラの憑いた斧をデレーが振り回し、あっという間に騎士団を蹴散らしてしまった。
 俺の出る幕が無い。

 残ったのはカターさんとナオのみだ。
 だがナオの方は、もう矢を使い尽くしている。

「魔王の力……これほどとは」

「カターさん」

 ナオがカターさんと目を合わせた。

「……わかった。周囲への損害は気にするな。全力を出すことを許可する」

「ありがとうございます」

 周りに被害が出るほどの全力?
 矢を失った【射手】が、いったい何をする気なのだろうか。
 剣を握り直し、俺はナオを注視する。

 彼は再び弓を構えた。
 矢が無いのに、あたかも有るかのような動作だ。

 するとどうだろう。
 どこからともなく光の粒が集まってきて、そのまま矢の形を成した。

 代替の矢を魔法で創ったらしい。
 でも、なぜ【射手】が魔法を使えるんだ?

「なるほど、そう来たか」

 エラがどこか悔しげに呟く。

「皆の者、えげつないのが来るぞい」

 直後、ナオが光の矢を放つ。
 矢は一直線に飛び――空中で分裂した。

「ちょ、ちょっとそんなのアリ!?」

 それも1つ2つではない。
 無数に分裂したそれは、まさしく雨のように飛来する。

「下がれ!」

「援護します!」

 トキの強化魔法を受けたヒトギラが障壁を展開させ、なんとか矢の雨をしのいだ。
 しかし息を吐く間も無く、次々と矢が射られる。

 一撃一撃は軽くないが、そう重くもない。
 だが絶え間なく何百何千と襲い来るそれは、確実に障壁を弱らせていく。
 そして……攻撃が止むのと、障壁が砕けるのは同時だった。

「はあ、はあ……。しぶといな、悪党のくせに」

 魔法である以上、あちらにも弾切れはあるようだ。
 ナオは息を切らせながらこちらを睨んだ。

「わかったわ! あの子、【魔法戦士】よ! さっきも魔法で矢の軌道を変えたり、速度を上げたりしてたんだわ!」

 ふいにアクィラが叫ぶ。

 【魔法戦士】。
 そうか、それなら辻褄が合う。

 【魔法戦士】は特殊な役職だ。
 元から適性を持つ者はおらず、生きていくうちに魔法適性に目覚めた物理攻撃系役職の人やその逆の人が成る、言わば上級役職である。

 とはいえ【魔法戦士】になる人はほとんどおらず、もし成ったならすぐに騎士団からスカウトが来るくらいには、貴重な戦力として重宝されいている。

 ナオは【射手】だったが、騎士見習いとして訓練する中で魔法の才が開花したのだろう。
 俺より若いだろうに、とんでもない才能だ。

「もうやめませんこと? 魔力を使い切ったのでしょう。そちらでまともに戦えるのはもう1人だけ、こちらはまだ6人もいましてよ」

「はっ。誰が、魔力を使い切ったって?」

 言うが早いか、ナオがまた弓を構えて光の矢を放つ。

「扱いに慣れてないから、少し休憩しただけだ。さあカターさん、今です!」

 今度は後ろで待機してたカターさんも斬り込んで来る。

 本来ならば流れ矢に当たってもおかしくないが、ナオは矢の軌道を制御できる。
 見事な、しかし俺たちからすれば最悪の連携だ。

「やれやれ、力技は好かんのじゃがのう」

 エラが矢を魔法で相殺する。
 しかし何本かはすり抜け、こちらに飛んできた。

「ボク飛び道具と相性悪いんだよね。というわけでゴメン、みんな頑張れ」

 フワリはトキを背負って後ろに下がり、ひょいひょいと矢を避ける。

 エラは矢の対処、ヒトギラは一応動けるみたいだけれど魔力切れ。
 アクィラはデレーに加護を与えている。

 実質、俺、デレー、バサーク対カターさんの1対3だ。
 油断はできないが、勝算はある。

「覚悟!」

 カターさんは槍を振りかざし、真っすぐに俺の首を狙ってきた。
 が、首を狙われるのは経験済みだ。
 俺は剣で槍の軌道をずらし、そのまま競り合う形に持っていく。

「でりゃーっ!」

「甘い!」

 背後からバサークが飛びかかるも、カターさんはするりと競り合いから抜けて身を翻し、逆にバサークを槍で叩き落とした。

「ぐえー、力が全然出ないよー」

 なんとか受け身をとり、バサークは言う。

「魔王に対抗するための竜人だ。悪の『器』に与し、どうして本来の力を発揮できようか」

「あえ? なにそれ、初めて聞いた。フウツ知ってる?」

「知らないよ!? ていうか前から言ってた不調ってそのせいだったんじゃ……」

「なるほどー」

 どうして当事者よりカターさんの方が詳しいのだろうか。
 いや他の竜人から聞いたんだろうけど、それならなんでバサークは知らないんだ。
 ……まあ、話を聞いてなかったんだろうな。

「バサークさんが満足に戦えずとも、私たちが補ってみせますわ!」

「そうよ、お姉さんたちにかかれば――あら!?」

 アクィラが半ば悲鳴のような声を上げる。
 続いて、2階から矢を迎撃していたエラが落下してきた。

「おっと」

「すまぬ、さすがのわしももう限界じゃ~」

 フワリが受け止めるが、エラは疲弊し切った様子だ。

 言葉をかける間もなく、遮るものの無くなった光の矢が俺たちに降り注ぐ。
 各々懸命に回避し、弾こうとするがキリがない。

 あっという間に俺たちは矢に貫かれ、膝を付くこととなった。

「ナオ、もう良い。こやつらにこれ以上の抵抗はできん」

「はい」

 ナオに攻撃を止めるよう指示し、カターさんはゆっくりと近付いてくる。
 しかし彼は俺ではなく、フワリの傍らで仰向けに倒れるエラに話しかけた。

「エラよ、貴様の瞳も曇ったものだ。自らを天才と自称し、驕り、しかしながら我らの動きを読めなかった。『王都から一瞬で情報を届けることは不可能だ』と、無意識に侮っていた。それを可能にする方法を知らないだけなのに」

「なんじゃと、方法くらいわかるわい! 【射手】の【魔法戦士】が矢文を用いれば楽勝じゃろうが! ……まあ、小僧がその【魔法戦士】だとは思わんかったがの」

「敗北を認めよ。救国の天才はもはや死んだ。貴様は悪に堕ち、かつての輝かしい頭脳は既に陰った」

「ほーう。言うようになったのう」

 エラはニヤリと笑う。
 その目はまるで、いたずらを仕掛ける子どものようだった。
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