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第3章 お尋ね者の冒険者パーティー

する機会がなかったので

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 かくして俺は堂々と街中を歩く手段を得、みんなと共に王都へ向かって再出発した。
 まあ見た目が狼なので目立つっちゃ目立つが、動物を連れている人、特に冒険者なんかは少なくない。

 エラも姿を変えていることだし、この調子なら安心して旅ができそうである。

『この街はクアナと言って、王都で働く人が多く住む場所です。都会と言えば都会ですが、王都に比べれば落ち着いた雰囲気で、居住地としての人気が高いそうですよ』

 そうして到着した街で、遠話機越しにククが話す。
 王都よりは静からしいというが、俺から見ればここも十分に賑やかだ。

「下調べご苦労、クク。では皆の者、正午まで解散して休憩がてら聞き込み等々を行ってくれ」

「はーい! あたしあっち行こっかな!」

「ん、ボクも」

「ねえヒトギラさん、ついて行っていいですか? なにせ僕は子どもなので。街は悪い大人がいっぱいなので」

「悪ガキが何言ってんだ……。まあいい、ただし近付きすぎるなよ」

『皆さん、お気を付けて~』

 それぞれ思い思いの方向に去っていく。

「フウツさん、ご一緒してもよろしくて?」

 デレーの申し出に、しかし声を出せない俺は首を縦に振って応じた。
 体を動かすのは問題ないが低い視界にはまだ慣れていないため、誰かに一緒にいてもらえるのはありがたい。

「うふふ、やっぱり狼のフウツちゃんも可愛いわねえ。お姉さんが抱っこしてあげようか?」

 こちらには首を横に振る。
 何度も言うが、変わっているのは外見だけだ。
 16にもなって緊急時でもないのに抱っこされるなんて、尊厳破壊もいいところである。

「やれやれ、これだから歪んだ人は嫌ですわ。フウツさんを真に愛しているなら、嫌がることはしないものでしてよ?」

「よく言うわね欲望に負けて犯罪者になりかけてた奴が!」

「あれは踏みとどまったからセーフですわ」

 いつものように言い争う2人と共に、通りを歩いて行く。
 通行人からちらちらと向けられる視線は少しの好奇も混ざってはいたが、忌避感がそのほとんどを占めていた。

 好奇は口喧嘩をする、見た目だけなら完璧な美人2人に。
 忌避は傍らを歩く狼の俺に対してのものだろう。
 やはり姿が変われど、嫌われ体質は健在なようだ。

 それにしても、昼前だからかだいぶ人が多い。
 時たま上を見上げて確認しつつ、俺はちょこちょこと2人を追いかける。

「だいたい、貴女は――」

「きゃあああああ!!」

 デレーに何かを言い返そうとしたアクィラの言葉を遮って、女性の絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
 間髪入れずにぐわん、と地面が揺れる。

「なになに、何なの!?」

 向こうの方から人々が走って来た。
 そこにある「何か」から離れんとしているのだろう。
 恐怖と混乱は波のように伝染し、瞬く間に通りはパニックに陥った。

「フウツさん、こちらへ!」

 今度は大人しくデレーに抱き上げられる。
 押し寄せる人々に踏み潰されてはかなわない。
 我ながら現金な判断で、ちょっと自己嫌悪。

「あ、来るわよ! デレー、構えて!」

 アクィラがそう叫ぶが早いか、人混みを飛び越えて何者かが迫って来た。
 俺はデレーの邪魔にならぬよう、慌てて地面に降りる。

 襲撃者の鋭い爪と彼女の斧がぶつかり合った。
 舞い上がった土煙のせいで相手の顔が見えない。

 デレーはぐっと腰を落とし、力いっぱい斧を振り抜く。
 押し負けた相手はそのまま後ろによろめいた。

 次第に土煙が晴れ、襲撃者の姿が露わになる。

 引き締まった男性の体。
 硬そうな殻に覆われて尖っている手足。
 2対の腕、片側にのみ生えた角。

 すでに想像はついていたが、やはり魔族だ。
 彼はじろりと俺たちを睨む。

「人間にしては、良い度胸だ。平時であれば言葉のひとつふたつ交わしたいところだが……今はそうもいかない。私はお前たちを殺す。殺さねばならないのだ」

 血走った目が、もはや逃がす気は無いと語っている。
 俺はデレーの前に立ち、男を威嚇した。
 ……うん、なんか「ウー!」みたいな顔をしたから、たぶん威嚇になっているはず。

「ほう、主を守らんとするか。美しい絆だな。実に、実に惜しい」

「私はフウツさんの主ではありませんわあまりふざけたことを抜かしておられると服ひん剥いて町中引き回してさしあげますわよ」

 急に目をかっ開いてキレるデレー。
 確かに俺とデレーは主従関係じゃないけど、そこそんなに怒るとこ……?

「む、勘違いだったか。すまない」

 対して魔族の人はめちゃくちゃ素直である。
 真面目というか、微妙に天然っぽいというか。

「ならばお前たちは盟友か」

「ええ。今のところは、ですけれど。将来的には夫婦の予定ですわ」

「は!? え、狼と……いや、他者の嗜好に口を出すのは野暮というもの。ここは口を閉ざしておこう」

 今ものすごく勘違いをされた上に気を遣われた気がする。
 違うんです、お兄さん。
 俺は見た目が狼になってるだけで中身は人間です。
 デレーにそんな特殊嗜好はありません。

「さあ得物を構えろ、人間。私はお前たちを殺す。殺し尽くす。嫌ならば全霊を以て抗って見せろ」

「言われずとも、ですわ」

「そうよ、やっちゃいなさいデレー!」

 加勢したいところだが、狼の姿のままじゃろくに戦えない。
 2人が抑えてくれている間に早くエラを探して、魔法を解除してもらおう。

 この騒ぎだ、きっとみんなこっちに向かってきているはず。
 俺は軽く跳ねて後退し、走り出そうとした。が。

「え」

 足が感じ取ったのは土の地面を踏む感触ではなく、ひやりと冷たい液体の感触。

 どうやら着地のつもりが着水をしてしまったらしく。
 しまった、と思った時にはもう遅い。
 派手な音を立て、俺は背後にあった水路に転落した。

「あっ、流れ、流れが速い!」

 思ったより水路は深く、狼のままでは足も付かずにあれよあれよと俺は流されていく。

 足が付かないんだったら泳げばいい?
 残念、俺はカナヅチなのである。

 俺は誰に助けられることもなく、どんどん下流へ流されていく。
 落ちた時の音も俺の声も、戦闘の音にかき消されて2人には届かなかったようだ。

 魔族から逃げんと通りを走る人は大勢いるが、「なんか嫌悪感を覚える狼」に手を差し伸べる者はいない。
 心なしか、「なんで狼のくせに溺れてんの?」という視線も感じる。

 初めのうちはもがきにもがいてなんとか顔を出していたが、水中というものは案外体力を削ってくる。
 水路の縁に捕まろうにも、丁寧に舗装されたそれはツルツルしていて掴めないし、かろうじて掴めてもすぐ押し流されてしまうし。

 どれくらい持ったかはわからない。
 水の流れにもみくちゃにされた俺はとうとう力尽き、もがくのを止めた。
 止めた、というかできなくなったのだけれど。

 同時にすごく眠くなってきて、寝ちゃ駄目だとはわかっていたはずなのに、俺は流れに身を任せたまま目を閉じてしまった。
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