上 下
62 / 209
断章

バサークの葛藤

しおりを挟む
 戦うのが好き。
 いっぱい跳んで、回って、蹴って、殴って、体を動かすのが好き。

 でもそれは、いけないことらしかった。

 里のみんなは言った。
 あたしたちは竜人で、人間を守らなくちゃいけなくて、この力を自分のために使っちゃいけなくて、清く正しく生きなくちゃいけない。

 じゃあなおさら、戦うのは良いことじゃないの?
 戦ったら強くなれるよ?

 そう言うと、みんなは凄く怒った。
 お前は悪い子だって、あたしを叱った。

 あたしは何度も叱られるうちに、やっと自分がみんなにとっていけないことをしているのだと理解した。
 けれど、どうしても戦いのことになると周りが見えなくなってやりすぎてしまう。

 それで、いつも叱られて反省室に入れられた。
 あたしと遊んでくれる子はいなくなった。
 まともに喋ってくれるのもルシアンくらいだ。

 明るく振舞ってはいたけど、ほんとは悲しかった。

 戦いすぎるのはダメ。
 それはもう知っている。
 問題は、戦いを楽しいと思うことがやめられないことだった。

 今度こそはと決意しても、結局は加減ができない。
 あたしはいけない子なのだ。

 とうとう、あたしは里を追い出された。
 力の使い方をわきまえるまで帰ってくるなと言われた。

 それでもあたしは悪い子のままだった。
 戦いを求めるのをやめられなかった。

 力の使い方とか、そんなのわからない。
 もうどうでもよくなって、好きに生きることにした。
 元々考えるのは苦手だったし、それでいいやと思った。

 強い人と戦いたい。
 あたしはこっそりギルドっていうとこに依頼を出して、冒険者をおびき寄せた。
 冒険者は普通の人より強いって聞いたことがあるからだ。

 しかしみんな弱かった。
 試しに仕掛ける最初の一撃だけで、みんな倒れてしまった。
 つまらない。

 友だちも、好敵手もいない。
 広い山の中、ひとりぼっちでいることに慣れそうになってきた頃、あの人たちは現れた。

 フウツ率いる冒険者パーティーのみんなである。
 彼らはあたしの初撃を防ぎ、互いに連携してすごく強い魔法を撃ってきた。
 炎を無効化するスキル《深紅の鱗》が無ければ、危なかったかもしれない。

 あたしは彼らを気に入り、仲間に入れてもらった。
 その後、はしゃぎすぎて迷惑をかけたあたしにフウツが「追い出したりなんかしない」と言ってくれた時は、もう飛び上がるくらい嬉しかった。

 こんなあたしでも一緒にいていいんだ! って。
 もしあたしの翼がちゃんと動くなら、本当に飛び回ってたかもしれない。

 嬉しくて嬉しくて、涙が零れた。
 悲しくないのに泣くのなんて初めてだった。

 悪い子のあたしは、どこにもいちゃいけないんだと思ってた。
 あたしを受け入れてくれる人なんていないんだと思ってた。

 けどみんなは、あたしが戦いを好むことは否定しない。
 突っ走ったり物を壊したりすると叱られるけど、「竜人なんだから」って怒らない。

 生まれてから14年。
 この日、あたしはやっと自分の居場所を見つけたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

魔法の本

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女が入れ替わる話

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...