上 下
18 / 209
第1章 憧れの冒険者ライフ

回復役(毒使い)

しおりを挟む
 しばらくして、ヒトギラとバサークも帰ってきた。

 ヒトギラは無言で寝技をキメてきて怖かったし、バサークに飛びつかれた時は背骨が折れるかと思ったけど、これも大人しく受けておく。

 2人にも事情を説明し、ヒトギラは「もうお前がいるなら何人増えてもいい」、バサークは「新しい仲間!? やったー!」とのことで了解を得られた。

「では改めて、初めまして。僕はトキと申します。役職は【聖徒】、スキルは相手の容態を把握する《診察》と、10秒以内なら死んだ人を生き返らせられる《蘇生》です」

 優等生を自称していただけはあって、この歳で2つもスキルがあるとは大したものだ。
 しかも、どちらのスキルもいわゆる「回復役」に当たる【聖徒】に最適である。

「回復役がいなかったから助かるよ」

「え? まさか4人いて回復役ゼロ?」

「……うん」

「うわ……パーティー名は『蛮勇』だったりします?」

 ドン引きされてしまった。
 以前ヒトギラにも呆れられたが、回復役のいないパーティーなんて本来はありえない。

 特に問題なく活動できていたせいで感覚が麻痺していたんだなあ……。

「まあ僕が来たからには安心してください、なんせそんじょそこらの大人より優秀な【聖徒】なので」

 ふふん、とトキは誇らしげに胸を張った。

「ねーねー、毒使いって聞いたけど、どんなのがあるの?」

「よくぞ聞いてくれました!」

 彼の目がキラリと光る。
 机の上に様々な瓶やら袋やらを並べ、得意げに語り出した。

「イチオシはこちらの痺れ粉です。安価、速効、熊でも倒れる優れもの。従来の材料に加えてウズ殻から採れる成分を用いることで、作成効率と効果が跳ね上がったんです」

「ウズ殻……あの何に使うかわからん安いやつか」

「あれはちょこっとだけ毒性があるから虫よけにするんだよ、ヒトギラ」

 ちゃんとした虫よけ薬よりは効果が低いけど、安くて大量に手に入るから村にいた頃はよくお世話になっていた。

「これはア水というスタンダードな毒で、無味無臭なので食事に混入させやすいです。が、僕はこれを利用して毒性の弱い改良版を作り、毒薬のベースにできるようにしました」

「もしかして俺が飲まされたやつも……?」

「はい! 改良ア水を使ってます!」

 はじけんばかりの良い笑顔である。

 その後もトキの毒物解説は続き、日が傾き出した頃にようやく終わりを迎えた。

「ふう、とりあえず以上です。こんなにたくさん話したのは初めてですよ!」

 満足げにトキは笑う。

「はえー、トキって頭良いね! チリョクで戦うってやつだ! あたしとは逆のカンジ!」

「はい、きっとお役に立って見せますよ。……とはいえ手持ちがこれだけしか無いので、材料を買いに行きたいのですが」

「ああ、じゃあ俺がついて行くよ」

「俺も行こう」

 トキが何を買うのかは知らないけど、この時間ならまだどこの店も開いているだろう。

 というわけで、俺とヒトギラはトキと一緒に町に繰り出した。

「とりあえず花屋に行きたいんですけど、どの辺りでしたっけ。確かここに来る途中で見かけたんですよね」

「ええと、花屋なら南の方にあった気がする」

「俺が案内しよう。前の仕事で何度も訪れている」

 そういえばヒトギラは配達業をしていたんだっけか。

 俺たちは彼を先頭に花屋へ向かう。
 道中、周りを見てみるとあちこちの店にぽつぽつと灯りがつき始めていた。

「あ、あそこですね。では少し待っていてください」

「うん、わかった」

 駆けていくトキを見送り、俺たちは店の近くの木に背中を預ける。

 店先で店員と何か話しながら花を選んでいるトキを遠目に見ていると、ふと疑問が浮かんだ。

「ねえヒトギラ。君、歩いてる時とか、トキに対しては他の人よりちょっと距離が近めだったよね。子どもは大丈夫なの?」

「ああ。虫でも小さいものなら不快感が少ないだろう、それと同じだ」

「なるほどね」

 それならトキと仲良くなれるかもしれない。
 話せる人が多くなるのは良いことだ。

「お互い、厄介な体質に生まれちゃったよね」

「まったくだ。お前と会うまで、他の人間が気持ち悪くないなんて想像もつかなかった」

「俺もみんなと会うまでは、俺を嫌わない人がいるとか信じられなかったよ」

「ふっ。奇妙な者同士、惹かれあったのかもな」

「かもね。だったら俺、この体質で良かったよ」

 とりとめのない話をしているうちにトキが帰ってきた。
 無事に目的のものを買えたようで、上機嫌だ。

「お待たせしました。そうそう、買い物中に新しいアイデアを思い付いたんですよ!」

「何?」

「魔物についてです。人って魔物に対して恐怖とか嫌悪を感じやすいでしょう。それこそ普通の動物に感じるよりもずっと。それってもしかして、何らかの魔物特有の毒があって、それを本能的に感じ取ってるんじゃないかって! もしそうなら全く未知の毒が発見できるかもしれません。何しろ魔界産ですからね」

「へえ。あ、それなら俺にも毒があったりして」

「え? 調べてもいいんですか? ちょっと切りますけど」

「冗談です切らないで」

 魔物に毒、か。
 確かに魔物には他の動物とは違う、異様な雰囲気がある。
 可能性は無きにしも非ずってところだ。

「魔物の退治依頼なら山ほどある。その時に好きなだけ調べればいいだろう」

「そうします。あっ」

 突然、路地裏から男が飛び出してきてトキにぶつかった。
 トキは小さく悲鳴を上げてこける。

「ああ!? なんだガキか! いやちょうどいい、盾になってもらうぜ」

 男がトキに手を伸ばした。
 俺は慌てて遮ろうとしたがすんでのところで間に合わず、トキは男に腕を掴まれてしまう。

「なにしてるんだ、その子を放せ!」

「待ちな、動くとこのお嬢ちゃんの首を折るぞ」

 男の分厚い手がトキの首を捕らえる。

 この様子だと男は逃走中の罪人か何かだろう。
 子ども相手に乱暴とは実にいただけない。

「きゃあ、やめてください」

 トキはというと、わざとらしく哀れっぽい声を出しながらも、目線は完全にころんだ拍子に落としてしまった花の方を見ている。

 肝が座りすぎだ。

「騎士団だ! そこの窃盗犯、おとなしく投降しろ!」

 バタバタと騎士たちが駆けつけてくる。
 やはり男は逃げている最中だったらしい。

「おとなしくするのはお前らだ! 人質が見えねえのか?いいか、俺が町を出るまで動くなよ」

 なんだろう、もっと焦るべきなんだろうけど、当のトキが完全に冷めた目をしていて集中できない。

「あー主よ、あなたの尊き公平の精神に背く憐れな罪人をどうか許し給えー」

 急に敬虔な信者の振りまでしだした。
 どういう心境なのだろうか。

 で、片手はというとポーチに伸びている。
 ああこれは言い訳を考えなきゃいけないやつだ。

 ご愁傷様、と心の中で男に呟く。

「何言ってんだてめ――」

 男の言葉が途切れる。
 その腕にはぶっさりと注射器が刺さっていた。

「はあ……無駄使いさせないでくださいよ」

 力の抜けた腕からするりとトキが抜け出す。
 ぐら、ぐら、と大きく男の頭が揺れ、彼はそのままどさりと倒れた。

「き、君! 大丈夫かい!?」

 騎士団の人が駆け寄る。

「はい、きっと主が助けてくれたのでしょう。我らが主に感謝を」

 まだその演技を続けるのか。

 騎士が離れた隙に俺たちもトキのもとへ行き、一応怪我が無いかを見る。

「災難だったね」

「あはは、どっちがでしょうね。花は無事だったのでまあ良しとしましょう」

 花を拾いあげ、土を払いながらトキは言う。

「すみません、お兄様。軽く聴取をしたいのですが」

 男の拘束を終えた騎士がやってくる。
 ちなみに彼が話しかけたのはヒトギラであり、当然ながら俺は目の前を素通りされた。

「…………」

「ああヒトギラ、俺が行くから帰ってても大丈夫だよ」

「……いや、お前が行くなら俺も行く。お前がいない空間はそれなりに堪える」

 聞く人が聞けば口説き文句にもなりそうな台詞だ。
 まあその「聞く人」には絶対言わないんだろうけれども。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...