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平等とは?公平とは?
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4月10日
洗濯支援車は山王公民館に移動していた。作業は仙台支店の中内が担当し須田は別の動きを進めていた。
山王公民館は避難している人数も少なく、1日で全世帯分の洗濯が終わる。
須田は会社で製造しているホテル向けの小型の洗濯乾燥機の納入先の下見に回っていた。合計25台を用意し、人が多く集まる場所に寄贈する計画だ。
避難所には洗濯機も干す場所もないため洗濯乾燥機はとても便利なのだが、何台も並べて同時に動かすと乾燥の時の電気の消費量が大きいため簡単にブレーカーが落ちてしまう。
須田は災害復興支援コーディネーター蓮笑の田中さんとともに車で石巻に向かった。
海岸線を走ると仙台~多賀城にかけての風景よりも無残であった。川を遡った津波が溢れ道路を覆い、水に流された建物の土台だけが残されている場所もある。
そんな中で1階は浸水したものの2階は何とか使える状態で残った旅館があった。現在は長期ボランティアが無料で宿泊できるように開放しているので、洗濯機があれば役に立つ。
気さくな親父さんが今の様子を語ってくれた。
「とにかく、俺たちのことなんかどうでもいいから子どもたちに腹いっぱい美味いもんを食わしてやりたいのよ」
親父さんは料理人仲間たちと一緒に子どもたちに炊き出しをする活動をしていた。
「だけどよ、最初のうちは食材もいろいろ送ってくれる人もたくさんいたんだけど、だんだん少なくなっちまってよ。食事は毎日のことだもん、大きい冷蔵庫だって全部使いもんにならないから困るのよ。肉だって魚だって使う分だけ毎日欲しいんだけど、送る方はまとめて送って来るし、なかなかなぁ。それも最近少なくなって困ってんのよ。避難所にいたら毎日同じもんばかりだろ、あいつらはカロリーだけなんだよ。決められたカロリーをクリアするだけのものを配ればそれで終わりだからな。それが1ヶ月も続いたら人間はおかしくなっちまう」
ここにも濃淡はある。
もう普通にスーパーに物が並び、飲食店も営業している場所もあるが、まだその日の食べ物にも困っている場所もある。
役所を通して炊き出し支援を申し出ると、避難所にいる全員分が用意できないと断られてしまうという話しも聞いた。『平等』『公平』の弊害がここにもある。
単純な話、100人の避難者がいて50人分の炊き出しができるボランティアが2組いればいいだけのこと。そうすれば選ぶ楽しさがあって食べる楽しみも増えるのに……。
大人も子どもも全員が同じ物じゃなければならない理由なんかどこにも見つからなかった。
洗濯乾燥機の寄贈先はこの旅館の他、多賀城市内の学生寮がある高校とボランティアの基地として使用している東松島の小学校に決まり、須田は会社に手配を依頼した。
ゴールデンウィーク明けには設置できるだろう。
4月11日
この日から5日間は多賀城市総合体育館での洗濯支援となった。
大震災からちょうど1ヶ月が経過し、桜が満開を迎えていたが未だ行方不明の家族を探している人もいる。
悲しみ、疲れ、苛立ち、諦め……様々な感情が避難所の中に渦巻いている。テレビの報道も被害の悲惨さを伝えるというよりは芸能人が炊き出しに来たとか、物資を届けに来たとか演出された美談のようなものが増えていた。芸能人が来ているのは交通の便が良く周りを見れば少しずつ日常を取り戻してきているエリアばかりで、支援の手が届かない場所は相変わらず住民同士で助け合って何とかしている状態である。
体育館は文化センターと違う雰囲気だった。
事務的に整然としていた文化センターに比べ、体育館はよりきめ細やかな対応ができていると感じた。
どちらの避難所も被災者が中心となって自治組織のように運営されているが、文化センターの管理主体は市役所で、体育館は震災前から体育館の管理を市から任されている民間の団体だった。
パンや弁当が多い文化センターと比べて、体育館では毎日温かい食事が提供されていた。人数的なことやスペースの問題もあるが避難している方の要望に耳を傾け、出来る限り対応しようという避難所管理者やスタッフの心構えと行動の差が避難生活に大きな差を生み出していることは明らかだった。文化センターと体育館は車で5分ほどの距離なのに大きな差があることに驚きを感じた。
温かい食事が提供されている体育館にも、市が手配したカロリーたっぷりの甘いパンが日々届いていた。大量に余っているそのパンを洗濯のお礼にと避難者たちが須田に届けてくれる。少ない日でも7~8本、多い日には10数本届くこともある。
須田は明日も明後日も届くであろうパンを捨てることはできずに毎日食べ続けていた。日増しにズボンが窮屈になっていくのを感じていたが食べ続けた。
毎日避難所に来ている医師がある日こんなことを言った。
「野菜食べてる?まさかあのパン、毎日食べてないだろうね?目に見えて太ってるよ。捨てていい、そうしないとあんたの身体がおかしくなる」
それでも須田は捨てられずに食べていた。野菜も肉もほとんど食べず
洗濯支援が終わった4月末に家に帰ると10kg近く体重が増え、健康診断で引っ掛かるほど血糖値が上がっていた。
急激に増えた体重を支えていた足の裏は腱膜炎を起こし立ち上がるたびに痛みを感じるようになったのも支援を終える頃だった。
洗濯支援車は山王公民館に移動していた。作業は仙台支店の中内が担当し須田は別の動きを進めていた。
山王公民館は避難している人数も少なく、1日で全世帯分の洗濯が終わる。
須田は会社で製造しているホテル向けの小型の洗濯乾燥機の納入先の下見に回っていた。合計25台を用意し、人が多く集まる場所に寄贈する計画だ。
避難所には洗濯機も干す場所もないため洗濯乾燥機はとても便利なのだが、何台も並べて同時に動かすと乾燥の時の電気の消費量が大きいため簡単にブレーカーが落ちてしまう。
須田は災害復興支援コーディネーター蓮笑の田中さんとともに車で石巻に向かった。
海岸線を走ると仙台~多賀城にかけての風景よりも無残であった。川を遡った津波が溢れ道路を覆い、水に流された建物の土台だけが残されている場所もある。
そんな中で1階は浸水したものの2階は何とか使える状態で残った旅館があった。現在は長期ボランティアが無料で宿泊できるように開放しているので、洗濯機があれば役に立つ。
気さくな親父さんが今の様子を語ってくれた。
「とにかく、俺たちのことなんかどうでもいいから子どもたちに腹いっぱい美味いもんを食わしてやりたいのよ」
親父さんは料理人仲間たちと一緒に子どもたちに炊き出しをする活動をしていた。
「だけどよ、最初のうちは食材もいろいろ送ってくれる人もたくさんいたんだけど、だんだん少なくなっちまってよ。食事は毎日のことだもん、大きい冷蔵庫だって全部使いもんにならないから困るのよ。肉だって魚だって使う分だけ毎日欲しいんだけど、送る方はまとめて送って来るし、なかなかなぁ。それも最近少なくなって困ってんのよ。避難所にいたら毎日同じもんばかりだろ、あいつらはカロリーだけなんだよ。決められたカロリーをクリアするだけのものを配ればそれで終わりだからな。それが1ヶ月も続いたら人間はおかしくなっちまう」
ここにも濃淡はある。
もう普通にスーパーに物が並び、飲食店も営業している場所もあるが、まだその日の食べ物にも困っている場所もある。
役所を通して炊き出し支援を申し出ると、避難所にいる全員分が用意できないと断られてしまうという話しも聞いた。『平等』『公平』の弊害がここにもある。
単純な話、100人の避難者がいて50人分の炊き出しができるボランティアが2組いればいいだけのこと。そうすれば選ぶ楽しさがあって食べる楽しみも増えるのに……。
大人も子どもも全員が同じ物じゃなければならない理由なんかどこにも見つからなかった。
洗濯乾燥機の寄贈先はこの旅館の他、多賀城市内の学生寮がある高校とボランティアの基地として使用している東松島の小学校に決まり、須田は会社に手配を依頼した。
ゴールデンウィーク明けには設置できるだろう。
4月11日
この日から5日間は多賀城市総合体育館での洗濯支援となった。
大震災からちょうど1ヶ月が経過し、桜が満開を迎えていたが未だ行方不明の家族を探している人もいる。
悲しみ、疲れ、苛立ち、諦め……様々な感情が避難所の中に渦巻いている。テレビの報道も被害の悲惨さを伝えるというよりは芸能人が炊き出しに来たとか、物資を届けに来たとか演出された美談のようなものが増えていた。芸能人が来ているのは交通の便が良く周りを見れば少しずつ日常を取り戻してきているエリアばかりで、支援の手が届かない場所は相変わらず住民同士で助け合って何とかしている状態である。
体育館は文化センターと違う雰囲気だった。
事務的に整然としていた文化センターに比べ、体育館はよりきめ細やかな対応ができていると感じた。
どちらの避難所も被災者が中心となって自治組織のように運営されているが、文化センターの管理主体は市役所で、体育館は震災前から体育館の管理を市から任されている民間の団体だった。
パンや弁当が多い文化センターと比べて、体育館では毎日温かい食事が提供されていた。人数的なことやスペースの問題もあるが避難している方の要望に耳を傾け、出来る限り対応しようという避難所管理者やスタッフの心構えと行動の差が避難生活に大きな差を生み出していることは明らかだった。文化センターと体育館は車で5分ほどの距離なのに大きな差があることに驚きを感じた。
温かい食事が提供されている体育館にも、市が手配したカロリーたっぷりの甘いパンが日々届いていた。大量に余っているそのパンを洗濯のお礼にと避難者たちが須田に届けてくれる。少ない日でも7~8本、多い日には10数本届くこともある。
須田は明日も明後日も届くであろうパンを捨てることはできずに毎日食べ続けていた。日増しにズボンが窮屈になっていくのを感じていたが食べ続けた。
毎日避難所に来ている医師がある日こんなことを言った。
「野菜食べてる?まさかあのパン、毎日食べてないだろうね?目に見えて太ってるよ。捨てていい、そうしないとあんたの身体がおかしくなる」
それでも須田は捨てられずに食べていた。野菜も肉もほとんど食べず
洗濯支援が終わった4月末に家に帰ると10kg近く体重が増え、健康診断で引っ掛かるほど血糖値が上がっていた。
急激に増えた体重を支えていた足の裏は腱膜炎を起こし立ち上がるたびに痛みを感じるようになったのも支援を終える頃だった。
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