上 下
12 / 30
第一章

第十二話:初めてのおつかい(レベル99)

しおりを挟む
 野営道具を背負って、街を出る。
 目的地の近くまで小一時間、馬車に乗るのだ。

「結構離れているんですね」
「そうね。そもそもデスマウンテンが危険地帯だから、近くに街を作るわけにはいかないのよ」
「なるほど」

 馬車の中でカリーナから話を聞くノート。
 目的地の危険度を聞けば聞くほど、その胃はキリキリと痛んでいた。

「あら、もしかして怖いの?」
「そりゃ怖いですよ。赤線引かれてた土地ですよ。危険度で言えばAランク」
「たしかにそう考えれば、初心者は怖いかもね~」
「男の子だから根性出せとか言わないですよね」
「男の子なんだから根性出せ」

 カリーナの無情な応援に、ノートは溜息をつく。
 その隣では、ライカがウキウキと鼻歌を歌っていた。

「ライカはご機嫌だな」
「はいです。久しぶりにお友達に会えるので」
「えらく危険な場所に住んでるお友達だな」

 道のりに慣れているのだろうか、ライカが恐怖感じている様子はない。
 たった一人の男ということもあって、ノートは自分だけ怖がっていることに情けなさを感じていた。

 そして馬車に揺らされること小一時間。
 目的地の近くに到着した。
 ここからは徒歩である。

「歩きにくい道」
「人の手入れなんてできない場所ですから。慣れるしかないですね」

 鬱葱とした道を歩きながら、ノートは愚痴を零す。
 重い野営道具を背負っていることもあって、小さな苛立ちを覚えてしまう。
 カリーナの後をついて行くが、道を進めば進むほど、遠方からモンスターの鳴き声が聞こえてくる。
 モンスターの住処にもなっている危険地帯が近い証拠だ。
 ノートは観念して腹をくくった。

「鬼が出るか蛇が出るか」
「出るのはモンスターよ」
「更にたちが悪くて笑えないです」

 カリーナと軽口を交わすが、ノートの胃はとにかく痛かった。
 そんなやり取りをしている内に、鬱葱とした道は終わり、ゴツゴツとした岩肌ばかりの場所に出てくる。
 モンスターの鳴き声も大きくなってきた。

「さぁノート君、入口に着いたわよ!」
「え、入口って……これがですか!?」

 目の前に存在するのは天高くそびえ立つ岩の塊。
 三~四メートルごとに、段々畑のような段差がついている岩山だ。
 とても何かの入り口には見えない。

「あの、カリーナさん。もしかして何処かに隠し通路があるってオチだったりしますか?」
「そんなの無いわよ。普通に登るわよ」
「やっぱり」

 ノートはようやく、野営道具を持たされた理由を理解した。
 たしかに、この巨大な岩山を登りきるのは一日では不可能だ。

「それじゃあノート君、荷物持ちご苦労様。ここからはアタシが持つわ」
「いいんですか!」
「もちろん。代わりにライカをよろしくね」
「はい! 任せてください……えっ?」

 呆然とするノートからテキパキと野営道具を剥がすカリーナ。
 彼女は浮遊魔法を唱えて荷物を浮かすと、二人に向けてウインクをした。

「エア・ジャンプ。それじゃ二人共、頑張って登ってね~」

 魔法で風の足場を作り出したカリーナは、ノート達を置いて先に登り始めてしまった。

「待ってカリーナさん! 俺達を置いてかないでー!」
「カリーナさん!?」

 二人の叫び虚しく、カリーナは岩山へと姿を消していった。

「あうぅ、どうしましょう。いつもはカリーナさんに運んでもらってたんですが」
「本当にどうしようか……登るにしても危険地帯だし……」

 頭を捻るノート。
 そもそもカリーナが何も考えずに自分達を放置するとは思えない。
 何か意図がある筈だ。

「(今の状況を整理しよう)」

 居るのは手持ちの荷物は特にない二人。
 お互いに確認をしたが、ナイフなどのモンスターを攻撃できる物もない。
 デスマウンテンには危険なモンスターが居るという。
 この状況で安全に岩山を登るには……

「なぁライカ」
「なんです?」
「ライカのアルカナってバリアを張れたよな?」
「はい。大抵のモンスターの攻撃なら簡単に防げちゃいます」
「張るのに何か条件はある?」
「特に無いです。強いて言うなら『純白たる正義ホワイト・ジャスティス』が向いている方向にしかバリアは張れません」
「つまり後ろからの攻撃には弱い……いや、それだけできれば十分だ」

 作戦が構築できたノートは、その場でしゃがみ込む。

「ライカ、俺の背中に乗って」
「え?」
「俺がスキルを使ってデスマウンテンを登る。だからライカはアルカナを使って、モンスターの攻撃を防いで欲しいんだ」
「なるほど。連携するってことですね!」
「そういうこと」

 ノートの意図を理解したライカは、ノートの背に乗る。
 おんぶする形になった訳だが、そうすると自然に……

――ふにょん――

「……」
「ノート君、どうしたんですか?」
「な、なんでもないよ。少し雑念と戦ってただけだから」

 やはりライカのお山は柔らかく、そこそこありました。
 背中に幸せなお椀の温もりを感じつつ、ノートは両手の平を地面に接地した。

「いくぞライカ」
「はい! 出てきて『純白たる正義』!」

 背負われているライカの背中から、白騎士の像が出現する。
 これで何時でもモンスターの攻撃から身を守れる。

「デスマウンテン頂上に向けて、出発だ!」

 ダァン!
 ノートはスキルを使って地面を弾く。
 その力を使って、岩山を跳び登り始めた。

「ノート君、重くないですか?」
「大丈夫大丈夫。軽いくらいだから!」

 ダァン! ダァン! ダァン!
 背中にいるライカと軽くは無しをしながら、ノートは順調に岩山の段を登り続ける。
 とはいえ、何時もとは違う二人分の重さ。
 必要となる弾く力も多く、消耗が早い。
 積もる疲労をグッと堪えながら、ノートは一段一段確実に登っていく。

 山頂に近づくにつれて、モンスターの鳴き声が鮮明に聞こえてくる。
 三十段を越えた地点だろうか、二人はついにモンスターと遭遇した。

「キシャァァァ!」
「げっ、サラマンダー!」

 真っ赤な鱗に覆われた火蜥蜴の群れ。目算十体はいる。
 気性も荒く危険度が高いサラマンダーが、一斉にノート達に狙いを定める。

「キシャァァァ!!!」

――業ゥゥゥ!――

 サラマンダーが一斉に超高温の火炎を吐き出してくる。
 ノートのスキルでは、この攻撃は防げない。

「守って『純白たる正義』!」

 ノートの背中で、ライカが魔人体に指示を出す。
 すると白騎士の像がレイピアを振るい、無数のバリアを展開する。
 襲い掛かってきた炎は、そのことごとくがバリアによって防がれてしまった。

「ノート君、今です!」
「わかってる!」

 ダァン!
 地面を弾いて、即座に脱出するノート。
 数段進んだところで、背中のライカに話しかけた。

「ライカのアルカナってスゴイんだな。まさかサラマンダーの炎を防げるなんて」
「それだけが私の取柄ですから」

 どこか自虐的に答えるライカ。
 その様子が少し気になったが、質問をする暇もなく次のモンスターが襲い掛かってきた。

「ボムエレメントだ!」
「『純白たる正義』!」

 ライカが防御している隙に、ノートが先に進む。
 その後もモンスターとの遭遇は絶えることなく。

「魔狼だ!」
「ガルーダなのです!」
「ゴブリンの群れだ!」
「ワイバーンなのです!」
「服だけ溶かすタイプのスライムだ!」
「触手系のモンスターなのです!」
「野生のゴーレムだ!」

 数多の危険なモンスターをかいくぐりながら、デスマウンテンを登る二人。
 なんとかモンスターの気配がない場所に辿り着いた頃には、空が赤く染まっていた。

「はぁ、はぁ……少し、少し休憩させて」
「わ、私も、エネルギー切れなのですぅ……」

 数時間に渡り、休みなく登り続けていた二人。
 流石に揃ってエネルギー切れを起こしはじめていた。

「あら、思ったより上に来てたわね」
「カ、カリーナさん!?」

 突然上から声が聞こえて来たので、ノートは頭を上げる。
 そこには風魔法で浮遊している、カリーナがいた。

「そろそろ二人共エネルギー切れかなって思って、少し下りて来たのよ」
「私、もうくたくたなのですぅ~」
「俺もですよ。こんなにスキルを使い続けたの初めてですよ」
「でも、良い修行にはなったでしょ」

 やっぱりか。とノートは内心呟く。
 恐らくドミニクの差し金だろう。

「修行するんだったら、先に言ってくださいよ」
「私も同意なのです」
「アハハ、ごめんごめん。ドミニクに黙ってろって言われててね」

 突然放置された二人からすれば、堪ったものではない。
 戻ったらドミニクに一言言おう。ノートとライカはそう決心した。

「さて、この辺りはモンスターが近寄らないポイントなの」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。不思議とね」

 そう言うとカリーナは、野営道具を下ろした。

「だから今日は、ここで野営よ」
「はいです!」
「あのカリーナさん。つかぬことを聞きたいんですが、頂上まであとどのくらいなんですか?」
「そうね、今までの体感だと……あと半日くらいね」
「長いなぁ……」

 どうりで中々頂上が見えてこない筈だ。
 ノートは少しウンザリしてしまう。

「ちなみに上はもっと気性が荒いモンスターが多いわよ。覚悟しなさい」
「聞きたくなかった、そんな現実」

 思わず涙が出そうになったノート。
 だが結局は現実を受け入れなくてはならないのだ。

「ほら二人共。テント張るから手伝って」
「はーい」
「はいなのです!」

 空に近い岩山の一角で、野営の準備を始める三人。
 そんな中、ノートは明日の道のりに不安を覚えるのだった。

「(どうか明日も、生き残れますように……)」

 初めてのおつかいは、とんでもない難易度でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕だけ個別で異世界召喚

kamine
ファンタジー
妖怪の王、妖狐の「健」と英雄の魔導師「音子」の間に産まれた天音。産まれた時から力が強く、天音の器が小さすぎて力が漏れ出ていた。両親は天音自身のために力と器を切り離し、力は異世界で封印、器である天音は地球に飛ばされた。地球で13年過ごした天音の器は力と対等なものになり異世界に勇者として召喚される生徒のみんなに混ざって、学校に遅刻してきた天音は個別で召喚される。召喚された時上手く生徒に紛れることができ安心した天音だが、手違いがあり、魔の森へと生徒全員召喚され魔物に遭遇する。召喚されるさい実の両親にあって色々聞かされていた天音は生徒の中で唯一自分の力のことを知っていた。戦う手段のない生徒の仲間を守るため魔物を引きつけるべく無理やり力を引っ張り出し駆け出す。数時間魔物の相手をしたが力が足りなく死が目の前まで迫っていたところをお爺さんとお婆さんに助けられ事情を知った2人は天音を鍛えることに。それから2年、力を得た天音はさらに物事を学ぶべく学園に行く。そこで意外な再開をすることに.....学園で色々学び、色んなことに巻き込まれる天音の物語である。 ハーレムでちょっとヤンデレになるかも、、、? 設定を若干修正....! 内容修正中!

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

令嬢戦士と召喚獣〈1〉 〜 ワケあり侯爵令嬢ですがうっかり蛇の使い魔を召喚したところ王子に求婚される羽目になりました 〜

Elin
ファンタジー
【24/4/24 更新再開しました。】 人と召喚獣が共生して生きる国《神国アルゴン》。ブラッドリー侯爵家の令嬢ライラは婿探しのため引き籠もり生活を脱して成人の儀式へと臨む。 私の召喚獣は猫かしら? それともウサギ?モルモット? いいえ、蛇です。 しかもこの蛇、しゃべるんですが......。 前代未聞のしゃべる蛇に神殿は大パニック。しかも外で巨大キメラまで出現してもう大混乱。運良くその場にいた第二王子の活躍で事態は一旦収まるものの、後日蛇が強力なスキルの使い手だと判明したことをきっかけに引き籠もり令嬢の日常は一変する。 恋愛ありバトルあり、そして蛇あり。 『令嬢戦士と召喚獣』シリーズの序章、始まりはじまり。 ÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷ 『令嬢戦士と召喚獣』シリーズ 第一巻(完結済) シリーズ序章 https://www.alphapolis.co.jp/novel/841381876/415807748 第二巻(連載中) ※毎日更新 https://www.alphapolis.co.jp/novel/841381876/627853636 ※R15作品ですが、一巻は導入巻となるためライトです。二巻以降で恋愛、バトル共に描写が増えます。少年少女漫画を超える表現はしませんが、苦手な方は閲覧お控えください。 ※恋愛ファンタジーですがバトル要素も強く、ヒロイン自身も戦いそれなりに負傷します。一般的な令嬢作品とは異なりますためご注意ください。 ÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

竜人少女と一緒にギルドの依頼受けてます

なめ沢蟹
ファンタジー
とあるファンタジー世界、ひょんな事から竜人少女と知り合った少年は、彼女の呪いを解くのを手伝い人間の姿に戻す。  その後、様々な依頼を受けていくうちに【時を止める魔法】の使い手だった曾祖父の謎に迫っていく。 ※この作品はノベルアップ+と小説家になろうでも公開中です ※続編「エルフの魔法剣士、悪役令嬢と共に帝王暗殺を企む」公開中です。

処理中です...