追放呪術師と吸血鬼の冒険譚

夜桜

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6 登録をしに組合へ

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「呪術っていうのがどんなのか私はよく分からないけど、多分あなたが持っているのって二つじゃなくて三つだと思うな」

 ベッドの上にごろりと仰向けに倒れ込んで、顔だけを向けながら言う。
 なんと無防備なのだろうか。

「何故、そう思うんだ」
「直感ってやつかな。稀にある話なんだけど、生得魔術しか使えないと思っていた魔術師は、実はいつの間にか後得魔術を習得していて、けど無意識のうちに使っていて気付かなかったっていうのがあるの。多分、ユウナもその類だと思うな」

 三つ目の呪術。それを持っているかもしれない。
 そう言われて何故そう思ったのかと聞こうとするが、吸血鬼という存在がどういう経緯で生まれ何によって力を与えられているのかの説明を思い返し、納得する。

「お前を殺すことができるからか」
「そういうこと。でも呪術や魔術にはそんな問答無用で死を与えるものなんて無いし、何回か見せてもらった呪術にはそんな術式も無い。色々と仮定は立ててみたけど、本人が答え知らないんじゃ確かめようも無いわ」

 仰向けからうつ伏せになり、頬杖を突いて足をぱたぱたと動かす。かなり際どいところまでスカートが捲れる。

「俺が魔眼とやらを持っているとしたら、どうだ?」

 絶対先天性視覚的能力、魔眼。
 魔眼も生得の術同様生まれ持つもの。その人間の才能を示すものの一つだ。

 能力は幅広く、目を合わせた人間に対する暗示や、物体を透かして見る透視。視覚に関するものならなんでもできるというものから、視界に収めた対象を問答無用で石化させる、強制的に命令させるといった反則級のものもある。
 そんな優れた能力を持つ魔眼なら、不死性を持つ吸血鬼を殺すこともできるのでは無いだろうか。そう思っての発言だ。

「魔眼っていうのは、一目見たら分かるものなの。常に表に出ている場合もあるし、上手く制御して見えなくしている場合もある。それとは別に、瞳そのものに超常的能力が宿っているんだから、人間はともかく存在がそれに近いわたしなら、一回見れば分かるものなの」

 つまり、何故殺せたのかと質問をしてきている時点で、ユウナには魔眼は無いことが確定していた。

「それなら、何故俺の目をあんなにも覗き込んできた」
「そんなの、最初は魔眼持ちだと思ったからよ。死の概念そのものを相手に付与する、魔眼の中でも正真正銘最強の能力、死滅の魔眼。それなら真祖であるわたしを殺せる。でも、あれだけ至近距離で見てもあなたの目が魔眼と認識できなかった」

 だからこそ訳が分からないと、頬杖をやめて枕に顔を埋める。

 あまり期待はしないようにしていたが、はっきりと魔眼無しと言われると少なからずショックは受ける。
 才能が無いのは分かりきっている。生得呪術程度しか使えない才能しか無いのだ。そんな自分が、才能の塊とも言える魔眼を持っているはずもない。そう言い聞かせることにする。

「ところでさ、ユウナって冒険者なんだよね?」
「そうだが、それが何か?」

 がばっとシルヴィアが起き上がり、ベッドから降りて近寄ってくる。

「だったらさ、わたしも冒険者登録したい! 冒険者活動っていうのがどんなものなのか、わたしも知りたい!」

 無邪気な子供のように目を輝かせて言う。その目は本気で登録しに行きたいと訴えており、ここでダメだと断ったら泣きだしそうだ。

「俺に言うな。冒険者登録なら、組合がいつでも受け付けてくれる。ただ、最低限最下位の魔物を単独で殺せるだけの強さがないと、登録は許可されない」
「なーんだ、じゃあ簡単だね。最下位なんて石ころ蹴飛ばすくらい簡単よ。ほら、登録しに行きましょう!」
「登録はその日のうちには終わらない——お、おい!? 待て、引っ張るな!?」

 早く早くとユウナの腕を引っ張って部屋から出ようとするシルヴィア。このまま出るのは警備面的に危険なので、掴まれている腕を少し強引に振り払って机の上に放置してある鍵を取り上げ、部屋を出て鍵を閉める。
 ほんの少し前に戻ってきたばかりなのにまた出かけることになり、宿主に謝罪してついでにシルヴィアは娼婦でも無ければそう言うことのために連れ込んだ少女でも無いと誤解を解き、それから引きずられるように宿を出て組合に向かっていった。
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