もう一つの凶器

深海雄一郎

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14章

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『結局、大した収穫はありませんでしたね』T刑務所の堀の壁の近くの道を歩きながら、若杉刑事は上司に言った。
高木所長が知っている、丸山和彦の、基本的な個人情報については、紙にコピーしてまとめたものを頂いた。その紙を見ながら、矢口は言った。
『丸山和彦の住所は、この近くだな。確か、両親と同居していると書いてある。行ってみるか。』
T刑務所から数10分程度の道のりで、丸山和彦の自宅に到着した。この辺りには、一軒家が集中して立っており、そのうちの一つの家に、丸山という表札が掲げられていた。矢口がインターホンを鳴らすと、50代ぐらいの、女性が出てきた。
『警視庁捜査一課の、矢口と申します。こちらは部下の若杉。丸山和彦さんは、こちらにお住まいでしょうか』
『和彦は、私の息子ですが、あの子が何か』母親は、不安げな顔で、矢口を見た。
『息子さんの恋人の父親が、何者かに殺害されまして。それで、参考程度にお話を聞きたいと思いまして。』
『分かりました。どうぞ、お入りください』
居間の方に、二人の刑事は案内された。父親の丸山士郎は、会社の仕事で不在だった。そこに、母親の、丸山公子に呼び出された、丸山和彦が姿を現した。二人の刑事は、一礼して、警察手帳を見せて、自己紹介した。
『丸山和彦ですが、里美の父親が殺された件で来られたと聞きましたが、僕は、事件については何も知らないんですが』
『ええ、そうかもしれませんが、手がかりが少ない事件でして。参考程度に、ご協力していただきたい。』
矢口は前置きを言って、続ける。『事件のことは、木嶋里美さんから伝わっていたんですか』
『ええ、昨晩、彼女から電話で。自分は心配ないから、安心してくれと』
『木嶋修一さんと、お会いしたことは』
『三ヶ月前に、里美と付き合うようになってから、一度だけありました。四年前から、父親にお金を振り込んでいると里美から聞かされたので、父親から暴力を受けていた事も。里美にやめるように言って、彼女につきまとわないように、あの男に、忠告しに言ったんです。』
だから、彼女は振り込むのをやめたのか。恋人の助言があったのか。矢口は続けて質問する。
『その時、木嶋さんの反応は』
『意外に、おとなしく、素直に了承してくれましたね。』
『喧嘩には発展せず、穏便に済んだということですね。ところで、話は変わりますが、藤浪勤という男をご存知ですね』
丸山和彦の眼が、一瞬変わったのを、矢口は見逃さなかった。
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