75 / 104
2章
74
しおりを挟む
「この車おっきいんだし、偶には後ろ、でも――」
「さっきからごちゃごちゃうるっせぇんだよ――さっさと乗りやがれ」
ここまで口調を荒げる黒田はレアで、脳内の特別警報レベル5である。
折れなければいくら恋人でも、力づくで押し込めるという怒気すら感じられて、大人しく助手席に乗り込んだ。
田淵が先に乗り込んだのを見てから、黒田も車の前を通って、運転席ドアを開け入った。
その幾秒の間に、体臭を嗅いだ。如何わしい臭いはしない。だが、田淵も黒田も、もうその如何わしい臭いがどういう臭いなのか知っている。
出先にディアゴが服を貸してくれた。
「ヒロキの服はおしもんでしまってしわくちゃだから、洗濯してた。乾いたらPC教室に持ってくるから、来週ね」と。いたれりつくせりで出立した。
それがいきなり功を奏す形となったらしい。風呂にも入らずに出てきたものだから、密室空間にいる時点で焦るのに、隣となれば一発でボロが出たかもしれない。
「・・・・・・へぇ、やり返しなんていう、小賢しいマネはやっぱりしてくれるんだね」
「・・・・・・?」
「ヒロキさんとはたくさん話し合う必要もないみたいだね」
「へ? ――っ・・・・・・ごめんなさい」
(あ、ああ・・・・・・黒田君、もう僕がしでかしたことに気がついて・・・・・・)
「その謝罪もそう。俯いて謝罪なんて、違うでしょ。まず目を見てそれから頭を垂れるもんでしょ。俯きが先にくるなんて、どんなやましいことがあるのか、家に帰ったら是非、ゆっくり聞きたいなぁ」
「どうせ、たくさん話すこともないだろうしさ。単純で明快なことしか話せないでしょ? 複雑に何かが絡まりあって――なんてのがあれば考えなくもない――」握るハンドルの腕に血管が浮き出ていた。
「――ないわけないけど」
「・・・・・・」
4つも下の若手社長に恐れを為して、下手に言葉を紡ぐことすら憚られた。
(僕が、僕が、軽率な行動を取ったばっかりに、お酒の場でやらかして、黒田君にもディアゴにも傷付けることになってしまって・・・・・・僕が、寂しい、なんて気持ちに気づかなければ、こんな馬鹿なこと状況にならなかったのに・・・・・・っ!!)
自宅に到着してからも、黒田の強引さは変わらなかった。
田淵の腕を引かずに、肩を抱き寄せ逃げられる術の全てをそれで封じている。
だが、基よりその気のない田淵には杞憂の策であった。
――黒田は1ミリも悪くはない。それでいて、何かしらのペナルティとして、多少の乱暴は飲み込む覚悟があった。
(こんな時まで、怪我させないようにしてるなんて――)
肩を抱く黒田の指に力が入っているが、腕よりは痣になることはないだろう。
視線をこちらに向けない黒田を見ながら、肩が少し痛むのを甘受する。
「さっきからごちゃごちゃうるっせぇんだよ――さっさと乗りやがれ」
ここまで口調を荒げる黒田はレアで、脳内の特別警報レベル5である。
折れなければいくら恋人でも、力づくで押し込めるという怒気すら感じられて、大人しく助手席に乗り込んだ。
田淵が先に乗り込んだのを見てから、黒田も車の前を通って、運転席ドアを開け入った。
その幾秒の間に、体臭を嗅いだ。如何わしい臭いはしない。だが、田淵も黒田も、もうその如何わしい臭いがどういう臭いなのか知っている。
出先にディアゴが服を貸してくれた。
「ヒロキの服はおしもんでしまってしわくちゃだから、洗濯してた。乾いたらPC教室に持ってくるから、来週ね」と。いたれりつくせりで出立した。
それがいきなり功を奏す形となったらしい。風呂にも入らずに出てきたものだから、密室空間にいる時点で焦るのに、隣となれば一発でボロが出たかもしれない。
「・・・・・・へぇ、やり返しなんていう、小賢しいマネはやっぱりしてくれるんだね」
「・・・・・・?」
「ヒロキさんとはたくさん話し合う必要もないみたいだね」
「へ? ――っ・・・・・・ごめんなさい」
(あ、ああ・・・・・・黒田君、もう僕がしでかしたことに気がついて・・・・・・)
「その謝罪もそう。俯いて謝罪なんて、違うでしょ。まず目を見てそれから頭を垂れるもんでしょ。俯きが先にくるなんて、どんなやましいことがあるのか、家に帰ったら是非、ゆっくり聞きたいなぁ」
「どうせ、たくさん話すこともないだろうしさ。単純で明快なことしか話せないでしょ? 複雑に何かが絡まりあって――なんてのがあれば考えなくもない――」握るハンドルの腕に血管が浮き出ていた。
「――ないわけないけど」
「・・・・・・」
4つも下の若手社長に恐れを為して、下手に言葉を紡ぐことすら憚られた。
(僕が、僕が、軽率な行動を取ったばっかりに、お酒の場でやらかして、黒田君にもディアゴにも傷付けることになってしまって・・・・・・僕が、寂しい、なんて気持ちに気づかなければ、こんな馬鹿なこと状況にならなかったのに・・・・・・っ!!)
自宅に到着してからも、黒田の強引さは変わらなかった。
田淵の腕を引かずに、肩を抱き寄せ逃げられる術の全てをそれで封じている。
だが、基よりその気のない田淵には杞憂の策であった。
――黒田は1ミリも悪くはない。それでいて、何かしらのペナルティとして、多少の乱暴は飲み込む覚悟があった。
(こんな時まで、怪我させないようにしてるなんて――)
肩を抱く黒田の指に力が入っているが、腕よりは痣になることはないだろう。
視線をこちらに向けない黒田を見ながら、肩が少し痛むのを甘受する。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された
うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。
※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。
※pixivにも投稿しています
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
「アルファとは関わるな」
COCOmi
BL
ゲイのイケメン弟α×弟の好きな人と寝てしてしまった兄β(notクズ)
ゲイである優秀なαの弟をもつ空は、流れで弟の好きな人と性行為をしてしまう。
あるとき、それがバレてしまった空は弟を裏切った償いとして、アルファとは関わるなという制約を立てられる。しかし、その決まりには弟の思惑と執着が隠れていた---。
半ば強引に完結させたので、どんなオチでもいいという方向け。どちらかというとメリバ。
小説ページの下部に拍手設置しました!匿名コメントも送れますので感想など良かったらよろしくお願いします!
ムーンライトノベルにも掲載しています→ https://novel18.syosetu.com/n3361fx/
目を開けてこっちを向いて
COCOmi
BL
優秀で美しいヤンデレα×目を合わせるのが苦手な卑屈Ω。
目を合わせるのが苦手なΩの光は毎日やってくる優秀で美しいαの甲賀になぜか執着されている。自分には大した魅力もないのになぜ自分なのか?その理由もわからないまま、彼に誘われて断ることもできず家へ行ってしまう…。
---目を合わせたら全ては終わり。そこは奈落の底。
過激な表現や嘔吐シーンありますのでご注意ください。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる