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1章
54――黒田――
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(まだまだ知らないことたくさんあるな。まぁ、一緒にいるようになって1年とちょっとだし、無理もないんだけど、過去に執着したことなかったのが仇になるなんて思わなかった・・・・・・)
筆跡の鑑定結果を持って、本社へ出向いている。一応廣田もそこへ呼びつけている。
手直しを命じられてから、2ヶ月と少し。梅雨時に入り始めて、多湿の毎日にそれだけで苛立ちを募らせる。
「失礼します」ノックの後に了承を得ず入室する。それに慣れた社長は、叱ることをやめた。
「・・・・・・どうした。いつも突然来るな」
「今日は手直しの件で結果が出ましたので」
「ほう、立て直せそうか」
「結果から申し上げて――無理ですね」
「無理だと」
社長椅子に深く座る社長をよそに、黒田は鞄から決算書を取り出して説明をしだす。
「手直す必要がない会社をどう手直せばいいのかわからないですね」
「真っ赤だったじゃないか」
「いいえ? 真っ黒でしたよ? あれ、そうなると、廣田社長から見せていただいた決算書と違いますね。聞こうと思ったんですが、どうなってるんです?」
「・・・・・・廣田のところはお前と同級生らしいな」
「ええ、それとこれと何の関係が?」
「今の立場では、同等くらいなのかもしれないが、本来はお前が此処のトップに立つ予定だったんだ。そんな奴からの手直しなんて施されたくはないだろう」
あくまで平然と話す様を見て、黒田も内心舌を巻く思いで、会話を続けた。
「ああ、そういう感情的な部分を仕事に持ち出すのは、俺くらいなんじゃないですかね? 好きか嫌いかの一存で俺は黒田から1抜けしたんですし」
「――おい! 黒田!! どういうことだ!!!」社長がいるのを分かって、乱暴にドアを開け放って入室してきた廣田は、黒田の皺のないスーツの胸ぐらをつかんだ。
今にも噛みつかんばかりに黒田を睨めつける。
社長が平静を欠く態度に宥めていう。「少しは落ち着け、みっともないぞ」。
そう言われて、右往左往してから落ち着きを取り戻し、「すみせん」と謝罪が出た。
「それでは、役者が揃ったようですね。座ってゆっくり珈琲でも飲みながら、井戸端会議しましょうよ」
黒田はドア付近に定着している秘書に声をかけて、珈琲を持ってきてもらう。ついでに、「君も参加しない?」微笑みかけてみた。
気味悪がるだろう、黒田はそう思っていたが、「私もいていいのなら」と物怖じせずに社長室の端で直立を決め込まれる。
「――飛露喜、お前が廣田を呼んだのか」
「はい! 重要参考人ですので」
「では、手始めに、黒田本社と最近提携を結んだ個人事業主、フリーランサーがいると聞きましたが、どのような展開を想像なさってるんです?」運ばれた珈琲に口をつけるだけで、飲みはしない。
「ほぉ、その話をどこで聞いた? 一応これはまだ社外秘なんだが」
社長のカイゼル髭が、秘書に向く。しかし、秘書は毅然と直立したまま微動だにしない。
一方の廣田は肩を揺らしている。
筆跡の鑑定結果を持って、本社へ出向いている。一応廣田もそこへ呼びつけている。
手直しを命じられてから、2ヶ月と少し。梅雨時に入り始めて、多湿の毎日にそれだけで苛立ちを募らせる。
「失礼します」ノックの後に了承を得ず入室する。それに慣れた社長は、叱ることをやめた。
「・・・・・・どうした。いつも突然来るな」
「今日は手直しの件で結果が出ましたので」
「ほう、立て直せそうか」
「結果から申し上げて――無理ですね」
「無理だと」
社長椅子に深く座る社長をよそに、黒田は鞄から決算書を取り出して説明をしだす。
「手直す必要がない会社をどう手直せばいいのかわからないですね」
「真っ赤だったじゃないか」
「いいえ? 真っ黒でしたよ? あれ、そうなると、廣田社長から見せていただいた決算書と違いますね。聞こうと思ったんですが、どうなってるんです?」
「・・・・・・廣田のところはお前と同級生らしいな」
「ええ、それとこれと何の関係が?」
「今の立場では、同等くらいなのかもしれないが、本来はお前が此処のトップに立つ予定だったんだ。そんな奴からの手直しなんて施されたくはないだろう」
あくまで平然と話す様を見て、黒田も内心舌を巻く思いで、会話を続けた。
「ああ、そういう感情的な部分を仕事に持ち出すのは、俺くらいなんじゃないですかね? 好きか嫌いかの一存で俺は黒田から1抜けしたんですし」
「――おい! 黒田!! どういうことだ!!!」社長がいるのを分かって、乱暴にドアを開け放って入室してきた廣田は、黒田の皺のないスーツの胸ぐらをつかんだ。
今にも噛みつかんばかりに黒田を睨めつける。
社長が平静を欠く態度に宥めていう。「少しは落ち着け、みっともないぞ」。
そう言われて、右往左往してから落ち着きを取り戻し、「すみせん」と謝罪が出た。
「それでは、役者が揃ったようですね。座ってゆっくり珈琲でも飲みながら、井戸端会議しましょうよ」
黒田はドア付近に定着している秘書に声をかけて、珈琲を持ってきてもらう。ついでに、「君も参加しない?」微笑みかけてみた。
気味悪がるだろう、黒田はそう思っていたが、「私もいていいのなら」と物怖じせずに社長室の端で直立を決め込まれる。
「――飛露喜、お前が廣田を呼んだのか」
「はい! 重要参考人ですので」
「では、手始めに、黒田本社と最近提携を結んだ個人事業主、フリーランサーがいると聞きましたが、どのような展開を想像なさってるんです?」運ばれた珈琲に口をつけるだけで、飲みはしない。
「ほぉ、その話をどこで聞いた? 一応これはまだ社外秘なんだが」
社長のカイゼル髭が、秘書に向く。しかし、秘書は毅然と直立したまま微動だにしない。
一方の廣田は肩を揺らしている。
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