上 下
55 / 104
1章

54――黒田――

しおりを挟む
(まだまだ知らないことたくさんあるな。まぁ、一緒にいるようになって1年とちょっとだし、無理もないんだけど、過去に執着したことなかったのが仇になるなんて思わなかった・・・・・・)

 筆跡の鑑定結果を持って、本社へ出向いている。一応廣田もそこへ呼びつけている。
 手直しを命じられてから、2ヶ月と少し。梅雨時に入り始めて、多湿の毎日にそれだけで苛立ちを募らせる。

 「失礼します」ノックの後に了承を得ず入室する。それに慣れた社長は、叱ることをやめた。

「・・・・・・どうした。いつも突然来るな」
「今日は手直しの件で結果が出ましたので」
「ほう、立て直せそうか」
「結果から申し上げて――無理ですね」
「無理だと」

 社長椅子に深く座る社長をよそに、黒田は鞄から決算書を取り出して説明をしだす。

「手直す必要がない会社をどう手直せばいいのかわからないですね」
「真っ赤だったじゃないか」
「いいえ? 真っ黒でしたよ? あれ、そうなると、廣田社長から見せていただいた決算書と違いますね。聞こうと思ったんですが、どうなってるんです?」
「・・・・・・廣田のところはお前と同級生らしいな」
「ええ、それとこれと何の関係が?」
「今の立場では、同等くらいなのかもしれないが、本来はお前が此処のトップに立つ予定だったんだ。そんな奴からの手直しなんて施されたくはないだろう」

 あくまで平然と話す様を見て、黒田も内心舌を巻く思いで、会話を続けた。

「ああ、そういう感情的な部分を仕事に持ち出すのは、俺くらいなんじゃないですかね? 好きか嫌いかの一存で俺は黒田から1抜けしたんですし」

 「――おい! 黒田!! どういうことだ!!!」社長がいるのを分かって、乱暴にドアを開け放って入室してきた廣田は、黒田の皺のないスーツの胸ぐらをつかんだ。

 今にも噛みつかんばかりに黒田を睨めつける。

 社長が平静を欠く態度に宥めていう。「少しは落ち着け、みっともないぞ」。

 そう言われて、右往左往してから落ち着きを取り戻し、「すみせん」と謝罪が出た。

「それでは、役者が揃ったようですね。座ってゆっくり珈琲でも飲みながら、井戸端会議しましょうよ」

 黒田はドア付近に定着している秘書に声をかけて、珈琲を持ってきてもらう。ついでに、「君も参加しない?」微笑みかけてみた。
 気味悪がるだろう、黒田はそう思っていたが、「私もいていいのなら」と物怖じせずに社長室の端で直立を決め込まれる。

「――飛露喜、お前が廣田を呼んだのか」
「はい! 重要参考人ですので」

 「では、手始めに、黒田本社と最近提携を結んだ個人事業主、フリーランサーがいると聞きましたが、どのような展開を想像なさってるんです?」運ばれた珈琲に口をつけるだけで、飲みはしない。

「ほぉ、その話をどこで聞いた? 一応これはまだ社外秘なんだが」

 社長のカイゼル髭が、秘書に向く。しかし、秘書は毅然と直立したまま微動だにしない。
 一方の廣田は肩を揺らしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

【完結】兄狂いなところ以外は完璧な僕の弟

ふくやまぴーす
BL
イケメンで優等生かつ兄に対してのみ変態ヤンデレ気質な弟 遥(はるか)×ノンケ弟思い兄 悠人(ゆうと) あらすじ 中学生の頃から、突然仲良しの弟遥に避けられるようになった兄の悠人。 また昔の頃に戻りたくて、4年越しの再会に喜ぶ悠人だが、弟の様子が何やらおかしくて……というお話 ※R18描写ありの話のタイトルには※マークがついてます。 序盤は無理矢理犯される系ですのでご注意を。

浮気されたと思い別れようとしたが相手がヤンデレだったやつ

らららららるらあ
BL
タイトルのまま。 初めて小説を完結させたので好奇心で投稿。 私が頭に描いているシチュエーションをそのまま文にしました。 pixivでも同じものを上げてます。 メンタル砂なので批判的な感想はごめんなさい:( ; ´꒳` ;):

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された

うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。 ※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。 ※pixivにも投稿しています

夫には言えない、俺と息子の危険な情事

あぐたまんづめ
BL
Ωだと思っていた息子が実はαで、Ωの母親(♂)と肉体関係を持つようになる家庭内不倫オメガバース。 α嫌いなβの夫に息子のことを相談できず、息子の性欲のはけ口として抱かれる主人公。夫にバレないように禁断なセックスを行っていたが、そう長くは続かず息子は自分との子供が欲しいと言ってくる。「子供を作って本当の『家族』になろう」と告げる息子に、主人公は何も言い返せず――。 昼ドラ感満載ですがハッピーエンドの予定です。 【三角家の紹介】 三角 琴(みすみ こと)…29歳。Ω。在宅ライターの元ヤンキー。口は悪いが家事はできる。キツめの黒髪美人。 三角 鷲(しゅう)…29歳。β。警察官。琴と夫婦関係。正義感が強くムードメーカー。老若男女にモテる爽やかイケメン 三角 鵠(くぐい)…15歳。Ω→α。中学三年生。真面目で優秀。二人の自慢の息子。学校では王子様と呼ばれるほどの人気者。

処理中です...