50 / 104
1章
49
しおりを挟む
「・・・・・・では、契約金をお出しするという条件でこちらに寝返っていただけないでしょうか」
(へ?! この人しつこいな! 寝返るって言い方も気に食わないし)
「――交渉ですか」
「1000万からでどうですか」
「もしかしたら、そちらに抱き込まれる可能性があって、僕の収入源が取られてしまうのであれば、僕が今稼いでいる額、いえ、それの何倍かは出して保証していただかないと」
「・・・・・・ふっかけすぎではないですか」
「そちらがどうしてもとおっしゃるので、それなりの特別価格を言ったまでです。本来ならば、口約束とはいえ、約束している方の利権なので」田淵は饒舌に攻め込む。
「それともなんですか、私人にそこまで出す価値はないと? ――たしかに僕もそう思いますよ。どうなさいますか」
「――これ以上は私の判断の範疇を越えた話ですので、一旦持ち帰らせていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、かまいませんよ」
1ラウンド目は田淵の勝利に終わったらしい。連絡先を交換しなくて済むよう、スマホは家に忘れたと付け足して、店を出た。
ほっと胸をなでおろす、一人の帰り道。そっとポケットに手を伸ばせば、偶然にしては間が悪い着信が入った。
「もしもし」
「ヒロキさん・・・・・・」
声が反芻してハウリングしているように聞こえた。
しかし、その違和感は的を得ていたようだ。
「後ろ」言われたように振り返る。
――マズイ。
とくに、この時期で、信頼を寄せている人からの裏切り行為は。
しかし、ここで狼狽えるのも得策でない気がして、立ち尽くす。
以前も余裕たっぷりに黒田を相手にしていたが、キレた黒田は、田淵の声ですら耳に届かない。
(どうしよう・・・・・・言い訳がましくなくて、交渉の話がバレないアリバイと、ご機嫌取りをする方法)
「ヒロキさんに似ている人が歩いていると思ったから、間違えないように電話かけてみたら・・・・・・黒だったなんて」
(隠しカメラを弄ったことはバレてない・・・・・・)
歩いて近づいた黒田の表情がだんだんと明るみになっていく。
「どうしたの、連絡もなしにこんなところで一人で」
「うん、僕も連絡する暇なくて・・・・・・仕事の事でちょっと出てたんだ」
「仕事?」
表情筋を動かさない黒田に、冷酷非情な雰囲気が漂いつつある。しかし、黒田は田淵を相手にしている時だけは、優しくしてくれるという自負が抜けない。
「俺に連絡の一本も寄越せない、急な仕事の用事って、田淵さんにあったっけ」
ご尤もなことを言われてぐうの音も出ない。だが、なにか言わなければならない。
ここで嘘を言ってしまえば、この場限りでも黒田は田淵を信用するだろう。
(でも・・・・・・黒田君の周りがあんな人間だらけだったのに、僕まで黒田君を欺いたら駄目だよ――)
「黒田君」
冷淡な黒田に腕を回して抱きついた。
「車で来てる?」背伸びして耳打ちする。
すると、こくり、無言で返事をする黒田。
「もし、帰宅するだけなら、ドライブに連れて行ってくれる? 僕ペーパーだから、ドライブできる人黒田君しかいないんだよ」
「・・・・・・こっちに停めてあるから、来て」
指を絡め手を引く黒田に、胸が締め付けられる。
(話を聞いてくれた・・・・・・)
(へ?! この人しつこいな! 寝返るって言い方も気に食わないし)
「――交渉ですか」
「1000万からでどうですか」
「もしかしたら、そちらに抱き込まれる可能性があって、僕の収入源が取られてしまうのであれば、僕が今稼いでいる額、いえ、それの何倍かは出して保証していただかないと」
「・・・・・・ふっかけすぎではないですか」
「そちらがどうしてもとおっしゃるので、それなりの特別価格を言ったまでです。本来ならば、口約束とはいえ、約束している方の利権なので」田淵は饒舌に攻め込む。
「それともなんですか、私人にそこまで出す価値はないと? ――たしかに僕もそう思いますよ。どうなさいますか」
「――これ以上は私の判断の範疇を越えた話ですので、一旦持ち帰らせていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、かまいませんよ」
1ラウンド目は田淵の勝利に終わったらしい。連絡先を交換しなくて済むよう、スマホは家に忘れたと付け足して、店を出た。
ほっと胸をなでおろす、一人の帰り道。そっとポケットに手を伸ばせば、偶然にしては間が悪い着信が入った。
「もしもし」
「ヒロキさん・・・・・・」
声が反芻してハウリングしているように聞こえた。
しかし、その違和感は的を得ていたようだ。
「後ろ」言われたように振り返る。
――マズイ。
とくに、この時期で、信頼を寄せている人からの裏切り行為は。
しかし、ここで狼狽えるのも得策でない気がして、立ち尽くす。
以前も余裕たっぷりに黒田を相手にしていたが、キレた黒田は、田淵の声ですら耳に届かない。
(どうしよう・・・・・・言い訳がましくなくて、交渉の話がバレないアリバイと、ご機嫌取りをする方法)
「ヒロキさんに似ている人が歩いていると思ったから、間違えないように電話かけてみたら・・・・・・黒だったなんて」
(隠しカメラを弄ったことはバレてない・・・・・・)
歩いて近づいた黒田の表情がだんだんと明るみになっていく。
「どうしたの、連絡もなしにこんなところで一人で」
「うん、僕も連絡する暇なくて・・・・・・仕事の事でちょっと出てたんだ」
「仕事?」
表情筋を動かさない黒田に、冷酷非情な雰囲気が漂いつつある。しかし、黒田は田淵を相手にしている時だけは、優しくしてくれるという自負が抜けない。
「俺に連絡の一本も寄越せない、急な仕事の用事って、田淵さんにあったっけ」
ご尤もなことを言われてぐうの音も出ない。だが、なにか言わなければならない。
ここで嘘を言ってしまえば、この場限りでも黒田は田淵を信用するだろう。
(でも・・・・・・黒田君の周りがあんな人間だらけだったのに、僕まで黒田君を欺いたら駄目だよ――)
「黒田君」
冷淡な黒田に腕を回して抱きついた。
「車で来てる?」背伸びして耳打ちする。
すると、こくり、無言で返事をする黒田。
「もし、帰宅するだけなら、ドライブに連れて行ってくれる? 僕ペーパーだから、ドライブできる人黒田君しかいないんだよ」
「・・・・・・こっちに停めてあるから、来て」
指を絡め手を引く黒田に、胸が締め付けられる。
(話を聞いてくれた・・・・・・)
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された
うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。
※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。
※pixivにも投稿しています
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
「アルファとは関わるな」
COCOmi
BL
ゲイのイケメン弟α×弟の好きな人と寝てしてしまった兄β(notクズ)
ゲイである優秀なαの弟をもつ空は、流れで弟の好きな人と性行為をしてしまう。
あるとき、それがバレてしまった空は弟を裏切った償いとして、アルファとは関わるなという制約を立てられる。しかし、その決まりには弟の思惑と執着が隠れていた---。
半ば強引に完結させたので、どんなオチでもいいという方向け。どちらかというとメリバ。
小説ページの下部に拍手設置しました!匿名コメントも送れますので感想など良かったらよろしくお願いします!
ムーンライトノベルにも掲載しています→ https://novel18.syosetu.com/n3361fx/
目を開けてこっちを向いて
COCOmi
BL
優秀で美しいヤンデレα×目を合わせるのが苦手な卑屈Ω。
目を合わせるのが苦手なΩの光は毎日やってくる優秀で美しいαの甲賀になぜか執着されている。自分には大した魅力もないのになぜ自分なのか?その理由もわからないまま、彼に誘われて断ることもできず家へ行ってしまう…。
---目を合わせたら全ては終わり。そこは奈落の底。
過激な表現や嘔吐シーンありますのでご注意ください。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる