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1章
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しおりを挟む食堂で昼飯を食い直す柳瀬は、ここでも満足感の低さに頭を抱えていた。
昨日食ったばかりだったが、「生姜焼き」を頼む。肉を放り込み米をかき込んで、咀嚼する。食堂レベルでは満足いかないのは当然か、そう思えば一条が差し出した「生姜焼き」は店で出せるレベルだと裏付けられたようで、腹立たしい。
放課後になるとさらに腹の虫の居所が悪くなる。空腹になるわ、授業中では「カースト制度」について教師が語るわで、完全に不機嫌であった。
榊が見かねて「ジョイプルで昨日の勉強会のやり直しでもしとく?」と声をかける。
「・・・・・・それは、俺の機嫌を窺ってのことじゃねぇよな」
「いやぁ、来月の中間考査まで時間ないし・・・・・・。新学期でそこそこ真面目に出席してる柳瀬なら、最初に貯金できるなって」
「どこまでいっても榊は榊だな。――たしかに、最初に貯金してると考えれば、後半学校に行かなくても進学はできるな」
「そうそう、んで、一緒にのんびりしようぜ」
鞄を持った榊は柳瀬の前の席に座り、2人以外誰も居ない教室で微笑んだ。
「ふん、そんなの本当に余裕ができてから言えよ。出席で貯金できても、テストで駄目なら元も子もないぞ」
「それは、柳瀬と一緒になんとかするから大丈夫!」
「はぁ、もう行くぞ」
柳瀬がドアに手をかけた刹那、向かい側からの力を加わったのか、少ない力でドアが開く。
今日の柳瀬の状態を鑑みれば、鉢合わせた相手が誰なのか想像に難くない。
「柳瀬、まだいたの」
「なんだ」
「今から帰るとこ?」
「・・・・・・いいや、そこの榊と寄り道する」
柳瀬が一条以外の名を口にするのは久しく、一条は奥にいる一人の男を上から下までざっと品定めをする。立場は生徒会長と一般生徒という違いはあるものの、一条と彼は同い年で、纏う雰囲気が自分より穏和であるように思う。それだけで、柳瀬の隣にいれるのは榊のような温厚で包み込めるくらいの度量がいるのだという敗北感を味わう。
それと同時に、榊に対して敵対心を抱いてしまうのは無理もない話であった。
「今日、夜うちにご飯食べにおいで。僕は放課後仕事があるから、帰りは遅くなるけど柳瀬が好きなの作ってあげるよ」
「・・・・・・行かねぇよ」
「会長さん、今日は勘弁してやってくれないかな。今日の柳瀬はちょっとばかりご機嫌斜めなのよ」
肩を抱いて柳瀬を引き寄せた榊。それを大して嫌がっていない柳瀬に、一条は目を奪われる。一条にはオプションと称して、馴れ合うような接触を嫌う。それに比べて、榊には無償でそれを許している事実が一条にとっては、自分の願望を先走らせず1から積み上げてきたものを一気に超越された気分だ。
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