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第四話:ぬりかべ。
08ぬりかべ。
しおりを挟むそう言われてハッとする。
(そうか、今まで良く倒れていたのは妖力が不足していたから……?)
倒れてばかりいるわけにもいかない。
(キス以外の方法は確か血を舐める、だっけ?)
けれども怪我を負わせたく無くてミタマと言い合いをしているのに、そんな馬鹿げた事は出来ない。
紗紀は意を決した。
(どうにでもなれだ!!)
紗紀はミタマの頬に手を伸ばし顔を勢いよく近付けた。
ゴツンと鈍い音を立てると同時にぐわんぐわんと頭に激しい痛みが生じる。
「痛ッ!!」
「いたた……まさか頭突きを食らうとは……」
お互いに額を押さえて悶絶した。
正直言ってかなり痛い。
けれどそれが何故だか笑えて来て、ミタマは肩を震わせて笑った。
「あっはは!……き、キミは相変わらずこんな時でも頭突きだなんて。ふっあはは!」
「み、ミタマさん……ごめんなさい。ああ!おでこが真っ赤に!!」
オロオロと慌ててミタマの額に手を伸ばす紗紀の腕を、ミタマが掴んだ。
そして空いてる方の手で紗紀の頬を撫でる。
「キミの額も充分に赤いよ」
ミタマはクスリと笑ってそう言うと紗紀があ、と思った時には唇が塞がれていた。
目を閉じる間も無い。
間近で見るミタマの長い純白のまつ毛が伏せられていて、それがどうしようもなく綺麗だと思った。
口を通して感じる温かい気が体を満たしていくのが分かる。
(そう言えばこの感じ、身に覚えがある)
初日も確かにそうだったけれど、いつだっただろうか。
紗紀が考えを巡らせていると唇が離れた。
そしてふと思い出す。
「そうだ今日、目覚めた時だ!」
「……え?」
「今日、目が覚める前にもさっきと同じ感覚が……」
「ああ、そうだったね。でも稽古で妖力使ったし、再補給?」
ミタマの発言に頭が真っ白になる。
(さらりとなんて事をおっしゃっているんだこの人……いや、妖は!)
「ああしないと妖力切れてるしなかなか目覚めないと思って」
「せめて許可を取ってからにしてください」
「許可取ろうにもキミ寝てるじゃない?聞こえてないと思うよ?」
(そうですけれども……!!)
「それに目覚めてから言ったらそれはそれでしばらく意識しちゃってギクシャクするだろうし」
(全てお見通し!!)
紗紀は恥ずかしさのあまり側にあった縁柱に頭突きを食らわそうとする。
その瞬間ミタマの手が後ろから回り紗紀の額に当てられた。
けれど勢いがついてて止まれない。
そのままミタマの手ごと縁柱へと叩きつけられた。
「あぁああ!!す、すみません!!ミタマさんの手が!!」
「だから無闇矢鱈に頭突きをしないって注意したよね?」
「うっ……はい。ごめんなさい」
ミタマに頬を両手で挟まれて紗紀は再度謝る。
「……なんでキミは自分を大切に出来ないんだい?」
なんで?そう問われて、考えようとしたその時、シャンと鈴の音が鳴った。
そうかと思えば辺り一面が暗闇へと様変わりする。
確かに陽も暮れて夜にはなっていたけれど、月や星はあった。
しかしそれすらも無くなって黒一色だ。
頬を挟んでいるミタマの手が唯一の安心感へと変わっていく。
(真っ暗で何も見えない)
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