知性を与えられた猫たちは何を見る?

ChamalSei

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第2章 境界線の向こう側

知性を与えられた猫たちは何を見る? 第33話

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車に戻った彼らを、三木はヒーヒー笑いながら迎えた。
私も緊張が解け、先ほどまでの彼らの様子に思わず笑ってしまう。

「茶丸のあの様子ったら・・・」

「ロボットの振りをするのは簡単じゃなかったんだからね」

彼らがそんなことを口々に話すのを聞きながら、私は、車の運転を三木に任せて、さっそくセイくんが入手したデータを確認し始めた。

人工生命とAIを融合した新たなAIに関する研究内容がほとんどだった。そしてその中の設計図にはあの金属片の写真が入っている。やはり、秋月の研究はあの金属片に関わりがあったのだ。つまりそれは、秋月の研究がトラグネスと関りがあるという動かぬ証拠でもあった。

「トラグネスはこれを使って何をしようとしているのかしら?」

「ちょっと複雑になってきたな。今までわかったことを整理してみよう。」

「ええ。まず、彼らが電力会社で電気エネルギーを転送しようとしていた、これは紛れもない事実よね。そしてそこで、あの金属片を見つけた。」

「あれには、地球上にない合金が使われている、つまりトラグネスに関するものとみていい」
その時、コタローが口を挟む。

「律佳さん、実は、今日、あの開発ルームで、秋月さんのデスクの引き出しからこれを見つけました。」

そう言って見せられたのは、またしてもあの金属片だった。コタローからそれを受け取り、目を近づけて確かめた。複雑な模様が午後の光の中で鈍く異様に光る。

「3つ目の金属片か・・・。これの写真がネクサーク社の外部協力者である秋月のAIの研究の中にあった。そしてネクサーク社のAIチップが使われているロボットの暴走。こうなってくると、おそらく、秋月さんはクロだな。」

三木が呟く。

「でもわからないのは、ロボットの暴走なの。暴走の内容は、電気エネルギーの無駄を調べているロボット、電気エネルギーの消費パターンのデータ削除を行っていたロボット・・・。いったい、何のためにロボットはそんなことをしているの?」

茶丸は話を聞いているのかいないのか、後部座席のシートで毛づくろいにいそしんでいる。一方、セイくんは、難しい顔をして秋月のメールを読んでいた。
「律佳さん」

コタローがそこで神妙に言い出した。

「私はAIです。今、律佳さんたちが話した内容から考えられる可能性をあげることができます。」

コタローは続ける。

「トラグネスは電気エネルギーの転送を行っていました。電気エネルギーを必要としている彼等は、おそらく今後も同じ計画をしているでしょう。そして、その計画には、効率を上げることが課題になります。吸い上げるポイントはどこが最も効率的でしょうか?それは時間帯によっても異なってきます。張りめぐらされた電力網には、常に一定の電気が流れているわけではありません。時間帯によっても異なります。そのために電気の消費パターンを調べる必要があります。」

「それで消費パターン・・・でも待って。ロボットの暴走のなかには無駄な電気の消費を調べているものがあったけど・・・」

「はい。おそらくですが…トラグネスは、人間が使っている電気の中で無駄に消費されている電気を、常時吸い上げている可能性があります。」

「え?この間みたいに転送装置で定期的にではなくて?」

「はい。現在既に行われているのか、もしくは今後の計画なのかはわかりませんが、待機電力など、家庭内でも無駄に消費されている電気があるのはご存知でしょう。トラグネスは人類に悟られないよう、これを吸い上げている可能性があります。」

「でも、その待機電力って、微量なんじゃないの?」

「無駄に消費されている電気は家庭だけではありません。例えば、火力発電では60%~70%、原子力発電所でも60%くらいのエネルギーが熱として放出されています。」

「そんなに?!」

「そこにトラグネスは目をつけたのかもしれません」

「コタロー、すごいなあ!」

茶丸が素直に感心する。
その晩、私達はこれまでの調査結果をジョンに報告した。同時にコタローが見つけた第3の金属片も見せるとジョンがそれをスキャンした。

「実は、ジョン、言い忘れてたんだけど、これは私たちが見つけた3つ目の金属片なの。」

私は、以前にカラスの巣からも同じものを見つけていたことを話した。

「それが本当ならば、これはかなりの数が出回っている可能性があるな」

淡く青い光の中で、ジョンの声が響く。

「つまり、これは、多く量産されて使われるものであると想像できる。これについては、先日解析したものの、トラグネスの技術であるというほかは私達にはまだわからない。が、今回の君たちの活躍によって、トラグネスの目的が明らかになってきた。でもまだ不十分だ。特に、AIの開発だ。それが今後、暴走を目的としているのか、それについても注意を払う必要がある」

私達は頷く。
「あと、今、まだわかっていないのが、データセンターで見つけたファイルにあった『T-SN-032』という文字列・・・」

セイくんが言う。

「そう、これが何なのかがわからないの。三木、あなた、思い当たりない?」

「わからんな。SN・・・元素記号か?」

「イニシャル?」

皆、口々に言う。
「地名の略語?」

誰かがそこまで言ったとき、何かが頭の中ではじけた。

「確かに、場所を表すかも!SはSouthを表すものかもしれないし。私は、これは何かにつけられたIDのように見えるの。そしてそれは場所なのかも。データセンター内に使われているデータベースでこれを固有IDとして使っている可能性がある。」

私がそう言うと、セイくんとコタローが調べ始めた。
インターネット上には見つからなかったが、セイくんはいつものように小さな前足でデータセンターのデータベースをハッキングしていく。

「あ、これだ!長塚変電所!これだね!この変電所につけられたIDだ。場所は・・・」

彼が示す場所を確認する。

「これは、先日得られた消費パターンに出てきた場所から遠くありません。そして・・・今日私が車の中で話したトラグネスの電気エネルギーの吸い上げについてですが、効率的に吸い上げるためにもう一つの方法があります。」

コタローが続ける。

「つまり、それは流れを変えることです。」

「流れを変えてどうするんだ?」

三木が訪ねる。

「流れている水路をイメージしてみてください。あるポイントで水を沢山吸い上げるためには、他のポイントをせき止めるという方法もあります」

「つまりこの記号が表す変電所の制御装置を操作して、エネルギーの流れを変えようとしてるのかもしれないってことね?」

私たちは黙り込んだ。
と、その時

「それ、ひょっとしたら・・・」

セイくんが沈黙を破った。

「何かわかるの?」

「ううん・・・はっきりとはわかんないんだけど、秋月さんのメールの中で、次の計画を示唆するようなものがあったんだ。詳しい内容までは書かれてないけど、その日以降はもう少し、改善されるみたいな内容だった。それに、そのメール、パスワードかかっていて、相手も社内でもなく、どこかの企業でもなく、個人名で・・・メールアドレスのメールサーバーは匿名性の高いサービスを利用していることがわかる・・」

「それ、見せて!」

そのメールの内容は

「『今、不充分なリソースは6月28日の計画を実行することで改善される予定となっています。それ以降は安心して研究を進めていただけるでしょう・・』。確かにこれだけでは、はっきりとはわからないけど、他に糸口が見つからない今、この日に長塚変電所を見張るしかないわね。」
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