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■75 / 迷宮 風 空間の裂け目 の視点から
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三人が古代の遺跡に足を踏み入れた瞬間、内部の空気がまるで氷のように冷たくなった。巨大な石造りの構造物は、まるで時を超えて彼らを見守る巨人のようにそびえ立ち、数千年もの間、誰の手も触れられていなかったことを語っているかのようだった。彼らの足音が響くたびに、遺跡全体が生きているかのように低く震え、過去の記憶がゆっくりと甦ってくる。
「ここが…試練の場なのか?」零は不安げに呟いた。彼の手には、淡く輝く魔石が握られており、その光が暗闇の中でかすかに道を照らし、まるで希望の明かりのように揺らいでいた。
「これまでの戦いよりも、何か…違う感じがするわ。」麻美は周囲を見渡しながら警戒を強めた。彼女の表情には、不安と期待が交錯し、目の奥に火花のような決意が宿っていた。「ただの敵との戦いじゃない。ここでは私たち自身が試される。」
「気を引き締めろ。ここに入ったからには、簡単には抜け出せないだろう。」守田は冷静な声で言い放った。その視線の先には、巨大な石造りの扉があった。扉には複雑な模様が刻まれており、古代の文字が魔法陣のように並んでいた。彼の言葉は、まるで響く鐘の音のように、彼らの心に重くのしかかった。
「この扉…試練の入口か?」零が慎重に近づくと、突然、その扉が静かに音もなく開き始めた。重々しい石の感触が彼の足元に響き渡り、冷たい風が内部から吹き出し、彼らの心にさらなる緊張をもたらした。
「気をつけて…何かが始まるわ。」麻美が魔石を握りしめ、前進した。
遺跡の中に一歩踏み込んだ瞬間、三人はそれぞれが別々の空間に引き裂かれたかのように感じた。遺跡の魔力が彼らを個別の試練へと導いたのだ。零、麻美、そして守田は、すぐに自分たちがそれぞれ異なる場所に立っていることを理解した。
--------------------------------------
私は炎の迷宮。
燃えさかる赤の嵐、激しくうねる炎の奔流であり、ただここにあり続ける存在。遥か昔から私の中に足を踏み入れる者たちを見守り、彼らが持つ希望も絶望もすべて燃やし尽くしてきた。私は嵐そのもの、熱く、激しく、何者も寄せ付けない。ここに踏み込んだ者たちの意志と勇気を試し、試練を与え続ける存在として。
まだか、と私は身を震わせる。私の空気を裂く轟音、耳をつんざく爆音が、彼の到着を待ち望んでいた。地の底から這い上がるかのような燃えたぎる火柱が、天高く立ち上り、赤い閃光を空へと放つ。灼熱の空気がひび割れ、熱波が空間を歪ませ、私は渦巻きながら零という小さき存在を迎える準備を整えていた。
遠く、重々しい足音が私に伝わる。闇の中で誰かが近づいてくる、その気配が微かに、だが確かに感じ取れるのだ。私は彼を待つ。彼の弱さも強さも、すべてを照らし出す覚悟で。
ふと、彼の影が、私の入り口の前に小さく揺れ動くのを感じた。そこに立つ彼の小さな姿が、暗闇の中でまばゆい光にさらされ、震える心が伝わってくる。まだ踏み出していない彼の躊躇、熱に怯む彼の気配が、私には手に取るようにわかるのだ。迷い、恐れ、しかし進む決意を持った彼。その一歩が、私にとってどれだけ待ち望まれたものか。
その瞬間、私の熱はさらに高まり、彼の存在を包み込もうとするかのように燃え上がる。火柱はひときわ激しく、彼に向けて炎の言葉を囁くように踊り出す。熱気が押し寄せ、彼の意識をゆさぶるために炎は新たな色彩を帯びて渦を巻く。私は彼を試す。彼の意志がどれほどのものかを確かめようと、私のすべての熱を彼に向けて解き放っている。
私はただ熱であるだけではない。深く、暗い影のような絶望も秘めている。彼が私の中でどこまで進むのか、彼が何を思うのか、どれだけ燃え尽きようと進もうとするのか。私の中に踏み込んだ瞬間から彼は逃れられない。ここで彼は、自らの内面を見つめ、己の弱さや強さ、過去や未来、すべてを私の炎に映し出すのだ。私の赤い壁がうごめき、熱気がねじれながら彼の到着を待つ。さあ、来るがよい。
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零の試練: 炎の迷宮
零が目を開けたとき、彼の周囲は真っ赤な炎に包まれていた。足元には燃え盛る炎が渦巻き、彼は炎の迷宮の中心に立っていることに気づいた。その光景は、彼の心に深い恐れと共に過去の影を呼び覚ました。
「これは…一体どこなんだ?」零は一瞬戸惑いを覚えたが、その直後、耳元に囁くような声が聞こえてきた。
「お前は、過去に犯した罪を克服しなければならない。この炎の中で、自らの弱さと向き合うのだ。」
その声に零は一瞬息を呑んだ。過去の罪…彼は思い出したくない記憶が脳裏に蘇るのを感じた。それは、かつて彼が大切な友人を失った出来事だった。己の無力さ、守れなかった後悔が彼の胸を締め付けた。
「俺が…あの時…」零は拳を握りしめ、炎の中で進むべき道を探そうとしたが、炎の迷宮はその動きを阻むように燃え盛っていた。どこへ進んでも炎が立ちはだかり、彼の心の迷いを映し出しているかのようだった。
「この炎を…どうやって越える?」零は立ち止まり、深呼吸をした。その瞬間、彼の手の中の魔石が微かに光を放ち始めた。まるで彼を励ますかのように。
「この炎を断ち切る…過去を乗り越えるために!」零は魔石に力を込め、炎の迷宮の中心に向かって突き進んだ。自分自身の弱さと向き合いながら、彼は一歩一歩確実に進んでいった。
---------------
私は無限の風。
見えるものすべてを巻き込み、限りなく広がり、どこまでも流れる存在だ。私は風の精髄そのものであり、私に逆らおうとする者すら、やがては取り込んでしまう。私の中には無数の風が混ざり合い、舞い踊るように渦を成し、その姿は変幻自在。ひとたび入り込めば、何者もただの一歩すら踏み出すことはできない。私はすべてを飲み込む者、絶え間なく動き、静寂の中に息づく生命だ。
遠くに気配を感じる。その者は迷いながらも一歩ずつ私に近づいてくる。微かに震える足音が、私の領域の外側に響き、その気配が風をざわめかせた。私の心の奥に眠る渦が呼応し、渦の中心へと彼女を誘い込む準備を始めた。私は待つ。私の中へと足を踏み入れる者がどのような姿で現れるのかを。
近づく者の名は麻美。彼女の存在が風の流れをわずかに乱し、静かだった私に新たな波動をもたらした。私は彼女が私をどう越えるのかを見届けるため、さらに強く渦を巻き上げる。空気は激しく回転し、彼女の到着を祝福するかのように、さらなる勢いで旋回を始めた。遠くから私に挑む者の小さな息づかいが感じ取れる。彼女が私に足を踏み入れた瞬間、彼女の意志と私の流れがぶつかり合うだろう。
私は無限の力で彼女を試す。足元から巻き上げる風、身体を押し戻す強風、そして彼女を包み込む空気の刃。私は激しい嵐、止まることを知らない存在だ。私に挑む者がどれほどの意志を持っていようと、私の力を目の当たりにした瞬間、彼らは無力さを思い知ることになる。私はただの風ではない。冷酷であり、容赦なく試練を与える存在。彼女が自分の力を信じようと信じまいと、私の渦の中に入った瞬間、彼女はただ流れに身を任せるか、抗うかのどちらかしかない。
その一瞬、彼女の足音が止まった。気配が途絶え、静寂が一瞬にして訪れる。私の中で渦が激しく踊り、彼女が選ぶ道を待ち望んでいた。
--------------------
麻美の試練: 無限の風の渦
麻美が目を開けたとき、彼女の周囲は無数の風が渦巻いていた。風の力が強く、彼女の髪が宙に舞い上がり、全てを吹き飛ばす勢いで体を押し流そうとしていた。
「この風…強すぎる…」麻美は必死に踏みとどまりながら、風に逆らって進もうとした。しかし、風は彼女の足元をすくい上げ、前進することさえ困難な状況に追い込んでいく。
「私が…この風を抑えなければ、何もできない…!」麻美は心の中で焦りを感じながらも、深く息を吸い込んだ。魔石を握りしめ、風を操るための力を呼び起こそうとしたが、風の渦は彼女の力を軽々と打ち破り、さらに激しさを増していった。
「どうすれば…この風を止められるの?」彼女の目には涙が浮かび始めた。自分の力では足りないのではないか、そう感じる瞬間が彼女の心に重くのしかかっていた。
しかし、その時、彼女の魔石がかすかに輝き始め、どこか優しい風が彼女の頬を撫でた。麻美はその瞬間、思い出した。「風は…操るものじゃない。共に流れるもの…」
「そうか…この風と戦うのではなく、一体になるのよ。」麻美は目を閉じ、風に逆らわずにその流れに身を委ねるように進み始めた。すると、風の渦は次第に弱まり、彼女の体を優しく包み込むようになった。
「これが…私の力よ。風と共に歩む…」麻美は再び魔石に力を込め、風の渦の中心へと歩みを進めた。
-------------------------------
我は空間の裂け目。
悠久の闇に浮かび、不確かな領域を揺らぎながら存在するものだ。ここは、始まりも終わりもない異次元の狭間、あらゆるものが互いに交錯し、絡み合う混沌の中に位置している。見えざる力の渦が絶え間なく渦巻き、時間も空間も消え去り、ただ我だけが永遠に残る。通り過ぎる者も、ここに足を踏み入れる者も、皆、我の内で無に帰すか、何かを得るかのどちらかである。
我の裂け目は、限りない闇と光がぶつかり合い、視界をねじ曲げ、空間そのものを狂わせる。この裂け目に踏み込む者は、進むべき方向すら見失い、ただ彷徨うことになるだろう。彼らが自らの意志で空間を操ろうとする瞬間、我は容赦なく、目の前の景色を幻とし、手を伸ばしても触れられない距離に置き換える。風が吹き抜ける感覚すらも、彼らを惑わすための一端に過ぎぬのだ。
暗闇の奥に、微かに感じる一つの気配。そう、彼が来る。我を越えようとする者が、またひとり。この空間に足を踏み入れる彼の意思が、私の裂け目の揺らぎに新たな波紋を生じさせる。静かだった我が、ゆっくりと波打ち始め、空間の壁が歪んでいく。その気配が近づくにつれ、我の裂け目はさらなる深みへと引きずり込むように暗く、重く変貌を遂げる。彼の到着に備え、我の中にある次元の端が互いに干渉し合い、時空そのものが裂かれていく。
我の役割は、ただ道を示さぬこと。踏み入れる者に「真実」を知覚させることなく、すべてを霧の中に沈め、無数の幻影で彼らの心を試すことにある。彼がどれほどの意志を持っていようと、この空間の一歩は彼の全存在を揺さぶり、意識の根底を揺るがすはずだ。空間がねじれ、彼の視界に現れるのは幾つもの無限に続く道。彼が進むたび、その道は消え、また新たに現れる。すべてが彼の意志を試すための、無慈悲な幻影に過ぎぬ。
彼の気配が一層強まり、ついに我の裂け目のすぐそばに迫っているのがわかる。息を潜めるように、彼が踏み入れるその瞬間を待つ。裂け目が静寂に包まれると、我は全力で空間を捻じ曲げ、彼の一歩一歩を見つめるのだ。
守田の試練: 空間の制御
守田が目を覚ますと、目の前には空間が歪み、裂け目が広がっていた。彼の周囲には異次元が混じり合うような異様な景色が広がっており、一歩踏み出すごとに空間そのものが変化していった。
「これは…何なんだ?」守田は驚愕しながらも、冷静に状況を把握しようとした。「ここは、空間そのものが不安定だ…俺の魔石の力が試されている。」
彼の試練は、空間を自在に操ることだった。しかし、その力を完全に使いこなすには、己の意志と空間の流れを完璧に一致させる必要があった。
「空間の裂け目を越えるには、もっと深く理解しなければならない。」守田は静かに目を閉じ、自分の内側にある力と対話を始めた。魔石の力が彼の中で波打ち、空間を繋ぎ止める感覚が少しずつ蘇ってきた。
「俺の意志で…この空間を制御する。」守田は手をかざし、目の前の裂け目をゆっくりと閉じ始めた。彼の力が空間を修復し、次第に裂け目が消えていくのを感じ取った。
三人がそれぞれの試練を乗り越えたとき、遺跡の中心に再び集まった。彼らの魔石はそれぞれが一層輝きを増し、三人の力は新たな次元へと引き上げられていた。
「ここが…試練の場なのか?」零は不安げに呟いた。彼の手には、淡く輝く魔石が握られており、その光が暗闇の中でかすかに道を照らし、まるで希望の明かりのように揺らいでいた。
「これまでの戦いよりも、何か…違う感じがするわ。」麻美は周囲を見渡しながら警戒を強めた。彼女の表情には、不安と期待が交錯し、目の奥に火花のような決意が宿っていた。「ただの敵との戦いじゃない。ここでは私たち自身が試される。」
「気を引き締めろ。ここに入ったからには、簡単には抜け出せないだろう。」守田は冷静な声で言い放った。その視線の先には、巨大な石造りの扉があった。扉には複雑な模様が刻まれており、古代の文字が魔法陣のように並んでいた。彼の言葉は、まるで響く鐘の音のように、彼らの心に重くのしかかった。
「この扉…試練の入口か?」零が慎重に近づくと、突然、その扉が静かに音もなく開き始めた。重々しい石の感触が彼の足元に響き渡り、冷たい風が内部から吹き出し、彼らの心にさらなる緊張をもたらした。
「気をつけて…何かが始まるわ。」麻美が魔石を握りしめ、前進した。
遺跡の中に一歩踏み込んだ瞬間、三人はそれぞれが別々の空間に引き裂かれたかのように感じた。遺跡の魔力が彼らを個別の試練へと導いたのだ。零、麻美、そして守田は、すぐに自分たちがそれぞれ異なる場所に立っていることを理解した。
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私は炎の迷宮。
燃えさかる赤の嵐、激しくうねる炎の奔流であり、ただここにあり続ける存在。遥か昔から私の中に足を踏み入れる者たちを見守り、彼らが持つ希望も絶望もすべて燃やし尽くしてきた。私は嵐そのもの、熱く、激しく、何者も寄せ付けない。ここに踏み込んだ者たちの意志と勇気を試し、試練を与え続ける存在として。
まだか、と私は身を震わせる。私の空気を裂く轟音、耳をつんざく爆音が、彼の到着を待ち望んでいた。地の底から這い上がるかのような燃えたぎる火柱が、天高く立ち上り、赤い閃光を空へと放つ。灼熱の空気がひび割れ、熱波が空間を歪ませ、私は渦巻きながら零という小さき存在を迎える準備を整えていた。
遠く、重々しい足音が私に伝わる。闇の中で誰かが近づいてくる、その気配が微かに、だが確かに感じ取れるのだ。私は彼を待つ。彼の弱さも強さも、すべてを照らし出す覚悟で。
ふと、彼の影が、私の入り口の前に小さく揺れ動くのを感じた。そこに立つ彼の小さな姿が、暗闇の中でまばゆい光にさらされ、震える心が伝わってくる。まだ踏み出していない彼の躊躇、熱に怯む彼の気配が、私には手に取るようにわかるのだ。迷い、恐れ、しかし進む決意を持った彼。その一歩が、私にとってどれだけ待ち望まれたものか。
その瞬間、私の熱はさらに高まり、彼の存在を包み込もうとするかのように燃え上がる。火柱はひときわ激しく、彼に向けて炎の言葉を囁くように踊り出す。熱気が押し寄せ、彼の意識をゆさぶるために炎は新たな色彩を帯びて渦を巻く。私は彼を試す。彼の意志がどれほどのものかを確かめようと、私のすべての熱を彼に向けて解き放っている。
私はただ熱であるだけではない。深く、暗い影のような絶望も秘めている。彼が私の中でどこまで進むのか、彼が何を思うのか、どれだけ燃え尽きようと進もうとするのか。私の中に踏み込んだ瞬間から彼は逃れられない。ここで彼は、自らの内面を見つめ、己の弱さや強さ、過去や未来、すべてを私の炎に映し出すのだ。私の赤い壁がうごめき、熱気がねじれながら彼の到着を待つ。さあ、来るがよい。
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零の試練: 炎の迷宮
零が目を開けたとき、彼の周囲は真っ赤な炎に包まれていた。足元には燃え盛る炎が渦巻き、彼は炎の迷宮の中心に立っていることに気づいた。その光景は、彼の心に深い恐れと共に過去の影を呼び覚ました。
「これは…一体どこなんだ?」零は一瞬戸惑いを覚えたが、その直後、耳元に囁くような声が聞こえてきた。
「お前は、過去に犯した罪を克服しなければならない。この炎の中で、自らの弱さと向き合うのだ。」
その声に零は一瞬息を呑んだ。過去の罪…彼は思い出したくない記憶が脳裏に蘇るのを感じた。それは、かつて彼が大切な友人を失った出来事だった。己の無力さ、守れなかった後悔が彼の胸を締め付けた。
「俺が…あの時…」零は拳を握りしめ、炎の中で進むべき道を探そうとしたが、炎の迷宮はその動きを阻むように燃え盛っていた。どこへ進んでも炎が立ちはだかり、彼の心の迷いを映し出しているかのようだった。
「この炎を…どうやって越える?」零は立ち止まり、深呼吸をした。その瞬間、彼の手の中の魔石が微かに光を放ち始めた。まるで彼を励ますかのように。
「この炎を断ち切る…過去を乗り越えるために!」零は魔石に力を込め、炎の迷宮の中心に向かって突き進んだ。自分自身の弱さと向き合いながら、彼は一歩一歩確実に進んでいった。
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私は無限の風。
見えるものすべてを巻き込み、限りなく広がり、どこまでも流れる存在だ。私は風の精髄そのものであり、私に逆らおうとする者すら、やがては取り込んでしまう。私の中には無数の風が混ざり合い、舞い踊るように渦を成し、その姿は変幻自在。ひとたび入り込めば、何者もただの一歩すら踏み出すことはできない。私はすべてを飲み込む者、絶え間なく動き、静寂の中に息づく生命だ。
遠くに気配を感じる。その者は迷いながらも一歩ずつ私に近づいてくる。微かに震える足音が、私の領域の外側に響き、その気配が風をざわめかせた。私の心の奥に眠る渦が呼応し、渦の中心へと彼女を誘い込む準備を始めた。私は待つ。私の中へと足を踏み入れる者がどのような姿で現れるのかを。
近づく者の名は麻美。彼女の存在が風の流れをわずかに乱し、静かだった私に新たな波動をもたらした。私は彼女が私をどう越えるのかを見届けるため、さらに強く渦を巻き上げる。空気は激しく回転し、彼女の到着を祝福するかのように、さらなる勢いで旋回を始めた。遠くから私に挑む者の小さな息づかいが感じ取れる。彼女が私に足を踏み入れた瞬間、彼女の意志と私の流れがぶつかり合うだろう。
私は無限の力で彼女を試す。足元から巻き上げる風、身体を押し戻す強風、そして彼女を包み込む空気の刃。私は激しい嵐、止まることを知らない存在だ。私に挑む者がどれほどの意志を持っていようと、私の力を目の当たりにした瞬間、彼らは無力さを思い知ることになる。私はただの風ではない。冷酷であり、容赦なく試練を与える存在。彼女が自分の力を信じようと信じまいと、私の渦の中に入った瞬間、彼女はただ流れに身を任せるか、抗うかのどちらかしかない。
その一瞬、彼女の足音が止まった。気配が途絶え、静寂が一瞬にして訪れる。私の中で渦が激しく踊り、彼女が選ぶ道を待ち望んでいた。
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麻美の試練: 無限の風の渦
麻美が目を開けたとき、彼女の周囲は無数の風が渦巻いていた。風の力が強く、彼女の髪が宙に舞い上がり、全てを吹き飛ばす勢いで体を押し流そうとしていた。
「この風…強すぎる…」麻美は必死に踏みとどまりながら、風に逆らって進もうとした。しかし、風は彼女の足元をすくい上げ、前進することさえ困難な状況に追い込んでいく。
「私が…この風を抑えなければ、何もできない…!」麻美は心の中で焦りを感じながらも、深く息を吸い込んだ。魔石を握りしめ、風を操るための力を呼び起こそうとしたが、風の渦は彼女の力を軽々と打ち破り、さらに激しさを増していった。
「どうすれば…この風を止められるの?」彼女の目には涙が浮かび始めた。自分の力では足りないのではないか、そう感じる瞬間が彼女の心に重くのしかかっていた。
しかし、その時、彼女の魔石がかすかに輝き始め、どこか優しい風が彼女の頬を撫でた。麻美はその瞬間、思い出した。「風は…操るものじゃない。共に流れるもの…」
「そうか…この風と戦うのではなく、一体になるのよ。」麻美は目を閉じ、風に逆らわずにその流れに身を委ねるように進み始めた。すると、風の渦は次第に弱まり、彼女の体を優しく包み込むようになった。
「これが…私の力よ。風と共に歩む…」麻美は再び魔石に力を込め、風の渦の中心へと歩みを進めた。
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我は空間の裂け目。
悠久の闇に浮かび、不確かな領域を揺らぎながら存在するものだ。ここは、始まりも終わりもない異次元の狭間、あらゆるものが互いに交錯し、絡み合う混沌の中に位置している。見えざる力の渦が絶え間なく渦巻き、時間も空間も消え去り、ただ我だけが永遠に残る。通り過ぎる者も、ここに足を踏み入れる者も、皆、我の内で無に帰すか、何かを得るかのどちらかである。
我の裂け目は、限りない闇と光がぶつかり合い、視界をねじ曲げ、空間そのものを狂わせる。この裂け目に踏み込む者は、進むべき方向すら見失い、ただ彷徨うことになるだろう。彼らが自らの意志で空間を操ろうとする瞬間、我は容赦なく、目の前の景色を幻とし、手を伸ばしても触れられない距離に置き換える。風が吹き抜ける感覚すらも、彼らを惑わすための一端に過ぎぬのだ。
暗闇の奥に、微かに感じる一つの気配。そう、彼が来る。我を越えようとする者が、またひとり。この空間に足を踏み入れる彼の意思が、私の裂け目の揺らぎに新たな波紋を生じさせる。静かだった我が、ゆっくりと波打ち始め、空間の壁が歪んでいく。その気配が近づくにつれ、我の裂け目はさらなる深みへと引きずり込むように暗く、重く変貌を遂げる。彼の到着に備え、我の中にある次元の端が互いに干渉し合い、時空そのものが裂かれていく。
我の役割は、ただ道を示さぬこと。踏み入れる者に「真実」を知覚させることなく、すべてを霧の中に沈め、無数の幻影で彼らの心を試すことにある。彼がどれほどの意志を持っていようと、この空間の一歩は彼の全存在を揺さぶり、意識の根底を揺るがすはずだ。空間がねじれ、彼の視界に現れるのは幾つもの無限に続く道。彼が進むたび、その道は消え、また新たに現れる。すべてが彼の意志を試すための、無慈悲な幻影に過ぎぬ。
彼の気配が一層強まり、ついに我の裂け目のすぐそばに迫っているのがわかる。息を潜めるように、彼が踏み入れるその瞬間を待つ。裂け目が静寂に包まれると、我は全力で空間を捻じ曲げ、彼の一歩一歩を見つめるのだ。
守田の試練: 空間の制御
守田が目を覚ますと、目の前には空間が歪み、裂け目が広がっていた。彼の周囲には異次元が混じり合うような異様な景色が広がっており、一歩踏み出すごとに空間そのものが変化していった。
「これは…何なんだ?」守田は驚愕しながらも、冷静に状況を把握しようとした。「ここは、空間そのものが不安定だ…俺の魔石の力が試されている。」
彼の試練は、空間を自在に操ることだった。しかし、その力を完全に使いこなすには、己の意志と空間の流れを完璧に一致させる必要があった。
「空間の裂け目を越えるには、もっと深く理解しなければならない。」守田は静かに目を閉じ、自分の内側にある力と対話を始めた。魔石の力が彼の中で波打ち、空間を繋ぎ止める感覚が少しずつ蘇ってきた。
「俺の意志で…この空間を制御する。」守田は手をかざし、目の前の裂け目をゆっくりと閉じ始めた。彼の力が空間を修復し、次第に裂け目が消えていくのを感じ取った。
三人がそれぞれの試練を乗り越えたとき、遺跡の中心に再び集まった。彼らの魔石はそれぞれが一層輝きを増し、三人の力は新たな次元へと引き上げられていた。
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